冷たい。


落ちていた意識が微かな感覚を拾い上げてそれと共に浮上します。

重い瞼を開ければ、鮮やかな金。

少しぼうっとした意識の中、掌を伸ばして金の端を撫でれば、

金は困ったように細くなりました。


「手塚。」


こんなにぼうっとするのは久しすぎて、

国光は金が何なのか理解するまでに少々の時間を要しました。


「もう、夕だよ。手塚。」


その一言に、国光は ハッと意識を取り戻して勢いよく起き上がります。

金は、菊丸の瞳。

起き上がった国光に小さな笑みを見せながら、菊丸は立ち上がりました。


「そろそろ、帰るな?」

「あぁ。結局寝てしまって…すまない。」

「いいって。ぐっすり眠れた?」


申し訳ない、と頭を下げる国光を見ながら、菊丸はどこか、渇いたような声を吐き出します。

小さな違和感を感じながら、国光は一度頷きました。


「あぁ。こんなによく眠れたのは、久しぶりだ。感謝する。」

「ん、なら良かった。たまには休むのも大事だよん!」


に、と笑う菊丸に再び違和感を感じて国光は瞳の端に手を伸ばします。

その瞳の色が、いつもと違うと感じました。


「鮮やかだ。」

「…へ?」

「いつもより、随分と金が鮮やかな気が…する。

 美しいな。」


ふと目を細めた国光に、菊丸はその顔をぶわ、と赤く染めました。

突然赤くなった菊丸に、国光は不思議そうな視線を向けます。


「どうした?…何か、おかしな事を言っただろうか。」

「う、うぅん。えと、じゃ、帰るから。」

「あぁ。気を付けろ。」


焦ったように気を張ってい帰っていく菊丸を見送って、国光は首を左右に動かしました。

コキ、と、首が少し硬い音を出します。

日の位置に目をやって、随分と時が経過していたことを悟りました。


「久しいな。」


こんなに寝入るのは。

そう思いながら時刻を知る為に大石を捜しに歩いていると、

すっきりした視界の中に不二を見つけました。

国光はその瞳を見開きます。


「不二…!?」

「国光様。戻って参りました。」

「あ…あぁ、ご苦労だったな。」


何も知らない風な不二の態度を見て、国光は眉間に皺を寄せました。

術者なら菊丸の気配に気付かないはずはない。

不二程の、術者となれば、尚更。


「不二。話が、ある。」

「何でございましょうか。」

「いや、ここでは…。」


言いかけて、国光は側の普段は使われていない一室に不二を連れて入りました。


「…お前、妖に会ったか?」

「会ったよ。何考えてるの、君。

 殺されるよ?何されるかわからないよ?

 手塚家の跡取りとしての自覚、あるの?」


人の目がなくなった途端、さらりと肯定して

更に畳み掛けるような強い口調でそう言った不二に、国光は目を見開きます。


「あいつに何かしたのか!?」

「ちょっと後ろ首に札突き付けただけだよ。他には何もしてない。

 でもね、手塚。しつこいようだけど君は跡取りなんだよ?

 いくら英二が妖力がないって言っても…」

「英二…?」


国光が心底驚いたように呟くと、不二は言葉を止めました。


「英二とは、誰のことだ?」

「何言ってるの。君が膝を借りてた妖じゃない。

 赤茶の髪で、金の目をした…」

「英二と、名乗ったのか?あいつは。」


その国光の一言でピンと来たのか、不二は納得したように一度頷きます。


「名乗った訳じゃないけど、仲間の妖が呼んでたから間違いないと思うよ。

 君には別の名を名乗ったの?まぁ、名を明かすのは妖からすれば自殺行為だからね。」


ふ、と笑った不二を見るとはなしに見ながら、

国光は体の奥からドロドロと汚れたものが流れてくるのを感じました。




























「ただいま。」


帰ってきた菊丸を見て越前はギョッとし、腕に抱いていた猫を落としそうになりました。


「せ、先輩!!アンタどこ通って帰って来たんスか!?」


菊丸の身体は小さな傷だらけで、

通常通っている道を通らなかったのは間違いありませんでした。


「え、あ、覚えてないやー。」


あはは、と笑って、菊丸は頬をかきます。

頬かく時、必然的に触れる頬に貼ってある白い布。

もう汚れすぎていて取らなければいけない、と思いつつずっと貼り続けていたものです。

その布に触れた菊丸の手が、小さく震えていました。


「先輩?」


心配そうに菊丸を覗き込む越前の視線に、菊丸は無理矢理笑みを向けます。

それを見た越前は、不機嫌そうに顔をしかめました。


「何があったんスか、先輩。

 アンタいつも何も言ってくれないじゃないですか。」

「……………。」


じ、と菊丸の瞳を見て言った越前の言葉にも菊丸は応えず、歪んだ笑みを浮かべています。


「先輩!!!!!」


大声を出した越前を少し驚いた瞳で見て、菊丸は笑みではない、いっそう歪んだ表情をしました。


「おチビぃ…。」


情けない声だ、と思いながら、菊丸は顔を見られないよう、

越前の頭のてっぺんに頬を乗せました、


「俺、手塚が好きなんだよ…。」


その一言で何となく悟った越前は、あやすように菊丸の背を撫でます。


「奪えば?」

「馬鹿言うなよ。…結婚だって、決まってんのに。

 俺じゃ、迷惑なだけじゃん…。」


菊丸の言葉に対し、まだまだだね。と越前は小さく呟きました。

その言葉を聞きつけた菊丸は、ぎゅう、と越前の耳を引っ張ります。


「痛いんスけど。慰めてる後輩にすること?それ。」

「痛いようにしてんだよ。おチビの癖に、生意気。」

「八つ当たりしないでくれます?」

「…ゴメン。」


突然素直に謝って、また黙り込む菊丸に越前はため息を吐きました。


「どうしたいんスか。」

「ん、言いたかっただけ。あんがと、おチビ。

 だいじょぶ!友達続けるよん!

 ……出来れば、だけど。」


菊丸の付け加えられたような一言は、

微かに見えた治りかけの後ろ首の傷で説明出来るような気がして、

越前はもう一度小さくまだまだだね、と言いました。









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