1:昔々




























「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。」


後ろから聞こえてくる低い声に俺は声を出さないように笑いながら、

二人に背を向けてテレビを見ていた。

知り合いが見たらなんて言うかなー。


「…英二。」


読んでいた声が止まって、国光が俺を呼んだ。

その声が少しの不機嫌を含んでいて、ばれたかな、と肩をすくめて振り返る。

突然中止されてきょとんとしている光一と、声の通り、少し不機嫌そうな国光の顔。


「ゴメンゴメン。」


だってさぁ、天下の手塚国光様々だよ?

なんだかんだでワイドショーとかスポーツ紙とか騒がせまくってんだよ?

そんなヤツが、家で絵本の朗読って…!!

一度読み聞かせて貰ってから気に入ったのか、

光一は絵本の朗読は必ず俺じゃなくて国光に頼むようになった。

国光は不思議そうだけどね。

ただ淡々と読んでいるだけなのにって。


「ほのぼのだなーって微笑ましくなっただけだよ。」

「嘘をつけ。肩を震わせて笑うのを堪えていただろう。」


ありゃ、やっぱりばれてた。

にーっと笑って誤魔化そうとするけど、

いい加減付き合いの長い国光がそんな事で騙されてくれるとは思わない。

やっぱり眉間の皺を深くした国光の服を、

暫くきょとんとしていた光一がクイクイ、と引っ張る。


「つづきは?」

「…あぁ、すまない。」


息子せがまれちゃ、天下の国光様もタジタジってね。

やっぱり肩を小さく震わせて笑いながら、俺はおやつでも、と立ち上がる。

気付いてないのは、きっと国光だけ。

本を読んでる時、いつもじゃ考えらんない位柔らかい声になってるって事。

その声が大好きな光一が、沢山聞けるからって国光に絵本を読んで貰ってるって事。


「エッチラコ、オッチラコと漕ぎながら、川を下って行きました。」


でもやっぱりエッチラコオッチラコとか言ってる国光はおもしろい。

くっくっく、と笑いながら、取りあえず冷蔵庫から甘さ控えめのおやつを出した。









終。