もう一方は、妖と人間の少女。




























Fairy Story
   − 妖 と 少 女 −




























それは、己の可愛がっている猫を探して、

たまたま越前が山下まで降りてきた時です。


「桜乃!!」


聞こえてきた高い声に、越前は木から別の木に飛び移ろうとしていた足を止めました。

気付かれぬように下を見やると、そこには2人の少女がいました。

山下、といってもあくまで越前らにとってで、人間が踏み入れるには深すぎる場所です。

越前は少しだけ驚いて、様子を見る事にしました。


「ごめんね、朋ちゃん…私が入ってみたいって言ったから…。」

「なぁーに言ってんの!同意したのは私だよ。

 それに、もう戻ろうって言ったのに進んだのも私でしょ?」

「でも…。」

「ほら、こんな事言い合っててもしょうがないでしょ。帰らなきゃ。」


会話を聞く限り、二人は迷い込んでしまったようです。

まぁ、自分には関係ないだろう。そう思って越前は愛猫の気配を探し始めました。

暫くキョロキョロと辺りを見回すと、

程なくして「ホァラ〜」という独特の鳴き声が聞こえてきて、越前はまた下を見ました。


「あれ…猫ちゃん…?」

「ホントだ。こっちおいでー!」


猫はどうやら下にいたようで、姿を現した猫に二人の少女は嬉しそうに対応していました。

越前は小さくため息を吐いて、今日は放って置いて帰ろうときびすを返そうとしました。

ところが、


「ホァラ〜。」

「何かいるの?」


越前に気付いた猫が鳴いて、二人は上を見上げてしまいました。

少女の内の一人と、越前の目が合います。


「妖!?」


驚いたように声を上げたもう一人の少女に視線を移してまたため息を吐き、

越前は二人から多少の距離を取って地面にトン、と降り立ちました。


「おいで、カル。」

「ホァラ〜。」


呼び寄せると、猫は嬉しそうに越前の方へと歩いていきました。

それを見て、二人の少女は驚いたように目を見開いています。

身体を足にこすりつけてくる猫を抱き上げて越前は二人の方へ向き直り、

二人の後ろを指さしました。


「あっち。ずっと歩いていけば川があるから。辿れば入り口。」

「そんな言葉に騙されると思ってるの!?」


越前が言った言葉に、連れを庇うように立っていた少女がそう叫びます。

その言葉も予想の範疇だったので、越前は少女を小さく睨む程度に留めておきました。

それでも、越前の金の目に睨まれた少女は、「ひ、」と声を上げて顔を恐怖に引きつらせました。


「信じるも信じないも、アンタらの勝手だね。」


ふん、と見下すような視線を向けて、越前は猫を抱いたままぴょん、と木の上へと戻りました。


「あの…!!」

「桜乃!?」


かけられた声に越前が振り返ると、庇われるように立っていた少女の方が越前を見上げていました。


「ありがとうございます。私たち、迷ってて…。」

「桜乃!信じる気なの!?」

「だって、猫ちゃんが懐いてるって事はいい人だよ、朋ちゃん。」

「なに言ってんのよ!!だから桜乃は単純なのよ!!」

「だって…。」


下で交わされる会話に、越前は小さく笑みを漏らしました。

単純にも程がある、変な人間。


「ねぇ。」


何となく、越前は声をかけました。

バッと、二人とも視線を越前に向けます。


「カル、見つけてくれてアリガト。」

「ホァラ〜。」


なんとなく礼を言ってから猫をしっかりと抱きなおして、越前はまた山の奥へ帰っていきます。

残された二人は、驚きに目を見開いていました。

それが、6日程前の事です。




























菊丸の許しを得た越前は、国光と菊丸が見えなくなったのを確認して小屋から近くの枝に飛び降りました。

タンタンタン、と軽やかに、国光と菊丸が帰った方向とは少しずれた方向に向かっていきます。

越前には、目的がありました。

タンタンタンタンタン。

亜鬼の身体能力は国光が感心した通り、人間よりも数倍優れていました。

優れているのは身体能力に限らず、五感も身体能力に比例しています。

あっという間に目的地にたどり着いた越前は辺りをきょろきょろと見回し、

暫くしてそこに目的がない事を知ると、安堵のため息を吐いて枝の上に寝転がりました。

耳の神経だけを研ぎ澄ませ、だんだんと近付いてくる音を聞きながら瞳を閉じます。


…カサカサカサ…


暫くの後、目的と思わしき音がはっきりと越前の耳に飛び込んで来るようになりました。


「きゃっ!!」


その途端聞こえてきた無防備にも程がある高い声に、

越前は危うく木の上から落ちそうになりました。

何とか体制を整えて、声の主の元へまっすぐに降り立ちます。


「何考えてんの、アンタ。」

「ひゃ!!」


声と共に現れた越前に、先程の声の主の少女は驚いたように肩を一度、びくりと震わせました。

しかし、越前の姿を確認するが否や、少女は長い三つ編みを揺らし、ほっと息を吐きます。


「びっくり、したぁ…。」

「アンタさ、どれだけ警戒心ないわけ?」


呆れたように言う越前におどおどとしながらも、少女は越前に照れたような笑みを向けました。


「あ…足、治った、んだね。」

「俺が質問してるんだけど。何でこんな所にいるわけ?」

「そ、れは…」

「二度と来るなって、俺言ったよね?」

「だけど、心配で…。」


おどおどと言葉を続ける少女をジッと見ながら、越前は拳を少女の横の木にぶつけました。

びくり、と少女の肩が震えます。


「いい加減にしてくれる?ここは森の中で、俺は妖だよ?

 アンタ、殺されにきたの?」


ギロリ、と擬音がしそうな程鋭い金の目に睨まれて、少女はカタカタと肩を震わせました。

それを見た越前は拳を離し、タッ、と軽く飛び上がって木の上へと戻ります。


「りょ、リョーマ君ッ!!!」


少女は越前に向かってそう叫びました。


「あ、あの、どうしても謝って、お礼が言いたくて…私の所為で足怪我させて、本当にごめんなさい!!

 庇ってくれて、ありがとう…。リョーマ君のお陰で、怪我しないですんだ…。

 だから…」

「…早く帰りなよ。」

「あ、うん…ごめんなさい…。」


しゅん、と三つ編みと一緒に俯いて、少女は越前に背を向けて来た道を戻り始めました。

見えるか見えないかになった頃、越前はこっそりと少女の後を付け始めます。

少女が後にした場所は、4日前、越前が国光と遭遇した場所でした。









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ピンは妥協してもカルは譲れない…。