4:全ての音が遠ざかった。




























二人で、なんて今まで有り得なくて、今回もたまたま一緒になったに過ぎなくて、

それでも、俺は凄く凄く嬉しくて。

だって、俺は手塚が好きだからね。

そんなこんなで俺は、たまたま一緒になった文化祭の食料買い出し係を、

かなり上機嫌でこなしている。

手塚は、といえば、食料品の買い物なんて経験がほとんどないらしく、

俺の後に付いてきながら感心したように俺を見ているだけだった。


「後は、お好み粉と香辛料かな。手塚、大丈夫?」


後ろを振り向いて少し疲れた様子の手塚に問えば、頷きが返ってくる。


「あぁ…。随分と慣れているんだな。」

「ん?あー、買い物係家で良くやらされるからねー。」


油断してると部活帰りでも容赦ねーもん!

そう言って笑うと、手塚はまた感心したように頷いた。

やっぱり二人だけだと、他のメンバーがいる時よりも沢山話せて嬉しい。

普段、殆ど話したりしないだけに。

上機嫌で話をしながら材料を全部かごの中に入れて、レジに並ぶ。


「手塚は出て待ってて良いよ。二人で並ぶと邪魔だしね。」


俺がそう言うと、手塚は素直に邪魔にならない位置まで移動した。

なんかやっぱり緩む頬を押さえられなくて、手塚から見えない事を良いことに俺の頬は緩みっぱなしだ。

だってさ、だってさ。嬉しいじゃん、やっぱ。

例え文化祭の為とはいえ、二人っきりでお買い物!なんてさ。

そんな事を考えながら料金をもらったお金で支払って、待っている手塚のもとへ戻る。

もう終わりかーなんてちょっと残念に思いながら手塚に学校へ帰ろうと促すと、

持っていたビニール袋を奪われた。


「俺が持とう。」

「へ?」

「買い物は全て菊丸に任せてしまったからな。」


手塚の手にスーパーのビニール袋って辺りが似合わなくて、

思わず笑いそうになるのをなんとかごまかして、青学への帰り道を歩く。

人も車もそこそこ通ってるから結構いろんな音がするんだけど、俺の耳にはあんまり入ってこなかった。

ちゃんと耳に入ってくるのは、ビニール袋の擦れる音と、俺と手塚の足音。

ビニール袋を持った手塚の横を歩きながら、なんかくすぐったい気持ちになって、

手塚に見られるかもしれなくてもやっぱり頬は緩んでく。

ちら、と手塚の方を見たら、手塚も俺の方を見てて目が合った。

びっくりして、思わず足を止める。

だって、手塚が少し笑ってたんだ。


「こんな事は、もうないかもしれないな。」


ぽつり、と呟いて、手塚は真剣な顔に戻って俺を見た。

何が、と聞く間もなく、手塚は俺の目を見たまま、告げる。


「好きだ、菊丸。」


瞬間、

全ての音が遠ざかった。









終。