一方は元服を控えた領主の一人息子と、

山奥に住む、異形の妖。




























Fairy Story
   − 出 会 い −




























一刻ほど馬を走らせた先、目指す山に着いた国光は、慣れた手つきで馬を山道の入り口に繋ぎ、

草の生い茂った山の中へ足を踏み入れました。

菊の花は入り口より半刻ほど歩いた場所にあります。

獣道ではありますが、歩き慣れた道を国光はいつものように進みました。

獣道を四半刻ほど進んだ時、聞き慣れない金属音がどこからか聞こえてきました。


カシャン

カシャン


何となく直感のようなものが働いて、国光は耳を澄ませました。


カシャン


その音は、菊の花が咲いている方向から聞こえてくるようでした。

何かあったのかもしれない、と、国光は急いでその方向へと歩を進めます。

歩を進めていく内に、擦れるような金属音と共に荒く乱れた息遣いが聞こえてきました。

酷く苦しそうな息遣いだったので、国光は急いでいた歩を更に早め、

だんだんと近づいてくる音に耳を澄ませました。


カシャン


「!!」


獣道の先、少しだけ広くなっている場所に息遣いの主はいました。


「亜鬼(あき)…か?」


黒い髪に金の鋭い目。

荒い息遣いが出る場所には、鋭い八重歯。

それは、亜鬼と呼ばれる妖でした。

亜鬼とは、半分が鬼、半分が人間の妖怪のことです。

彼らは普段山奥に住み、気を張っているときは人間とほぼ変わらぬ形を取っていますが、

体力を酷く消耗した時や興奮した時、とても安心している時などは本来の姿に戻り、

瞳の色を金に、歯は鋭い八重歯になるのが特徴でした。

おそらくこの亜鬼は前者でしょう。

国光が足元を見ると、動物用の罠に足を取られて傷を作り、

足と辺りの草や土を真っ赤に染めていました。


「近寄るっ、な…!!!」


息を乱したまま反射的に逃げようとして罠が足に更に食い込み、

怪我を負った亜鬼は痛みに顔をゆがめました。

国光が罠を見ると、それは複雑なものではなく簡易的なものです。

ゆっくりと国光が怪我を負った亜鬼に近寄ると、亜鬼は動かず、石や草などを国光に投げつけ、

鋭い金の目で睨んできました。

国光はそれを器用によけながら、怪我を負った亜鬼からなるべく離れて罠に寄り、太刀を抜きました。


「!!!!!」

「殺しはしない。…動くなよ。」


びくりと身体を揺らして、怪我を負った亜鬼は動きを止めます。

抜いた太刀を縦に構え、国光は勢いを付けて太刀を振り下ろしました。


ガシャッ


軽い音を立てて、亜鬼の足に喰い付いていた罠は口を大きく開けます。

国光の太刀は、罠の小さな部品を真っ二つにしていました。

驚いたように目を見開いて、怪我を負った亜鬼は国光を見ています。

太刀を鞘に戻しながら国光は辺りを見回しました。


「水は?」

「、は?」

「そのままでは血がこびり付く。歩けないだろう?」

「…アンタ…何?」


心底呆れたように口を開いて、怪我を負った亜鬼は息を切らせたままそう言いました。


「無益な殺生は好まないだけだ。」


一般的に妖とは、人間でも動物でも植物でも有らざる生物(なまもの)の総称です。

それは9割方妖力を持ち、8割方人間を襲うとされ、恐れられています。

その為、妖と出会えばどんな状況であろうと切り捨てるのが普通なのです。


「、変な人間だね、アンタ。」


怪我を負った亜鬼は、手を後ろに着いて少し安心したように息を付きました。



その時です。





「おチビを放せ!!!人間っっ!!!!!」









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亜鬼なんて妖はいません。造語です。茶瓜が勝手に作りました。
因みに、一刻=2時間、半刻=1時間、四半刻=30分です。