俺が押されたのは月光で。

俺が照らされたのは月影で。

俺が見つめたのは月桂で。




























月の光。




























紫から闇へと移り変わる時間。

月光は相変わらず英二の背を押す。

仲間達と別れてたどり着いたのは小さな小さな公園のブランコ。

幼い頃遊んだきりのその場所。

座って軽く揺らしてみる。

街灯の蛍光灯が切れているこの公園は、月光が明るく感じられた。

空を見上げると、月と、いつもは殆ど見えない星。


キィ…

キィ…


ブランコの接合部が音を出す。


キィ…


「手塚…。」


呼んだ名前は届かない。

大好きなあの人へは届かない。


「かんったんに言うなってんだよなー。」


生意気で可愛い後輩は、よりを戻せと言った。

自分が失恋しているにも関わらず。


「俺が、フラれたんだっての。」


ゆっくりと視界がにじんでいくのを感じて、英二はため息を付いた。

背を押す月光が冷たい。

頭を左右に振って、にじんでいく視界をはっきりさせようとするけれど上手くいかなかった。

そして、にじんだ視界の端に映った色を見て、今度こそ瞳のにじみが頬に伝う。


「かっこわりぃ…。」


白と青と少量の赤と、少し明るい茶。

その色が、あの人に見えて。

英二はブランコの揺れを止めて俯いた。

近付いてくる足音に耳だけが敏感に反応する。

どうか早く通り過ぎて。

英二はそれだけを心の中でくり返した。


「…っ英二。」


願いは通じず、足音は英二の目の前で止まる。

見慣れた靴が、俯いた視線にぼやけて映った。


呼ばれた名に、思考が止まる。

聞こえた声に、思考が止まる。


あの人の口から紡がれたそれと、あまりにも似すぎていて。


「っ手塚ぁ…。」


俯いたまま、英二はぼろぼろと涙を流す。

幻なら、早く消えて欲しい。

悪戯なら、別の所へ行って欲しい。

どうか、放っておいて欲しい。


「英二。」


無理矢理顎を掴まれて上を向かされた。

涙で見えないけれど、そこにいるのは間違いなく手塚で。

そう思った瞬間、瞼に温かい感触で。

混乱したまま、涙は止まらなくて視界は悪くなる一方で。


気付けば、手塚にしがみついて泣いていた。





どれだけ時間が経ったかわからないけれど、随分と時間が経った後。

目の前にいて自分を抱きしめている人物を確認して、英二は腕を放した。


「どしたのさ、手塚。レギュラージャージのまんまでさ。」


さっきまでの涙など嘘のように笑顔を振る舞って、手塚の肩を軽く叩く。

そんな英二を手塚は一度強く じ、と見つめると、離された英二の腕を引き寄せ

強く強く、抱きしめた。


「英二。」


もう呼ばれるはずのない名を呼ばれて、英二の肩が一度反応する。

…優しいのは知っているけれど、期待、させないで欲しい。


「手塚。」


離せ、と言いかけた言葉は、頬へのキスで無へと還る。


「もう一度、俺と付き合って貰えないだろうか。」


そして、告げられた言葉。

すぐには理解できなくて、

英二は目の前で不安そうに顔をしかめている手塚の目を見つめた。


「俺のこと、好きじゃなくなったんだろ…?」

「あぁ。」


肯定で返された問いに、傷をえぐられる。


「同情だったら、いらないよ。」


目を逸らして、はっきりとそう告げる。

本当は、同情でも何でもいい。

傍にいたい。別れたくない。やり直したい。

精一杯の強がりは、瞼へのキスで返された。


「てづっ」

「愛している、英二。」


やめろ、と言いかけた言葉は、手塚の言葉で無へと還る。


「は…?」


すぐには理解できなくて、

英二は苦しそうに自分を見つめる手塚の目を見つめた。


「俺のこと、好きじゃなくなったんだろ…?」

「あぁ。」


肯定で返された問いに、また傷をえぐられる。


「同情だったら、いらないよ。」


目を逸らしてそう言った瞬間、手塚は英二を無理矢理自分の方へ向かせた。


「英二、俺は、お前を愛している。」


きっぱりと、告げられた言葉。

なぁ、手塚。信じそうになるよ。自惚れそうになるよ。

くしゃくしゃになりそうになる顔を引き締めながら、英二は手塚の目をじっと見る。


「嘘吐きだな、お前。」

「何故。」

「好きじゃない癖に、愛してるなんておかしい。」


英二の言った言葉に少し困ったように手塚が口元をゆるめた。


頬に添えられた手が無駄に優しいとか、見つめられる瞳が柔らかいとか、


「英二。」


名前を呼ぶ声も、前と一緒過ぎて。


「英二。」


呼ばれた名前にいちいち反応する自分にも苦笑して、英二はゆっくり手を伸ばす。


もう、いいや。

つまんない意地張んの、やめよ。


驚く手塚の首に腕を絡めて英二は抱きついた。

2日も離れたわけではないのに、妙に懐かしい気がして英二は小さく笑う。


「俺のこと、愛してるんだよな?」

「あぁ。誰よりも。」

「もう、別れるなんて言わないよな。」

「あぁ。勿論だ。」





彼らを優しく照らすのは、

月光でも、月影でも、月桂でもなく、





「好きだよ、手塚。」

「あぁ。愛している、英二…。」





月の、光。





「お前を傷付けたくなかった。縛りたくなかった。」

「…バァーカ。そんな事で、俺を泣かすな。」

「英二。」

「お前の傍にいられるなら、俺はそれで良いんだよ。」


それだけで、良いんだよ。





困ったような怒ったような、そんな笑顔を照らす、光。





end.





思ったより長くなって申し訳ない感じです。意味不明だぜイエアー!!
しかも結局いつも通りーーーー!!!!笑っとけ笑っとけ!!
勝手に不安になる塚と、振り回される菊。更に追い打ちをかけられたおチビってトコでしょうか。
うわぁ、おチビと菊が可哀相で塚がヘタレですね★
月光も月影も月桂も月の光も意味合い的には全て月からの光です。
でも、微妙なニュアンスの差。なんか素敵で使いたかっただけー!!
もともとはピアノ曲から。トビュッシーの『月の光』とベートーベンの『月光』。
どちらも曲名(というか呼び名?)同じ意味なのに、雰囲気全然違う。そんな感じ。因みに月光は第1楽章で。
つーか、本当は2話だったのになぁ…。(汗)

男前のおチビちゃんが個人的に楽しかったです!!
お粗末様でした。


2004.12.09 茶瓜。