5:絶対に。




























足音も軽やかに駆け寄って、抱き付いて、満面の笑みを浮かべて挨拶をする。

それは、菊丸にとって日課みたいなモノで、いい加減誰も驚かなければ、咎めもしない。


「大石ーーー!!」

「不二ーーー!!」

「乾ーーー!!」

「タカさーーーん!!」

「かいどーーー!!」

「桃ーーー!!」

「おっちびーーー!!」


レギュラー達に一通り挨拶し終えた菊丸は、いつものようにそのままの勢いで俺にも飛びついてくる。


「おっはよー!手塚っ!!」

「あぁ。」


いつものように返事を返して飛びつく腕を放せば、やっぱりいつものように少し不満げに唇を尖らせた。


「どーして手塚は『おはよう!』に対して『あぁ。』かなぁー!!

 毎日言ってるだろー!挨拶ぐらいちゃんとしなさい!」


びし!と俺の眉間に向かって人差し指を指して、菊丸はいつものように言葉を紡ぐ。

毎日のやり取り。

いつもはそのまま流してさっさと着替えに部室へ行くが、今日は腕を掴んだままに

部員は全員部室に入っているのを確認して、菊丸をじっと見る。


「…手塚?」


動かない俺に、少し焦りながら菊丸が声を掛けてきた。

いつものやり取りを、少し、変える。

それは、一種の賭のようなモノ。


「…おはよう、菊丸。」


掴んだ手も見つめる瞳もそのままに、いつもは口にしない挨拶を告げた。

途端、驚いたように目を見開いて呆然と俺を見つめる。

暫くの沈黙の後、菊丸は残念そうになんだ。と呟いた。


「挨拶、できんじゃん…。」

「当然だろう。」


菊丸が、このくだらないやり取りを心底楽しそうにしていたのを、俺は知っている。

俺が挨拶を返す事によって、『いつもの』やり取りが出来なくなった事を

心底残念がっていると言う事も、ここまで明らかな態度に表されれば誰だって気付くだろう。

掴んでいた腕を解放して、トントン、と俯いている菊丸の肩を叩く。


「好きだ。」


やる気なく顔を上げた菊丸に、何の前触れもなく気持ちを伝えた。

それは、一種の賭のようなモノ。

ポカン、と口を開けたまま完全に思考が停止したらしい菊丸の髪を一度撫で、

次の菊丸の反応を待たず、俺は着替える為に部室へを足を向ける。

このままの『いつもの』関係など、俺は望んではいない。

菊丸が『いつか崩れるかもしれない一歩進んだ関係』よりも、

『絶対崩れないいつもの関係』に安心感の覚えていたとしても。

見えているコイツの気持ちを無視をしようとも、俺は思わない。

自惚れでも、勘違いでもない確信があるんだ。

だから、悪いな菊丸。

この賭の結果は、


「て、手塚!!!」


絶対に。









終。