3:どれだけの




























どれだけの覚悟を持ってここにいるのだろうと、菊丸は時折思うことがあります。

それを問うと国光は決まって何も言わず、柔らかな視線を向けてくるだけです。

交わる事のない筈の道を、無理矢理ねじ曲げて引き込んだのは自分だから、と。

そう言っても、国光は何も言わないのです。


「手塚!」

「迷惑をかけているのは悪いと思っている。」

「そうじゃなくて…。」

「気にしなくて良いんだ、お前は。」


そんなの、無理だ。と、菊丸は思うのですが、国光は何も話してくれません。

突然国光が菊丸と越前のもとを訪ねてきて1ヶ月。

理由を尋ねる菊丸に国光が言ったのは、「家を捨てた。」の一言でした。

驚く菊丸と越前をよそに、「すまないが居候させてくれ。」と。

家を捨て、この山で暮らす事が何を意味しているか、など、

菊丸にはわかりすぎる程わかっていました。

それも、妖でも動物でも術者でもない、普通の人間。

顔を情けなく歪める菊丸を抱き寄せ、国光は耳元で小さく「すまない。」と謝りました。

今までの全てを捨てて、ここに来てくれた事は嬉しい。

彼の言っている事に嘘がない事を、菊丸はよく知っています。

だからこそ、余計に申し訳なく思うのです。


「どうしようもない位、お前が好きなんだ。」


その言葉も本当だと、知っているからこそ。

全てを失って自分を選んでくれた彼に対して、何も失わず、彼を手に入れた自分。

長い指で眼鏡を取る国光の仕草を見ながら、菊丸は強く唇を噛み締めました。

国光は菊丸の体を少し離し、唇を軽く撫でて少し寂しそうな顔をします。


「手塚。」


唇を撫でる指を鋭く尖った犬歯で傷付けないよう気を付けながら

一度軽くはみ、菊丸は国光を見上げました。


「俺もね、お前を追い返せない位、お前が好きだよ。」


おそらく、例えばそれが越前だとしても、菊丸は追い返したでしょう。

何を考えてんだよ!!そう言って。

彼に対しては欲ばかりになっている自分に苦笑して、菊丸は国光の肩に額を寄せました。

カタン、と部屋に響く、おそらく眼鏡を床に置く音と、ふわり、と髪に触れる感触。

申し訳ない、と思うけれど、それ以上の幸せを手放す事が出来ない。

ぐりぐりと頭を国光に押しつければ、国光が小さく笑う音が聞こえました。


「やめろ、菊丸。」


どれだけの覚悟を持って、隣にいてくれるのか。

どれだけの覚悟をして、ここに来てくれたのか。


「大好き、手塚。」


顔を上げてそう言えば、鮮やかな金の端にもう一度柔らかな感触。

それから、跳ねた赤茶を優しく撫でる菊丸よりも幾分か大きな掌。


例え相手が同族であっても、

この人だけは、俺が守る。


国光の着物をぎゅう、と握りながら菊丸は一度伏せた瞳を強く変え、

しっかりと上げました。









終。