菊丸が手塚を振る話です。

それ以上も以下もなく、ただそれだけです。

救いはなく、寄りを戻す事もありません。

菊に愛がなく、結構酷い子です。

嫌な方はここで逃げちゃってください。

読んでみるかなーって方は、レッツスクロール。























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Wake up ー at:E.K
















きっかけはきっと単純で、なんでもない言葉の応酬だった。

中学を卒業してからずいぶん経った、ある日。

手塚は相変わらずテニス漬けな毎日で、俺は俺で大学で忙しく駆け回ってて。

やっと何ヶ月かぶりに会えるって日の前日、夜の電話。

俺は、たまにある不機嫌、な時で、手塚も珍しく機嫌が悪くて。

始めはいつも通りに話してたのに、いつの間にか二人とも喧嘩腰になって行って、

気付いたら、携帯の画面が通話の終了を告げていた。

そのまま、寝て、起きて、手塚との約束をすっぽかして、

俺は友達に誘われるまま、飲み会という名の合コンに行った。

きっと、手塚はこんな日でも、約束の場所にいるに違いないって、わかってる。

それでも、それでも、行きたくなくて、会いたくなくて。


「菊丸くぅん…一緒に、抜けない?」


その誘いに、俺は、乗った。








そうして俺は、今更ながら手塚以外知らなかったことに、

気が付いた。








その夜はホテルで少し寝て、

朝方近くに一人暮らしをしているアパートに帰ってきた。

錆び付いた鉄製の階段を上がりきって、

俺の部屋の前に立っている姿を見つけて、足を止める。


「手塚。」

「…。」


手塚は何も言わず、顔だけを俺に向けていた。

俺は少し離れた場所に立っている手塚の全身を不躾な視線で見つめる。

どう見たって、男、だよな。

比べるまでもなく…そもそも俺が手塚に抱かれる側だから、

比べる事自体がが間違ってるんだけど、比べるまでもなく、手塚は男だった。

ジロジロと見つめる俺の視線から目をそらした直後、手塚は小さく息をのんだ。

ゆっくりと、おそるおそる、手塚は俺に近づいてくる。

目の前に立った手塚は、小さく震える指を俺に伸ばした。

首筋に、赤い痕。

俺はその痕に気付いていたけれど、何も言わずに手塚の動作を見守る。

指先が痕に触れた瞬間、肌が粟立って、鳥肌が立った。

けれどそれは、快楽からは程遠い。

手塚の震える指がその痕を撫でても、肌は粟立ったままだった。

俺に触れていた手塚の手を掴んで、遠ざけて、放す。


「手塚。」


ぎゅうと眉間に皺を寄せたまま、俺は抑揚のない声で彼を呼んだ。

なんてことない、ただ名前を呼んだだけだけれど、手塚は気が付いたのだろう。

顔が、サア、と青くなった。


「俺やっぱ、」


粟立ったままの肌が告げるのは、

紛れもない、





「女の子がいい。」





嫌悪。















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Wake up ー at:K.T
















全てはきっと、タイミングの問題だった。

俺は珍しく機嫌が悪くて、菊丸も不機嫌で。

何カ月ぶりかに会えるという日の前夜、電話口で喧嘩になった。

喧嘩というものは初めてではないし、もっと本格的な喧嘩だってしたことがある。

これくらいの喧嘩で壊れるような浅い関係ではない、と、

俺はさほど深刻には考えていなかった。けれど。

約束のその日、何時間待っても、

菊丸が約束の場所に姿を現すことはなかった。

約束は、昼の1時。

気付けばとっくに日は沈み、辺りの店が閉まり始めている。

何度もかけた携帯は一度として繋がることなく、

ただ電子化された抑揚のない日本語が流れてくるだけだった。


「菊丸…?」


事故の類ではないことは、連絡のないことで知れたけれど、

それだけだ。

俺は急いで、菊丸の住むアパートへと向かった。








たとえ喧嘩をしていようと、

菊丸が連絡もなく約束を破ったのは、初めてだった。








菊丸が部屋へと帰ってきたのは、夜が明けて少したった頃。

結局菊丸の携帯は繋がらず連絡もないまま、時間感覚すら失いかけていた頃だった。

少し俯いたまま、カンカンと音を立てながら階段を上がりきった菊丸は、

俺に気付いて足を止めた。


「手塚。」

「…。」


俺は何も言わず、顔だけを菊丸に向けて一応の無事を確認する。

少し離れた場所に立っている俺を、菊丸はジロジロと遠慮なく見ていた。

その視線の意味が分からず、俺はただ見つめ返す。

菊丸はしばらく俺を見つめて、少し顔をしかめた。

おそらく菊丸自身は気付いていない、僅かな表情の変化。

しかめられた顔から逃れたくて視線を逸らし、

ふと目に入ったものに俺は小さく息をのんだ。

首筋に、赤い痕。

ゆっくりと、おそるおそる、菊丸に近づく。

目の前に立って、俺はその首筋に指を伸ばした。

菊丸は何も反応を返さず、この痕に気付いているのかどうかすらわからない。

目に入った指先を見て、俺は自分が小さく震えていることに気付いた。

ゆっくりと、俺の震えた指先が、菊丸の痕に、触れる。

指先が触れた瞬間、菊丸が僅かに身震いして、腕が鳥肌を立てた。

きっとそれは、快楽からは程遠い。

漂ってきた香に気付いて、目眩すら、覚える。


菊丸は、女を抱いてきたのだ。


そこでやっと俺は、菊丸は今まで誰も抱いたことがなかった事に、気が付いた。

菊丸は、触れていた俺の手を掴んで、遠ざけて、放るように離した。


「手塚。」


眉間に皺を寄せたまま、抑揚のない声で名を呼ばれ、

俺は全身から血の気が引いていくのを感じた。


「俺やっぱ、」


その先を、言わないでくれ。

その先を言われたら、俺は、





「女の子がいい。」





何も言えない。










了。