eats the star.




























103円を店員に渡して、袋に入れてすら貰わずにそのまま持って出る。

クルクル、と回してビニールを取り、それをそのままコンビニのゴミ箱に放って

待たせていた背中へと声をかけた。


「お待たせ!手塚。」

「こんな日にアイスを食べるのか。」

「アイスは年中無休なんだよ!」


そう言いながら菊丸は手塚の背を押して、帰るよう促す。

手に傘とアイスを持った菊丸の顔を見ながら手塚は少々複雑な顔をし、

最後に諦めたような顔をして菊丸に従った。





終業式。

数日前から降ったりやんだりを繰り返し、

その上昨晩からは随分と大量の雨が降り続いているせいで部活も基礎体力作りだけをして、

手塚と菊丸は共に帰路についていた。

そこら辺で買ったビニール傘をさしている菊丸は、

器用に肩で傘を差しながら、持っているアイスをひとつひとつと、口の中に入れていく。

深い紺の傘を差している手塚は、それを見守りながら話しかけてくる菊丸の言葉に頷きを返していた。


「あーもう、雨やまないかなぁ〜!!」


イライラとしたように発せられた菊丸の言葉に、手塚は視線を菊丸の方へと向ける。


「どうした。」

「だって!いよいよ全国!じゃん。

 テニスしたくてたまんないのに、この雨だもんなぁ…。」


むぅ、と唇を尖らせて灰空を見上げる菊丸の肩を、手塚はポンと、叩いた。

その拍子に、傘から滴が垂れて剥き出しの手塚の腕を濡らす。


「焦っても、仕方がないだろう。」

「…そう、だけどさぁ。」

「どこかコートに行くか?」

「小遣い前で、金欠だっての。」


フリーコートは屋根あるところなんて知らないし。と言う菊丸の言葉に

成る程、と頷きを返すと、何かムカツク、と言って菊丸は手塚の足を小さく蹴った。

泥が跳ねて靴に付き、ムッとして手塚は笑っている菊丸を睨む。


「まぁまぁ、手塚。怒っちゃダメダメー。」


深くため息を吐くと、菊丸は楽しそうに笑った。


「あーーー!スゲッ!!ほらほら手塚!!!」


菊丸が突然嬉々とした声を上げ、呼ばれた手塚は何事か、と菊丸の顔を見る。

すると菊丸は嬉しそうに笑って、手塚に持っていたアイスの箱を見せた。


「ほら見て!手塚!!星形ピノ!!!俺初めて見た!!」


スゲー!!と、興奮した様子の菊丸を見ながら、

何が凄いのかさっぱりわからない手塚は首を傾げる。

その旨を伝えると、少しムッとしたようだったが初めて見た嬉しさが勝ったのか、

菊丸は嬉々として説明を始めた。

曰く、星形のそのアイスが入っていれば、願いが叶う、らしい。


「ラッキー!」


と、どこぞのテニス部員を彷彿させる台詞を言いながら、菊丸は楽しそうに、

星形以外のアイスを食べていく。


「食べないのか?」

「ん?食べるよ。」


最後のひとつ、となったところで、うーん、と菊丸は唸り始めた。

その様子を窺いながら、視線を周囲に回して手塚はひとつ息を付く。

雨はまだまだ、やみそうにない。

菊丸ではないけれど、テニスがしたい事には、手塚も変わりない。

明日やんだとしても、部活は無理だろう、と思ったところで、

横から、ちゅ、と軽い音が聞こえてきた。

驚いて手塚が菊丸を振り返ると、星形のアイスに口付けた菊丸が目を細めて手塚を見ている。


「……………………妙な趣味をしているな。」

「何だよ、それ。」


呆然とした手塚がそう言うと、菊丸は笑いながら唇からアイスを離した。

そして、そのままそれを手塚の口へ押しつける。


「菊丸?」

「手塚に、俺のラッキーお裾分け。

 早くテニスしたいな!」

「しかし…。」


滅多にないものなのだろう?と手塚が聞くと、

菊丸は尚も笑いながら味は一緒だから、と妙に現実的な事を言った。


「手塚も一緒に願ってくれたら早めに叶うような気がするし。」


楽しそうにそう言って、菊丸は少し開けた手塚の口の中に星形のアイスを放り込む。

口の中に入ったのを認めると、菊丸はやはり楽しそうに笑いながら、


「手塚と間接ちゅー。なんてねー。」


そう言った。

ガジ、と囓って口の中の星を半分にすると、菊丸に顔を寄せて、驚く声さえも吸い込むように、

手塚は菊丸に口付けた。


そうして、半分を、菊丸に。


菊丸と手塚の傘の間に出来たすき間から降ってくる雨と滴が、手塚の背を濡らしてゆく。

冷たいと思いながらも、手塚はそのまま動かなかった。

それから暫くして、ゆっくりと、唇を離す。


「今更、間接か?」

「エロ手塚…。」


顔を真っ赤に染めた菊丸は手塚から視線を少し逸らしつつ、そう言って手塚の肩をトン、と叩いた。


「半分ずつの方が、効果がありそうだろう?」


少し濡れている眼鏡のレンズに菊丸が手をやって、ついていた滴を拭う。


「寧ろ、テニスの神様に怒られそーだよ。」


そう言いつつ、菊丸はアイスにしたように、手塚の唇にちゅ、と軽く口付けた。

そうして、ピノの味がする、と言って笑う。

身体を起こして、口の中がバニラとチョコの味になっているのに少し眉間の皺を寄せつつ、

手塚は一度頷いた。


「…あぁ、甘いな。」


頷いた手塚に菊丸は美味いだろ、と笑う。

そして、この後何かある?と聞いた。


「いや、部も早く終わったからな。何もないが。」

「そっか。」


うん、と頷いて、菊丸は手塚を見上げる。

雨に濡れた手塚の背を、ゆっくりと滴が伝って下へ流れていった。

てづか、と、菊丸が手塚を呼ぶ。





「…甘いものついでに、菊丸英二、なんて…どう?」







ばしゃん、と音がして、

深い紺とビニールの傘が、役目を放棄した。










了。