作り上げるのは途方もない時間。

崩れるのは、一瞬。




























共に築き。




























「『菊丸英二』この言葉を聞いて、

 あなたは何を思い浮かべますか?」


じゃん、と楽しそうに向けられた拳に、手塚は眉間の皺を深くする。

おそらくマイクのつもりなのだろう。

深く深くため息を付きながら眉間に寄った皺を押さえると、

答えを促すように拳を顎に押しつけられた。


「…笑顔。」

「うっわー!貧相な発想!!そんだけ?全くさぁ、どれだけ俺の恋人やってると思ってんの?

 もっとさぁ、笑顔でも色々あるじゃん。」


捲し立てるように言った『菊丸英二』本人は、部室にいるのが二人だけだというのを良いことに、

部室の机に片膝を上げて身を乗り出している。

ペチン、と軽い音を立てて菊丸の膝を叩けば、菊丸はジロリと恨めしそうな視線を手塚に向けた。


「膝を下ろせ。」

「何それ、久しぶりに会った恋人に言う台詞!?」

「昨日も一昨日も会ったと思うが。」

「何言ってんだよ。ここ一週間毎日会ってるっての。」

「…久しぶりと言ったのは誰だ。」


深く深く吐いた手塚のため息は、この恋人には効かないらしい。


「やだなー!ラブラブな恋人は例え間が1時間だって久しぶりなのだよ!」

「……………。」


誰がラブラブだ。

言いたい言葉を飲み込んで、手塚は黙秘に徹した。

付き合いきれない。

そうは思っても、口に出せばくだらない喧嘩に発展するのは目に見えているので。

ひとまず、机から降りる気のない菊丸の膝を、持っていたシャーペンで軽く刺す。


「ギャ!!」

「膝を下ろせと言っているだろう。」

「下ろしたら答えてくれんの?」

「…そうだな。」


喜々として更に身を乗り出してくる菊丸の身体を、それ以上前に来ないように押さえつけながら手塚が答えると、

菊丸は嬉しそうに身を引いた。


「はい!はい!!答えて!!

 手塚は俺のどんな笑顔が好きー?」


前のベンチに座り直した菊丸は、ペチペチと自分の膝を叩きながら手塚に答えを促す。

ひとつため息を付いて手塚が菊丸を見ると、菊丸は期待にきらきらと輝かした瞳で手塚を見上げていた。

す、と立ち上がって身体を乗り出し、菊丸の耳に口を寄せる。


「好きだ。」


手塚が小さく呟いた言葉に、菊丸は顔を真っ赤に染めた。

そのまま、照れくさそうにくしゃりと顔を崩して菊丸が笑う。


「…その、笑顔だな。」


手塚が頬に手を添えると、菊丸は少し驚いた後にまた嬉しそうに笑った。


「その笑顔も、好きだ。」


抱きついてきた菊丸を抱き留めて、ぎゅう、と抱きしめる。

俺も手塚の滅多に見れない笑顔、好き。と呟いた菊丸を抱き返そうとした時、


「いーーーーかげんにしてくれないかな、二人とも。着替えられないんだ・け・ど。」


ドアの向こう側でわざと大きな声を出してそう言った不二に、

抱き返そうとした腕を止めて、俺と菊丸は思わず目を見合わせた。

コンコンコン、と嫌がらせのように不二が部室のドアをノックする。


「全くさぁ、鬼部長が聞いて呆れるよねー。面目丸つ・ぶ・れ!!!

 みんな待ってるんだからさ、もう開けるよー!!」


不二の言葉が終わる前に一瞬触れるだけ口付けをして、シャーペンを握り直した。





今まで築き上げてきた、多大なるもの。

全て崩したのは、君。

それすら構わないと思う。

これからは、二人で…。










了。




築いてきたイメージを崩されて、仕方がないので一緒にまた築きましょ。
って、言いたかっただけです…が、これじゃただのバカップル。
これも難しいなぁ…。