「あ、手塚先輩!!」




























   Ten years after




























「手塚、久しぶり。今日は貸し切りだから、ゆっくりしてってくれよ。」


にこりと笑ってカウンターの中から声をかけた河村に、懐かしい記憶が蘇って手塚は小さく笑みを漏らした。


「あぁ、ありがとう。…継いだのか?」

「まさか。まだまだだ修行中だよ。」

「手塚せんぱーい!」


河村に頑張れよ。と声をかけて、手塚はかけられた声の方に顔を向ける。


「お久しぶりです!!」


嬉しそうに声をかけてきたのは、当時の後輩達。

桃城、海堂、荒井に池田、林。

一年トリオや、その他にも、沢山。


「あぁ。…元気そうだな。」

「勿論です!先輩の活躍、テレビとかで見てますよ!!」

「…ありがとう。」


少しの笑みと共に告げた手塚の言葉に、後輩達は驚いたように目を見開いた。

10年前の彼なら、笑みなど一切浮かべなかったからだろう。

放心している後輩を横目に振り返れば、当時3年間を共にした仲間達が手を振っている。

そちらに足を向け、久しく見る仲間達に手塚は目を細めた。


「久しぶりだな、手塚。」

「こっちからすればよく見てるけど、こうやって会うのはホント10年ぶりだしね。」


大石が言ったのに続けて不二も目を細めて言う。


「10年か…もう、そんなになるのか。」

「手塚はやっと見た目も丁度良くなった感じかな。」


手塚が呟いた言葉に反応して、乾がからかうようにそう言う。

その言葉を聞いて一度睨むと、乾はそんなところは相変わらずだ。と言って笑った。


「後は越前君と英二だね。」

「英二はともかく、越前の遅刻癖は相変わらずか?」


困ったように言う大石を見て、相変わらずだな、と手塚は思う。

越前はともかく、英二はそろそろ来るだろう。なぜなら…


「うわー河村寿司も、ひっさしぶりー!!」

「そっすね。もう何年ぶりだろ…。」


騒がしい声が響いてカラリと戸が開けられる。

顔を覗かせたのは、声の通り、英二と越前だった。


「よーぅ!ひっさしぶり!みんな!!」

「どもッス。」


楽しそうに笑いながら手を上げて挨拶する英二と軽く会釈する越前。

同時に姿を現した二人に、皆は驚いたようだった。


「なんだよ越前。エージ先輩と一緒に来たのか?」


桃城がかけた声に、越前は嫌そうに顔をしかめる。


「桃先輩。そーゆー俺が誤解されるような事言うのやめてくれません?

 前で会っただけッスよ。」

「誤解?」


越前の言葉に不思議そうに首を傾げる桃城を目の端に映しながら、

英二はきょろきょろと辺りを見回す。

そして目の端にひらりと手を振る親友を見付け、にこりと笑いながら駆け寄った。

それを確認して、越前は桃城の方へと足を向ける。


「久しぶり、英二。」

「うん、みんな元気そーだね。良かった良かった。

 タカさん、俺、アナゴね!」

「わかってるよ。」

「乾も相変わらず変な研究やってるの?」

「変とは失礼だな。病に悩める人のために日夜研究しているというのに。」

「おぉ!なんかカッコイー。」

「英二。」

「よ!大石。胃の方は大丈夫?胃炎にでもなってないかって心配してたんだよー。」

「はは。今は英二ほど胃を痛めるようなヤツが周りにいないからね。大丈夫だよ。」

「何だよそれ、失礼な。」


ひとしきりみんなと会話をした後、英二は手塚へと向き直る。

10年前、英二が手塚を嫌っていたのは、部内ではとても有名なことだった。

その英二が手塚に何か言おうとしている姿に皆飲むのも忘れ、その様子を少し緊張しながら見守っていた。

ところが、


「あ、そーそー。国光、忘れモンだよん。」

「あぁ。すまないな。」

「うんにゃー?」


ガタン


今し方交わされた会話に、元部員達の思考が止まる。

今、なんて…?


「英二…今、手塚のこと…国光って言った?」

「ん?言ったよ?」


いち早く思考を取り戻した不二が、それでも呆然としながら問いかけた問いを、あっさりと英二は肯定してみせた。

一体この10年で何があったのだろうと部員達は困惑気味だ。


「菊…英二先輩、言ってなかったんスか?」

「お、おチビ、間違えなかったな!偉い偉い!!」


少し驚いたように言った越前の言葉に、英二は満足そうに頭を撫でる。

少々嫌そうに顔をしかめながら、越前は間違えたら怒られますからね。と呟いた。


「ん?俺怒ったことないよ?」

「アンタじゃなくて、あの人に。」


そう言ってため息を付く越前を見て、英二は成る程、と少し笑う。


「どう言うことだ、菊丸。」


乾がそう声をかけると、少し嬉しそうに振り向いて英二は口を開いた。


「乾。俺、もう菊丸じゃないから呼ぶなら英二でよろしく。」

「……………は?」


困惑気味の乾に続き、大石が不思議そうに疑問を口にする。


「結婚したのか?」

「ん〜…そんなもんかな?」


ふふ、と笑いながら英二は楽しそうに答える。


「俺ね、先月から手塚英二なの。」


てへ、と笑って英二が告げれば、ざわついていた場は一気に静まり返った。

しばらくの沈黙の後、視線は英二から一気に手塚へと移る。


「手塚…?」


その視線を受けて、手塚は少々困ったように眉間にしわを寄せている。

その表情を見て、不二は一度息を吐いた。


「上手くいったんだ。良かったね、英二。」

「へ?」

「卒業式の日、でしょ?」


不二の言葉に、英二の目が驚きに見開かれる。


「え、何で…。」

「あぁ、そーゆーことか。」

「大石まで!?」


不二の言葉を受けて納得したように言った大石を振り返り、英二は驚いたように声を上げた。

そのやり取りを見ながら、手塚は小さくため息を吐く。


「気付いていたのか。」

「まぁ、確信はなかったけどね。」

「全然態度に現さないから、結果は知らなかったけどな。」

「…そうか。」

「ちょ、国光!俺を置いて納得するよ。」

「だから、気付かれていたんだろう?英二の気持ちが。」

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」


慌てた英二を落ちつかせるように、大石がその背をポン、と叩き、不二がその肩に手を乗せた。


「おめでとう、手塚、英二。」

「そういう事なら、お祝いしなきゃね。」


そう言って、不二は河村に目配せをする。

それを受けた河村は、乾に視線を向けた。


「任せてくれよ。なあ、乾。」

「そうだな。」

声をかけられた乾は眼鏡をくいっと上げて海堂を見やり、

向けられた視線を受け、海堂は桃城と目を合わせる。

不敵に笑い合い、荒井や池田、林を振り返った。

三人は側にいた一年トリオを見やって、

まだ少し驚いている三人とそれぞれ軽くハイタッチをする。

そして、全員で越前に視線を向ける。


「トーゼンでしょ。」


深く帽子をかぶり直して、真っ正面から祝う事に対して少々照れくさそうに

当時の一年生ルーキーは言った。





当時の青春学園中等部硬式テニス部では、菊丸英二が手塚国光を嫌っている事は有名だった。


憶測の域を出ないながらも、その裏側の気持ちも含めて。





部の同窓会だったその場は、そこからは手塚と英二の結婚祝いにシフトチェンジした。

カミングアウトに内心どきどきだった英二は、

手塚と視線を合わせて幸せそうに微笑む。

そこを当時の2年連中(海堂除く)にからかわれ、

英二は照れ半分、悪ふざけ半分で逃げる2年生達を追いかけていった。


「良かったッスね。」


唯一事前に知っていた越前が、他人事ながら気にしていたのか

そう言って手塚の横で帽子のつばを直す。


「…そうだな。」


室内でかぶるなと帽子を没収された越前が見たのは、

いつになく穏やかで柔らかい、手塚の微笑みだった。




















   終わり。