Color in summer




























じわじわと、汗が肌の上へと上がってくる感覚を覚え、不快もあらわにごろりと寝返りを打つ。

暑い。

そう思っても、クーラーも扇風機もないこの部屋で唯一の涼みと言えば手に持ったうちわ一つ。

扇ぐ気力すら残ってなくて、手にうちわを持ったままごろごろと畳の上を転がった。

ふわり、と生温い風が吹いて、窓にかけてある風鈴がチリンと音を出す。

音だけは涼しげだけれど、尋常じゃないこの暑さの中、

そんなことで涼しくなるはずもなくもう一度寝返りを打った。


「死ぬ…。」


ぽつりと呟けば、拳が降ってきた。


「死ぬか。」


涼しげな顔に呆れをありありと乗せて言い放つ手塚に、寝転がったまま抗議する。


「死ーーーぬよ!暑いッ!!!」

「少しは我慢しろ。何をしに来たんだ。」

「手塚に会いに。」


言い切ると少しの沈黙の後、ため息が落ちた。

夏休み始まってすぐ、久しぶりに開いた休み2日の内の1日目。

宿題という建前のもと手塚に会いに来た俺は、夏休みでもやっぱり忙しそうな手塚を見上げる。

因みに手塚はもう殆ど宿題を終わらせたらしい。

部活だって毎日あるのに、一体いつやってるんだ、と思いつつ。


「寝るな。起きろ。宿題をしろ。しないなら帰れ。」


命令形ばかりを並べてそう言い放った手塚に、さすがにムッとして顔をしかめた。


「お前は何やってんだよ。」


渋々ながら起き上がって手元を覗けば、生徒会の書類らしきモノ。

それも、沢山。


「相変わらず多忙だねぇ。」

「休みが明ければ体育祭があるからな。」

「そっか。」


和室の中央に置かれた大きな木の机にひじをついて、作業を進める手塚を見る。

木の机はひんやりとして気持ちいい。

両腕と頬をぺったりと机につけて、もう一度手塚を見た。

一応暑いのは暑いらしく、手塚は時折汗を拭いながら書類を読んではサインをしていく。

ちりん、と、もう一度風鈴が風の存在を知らせた。


「手塚…それ、急ぎ?」


俺がそう聞いても、手塚は書類から顔を上げない。


「それほど急ぎというわけではない。」

「じゃぁ、何で今やってんの。」

「何があるかわからないからな。早めに越したことはないだろう。」


ふぅん、という俺の返事も聞かずに、手塚は作業に集中し始めた。

手塚の纏う空気が話しかけるのを拒否してる。

身体を起こして、庭を見た。

手塚家の広い庭にある池の中で泳いでる鯉。

涼しそうで羨ましいとか思いながら眺めていると、ピン、と閃く。


「手塚!」

「何だ。」


明らかにテンション高く話しかける俺に眉間の皺を深めながら、手塚はやっと書類から顔を上げた。

にまーーっと笑って手塚の手からペンを取り上げる。


「海に行こう!」


俺の一言を、手塚は盛大なため息で返してくれた。


「今何時だと思っているんだ。馬鹿を言うな。」

「まだ3時。いいじゃん、夏は昼が長いんだぞ!」

「そういう問題じゃない。」


ここからどれだけ距離があると思っているんだ、と手塚は小さなため息と共に呟く。


「大丈夫だって!俺、一生懸命こぐし!!」

「…お前、自転車で行く気か?」

「おうよ!手塚は後ろ乗ってりゃ良いからさ!」

「断る。」


一刀両断。

せっかく俺が奪ったペンを奪い直して、手塚は続きを始めた。

手塚はどこまでも手塚らしい。

イイじゃーん、とぼやいていたら、襖が開いて手塚のお母さんが顔を出した。


「英二君、国光。西瓜を切ったから食べにいらっしゃい。」

「うわ!ありがとうございます!!行こ行こっ!手塚!!」

「…そうだな。」


やっと完全に書類から視線も意識も戻した手塚の腕を引っ張って、立ち上がらせる。

リビングに向かう途中、俺は手塚のお母さんを味方に付けることを思いついた。


「おばちゃんおばちゃん、この後海に行きたいと思うんですけど…

 国光君も連れてっちゃ駄目ですか?」

「あら、海?」


穏やかに微笑む手塚のお母さんは、手塚とは似ても似つかない雰囲気の持ち主。

良いわね、行ってらっしゃい。なんて微笑みながら言ってくれた。

隣の手塚は渋い顔をしている。

俺はそれに満面の笑みを向けた。


「って訳で、海。行くぞ、手塚!」

「………。」


行ってらっしゃい、なんて言われてしまえば手塚は反論なんてしない。

はぁ…。

と、深い深いため息をついて、手塚は一度頷いた。

そんな俺たちのやり取りを見ながら、手塚のお母さんは仲が良いわねぇ、なんてにこりと微笑んでいる。

リビングの机に置いてある西瓜を見てテンションも上がってきた俺は、椅子に座って手を合わせた。


「そうと決まれば、西瓜も美味いってね!おばちゃん、いただきます!」

「いただきます。」

「はい、どうぞ。」


少し憂鬱そうに西瓜を食べる手塚を見ながら、俺はイヒヒ、とこっそり笑った。




























西瓜も食べ終わって、実はあった手塚家の自転車をガタン、と出す。

直射日光が死ぬ程暑いけど、部屋の中よりずっといい。

後ろに嫌そうな顔をしている手塚を乗せて、せーの。と声を出して自転車をこぎ始めた。

ここから海へは、延々と続くなだらかな下り坂。

ジワジワと鳴いている蝉の声を聞きながら、髪を後ろになびかせて風を切る。


「何時間掛かると思っているんだ。」

「さぁね。良いじゃんか、たまには。」


未だに不満げな手塚にそう笑いながら返して、えいや、と強くひとこぎ。

眼鏡飛ばされないようにしろよー。とちょっと振り返って言うと、

手塚はまた嫌そうな顔をして前を向け。と言った。


「海海海!ひっさしぶりだよねー。」

「泳ぐ気じゃないだろうな。」

「水着持ってきてねーもん。」

「…なら、良い。」


半ば諦めモードの手塚を後ろ目に笑いながら、せっせと自転車をこぐ。


「あっついけど、焼けそうだけど、気持ちいーね!手塚!!」

「…まぁ、部屋に閉じこもっているよりは良いな。」

「そっか!良かった!!!」


えへへ、と笑いながらだんだんと加速していく自転車のペダルから足を放して、

人も車も通らない道の端を真っ直ぐ真っ直ぐ進む。

自転車に乗り始めて1時間。

後ろで手塚が小さく息を吐いた音を聞いた。

うん。ちょっと無理矢理だけど、良かった。

そう思いながら、上機嫌で鼻歌でも歌ってみる。

背に小さく感じる手塚の空気が、家にいたときよりもずっと軽くなっているのに気付いた。


「下手だな。」

「うっせーよ。」


下手だと言われようと、上機嫌の時は歌いたくなる。

だってさ、話してくれるんだよ、手塚が。

俺の鼻歌、聞いてくれてるんだよ?手塚が。

こんな嬉しい事ってないじゃん?

そこそこのスピードを出して、自転車は進む。

それからちょこちょこ会話を交わしながら、更に進むこと1時間半。

やっと到着、目的地。


「うーーーーーみーーーーーー!!!!!!」


残念ながらここは東京で、最寄りの海に砂浜なんて存在しない。

堤防のギリギリ端から、水平線も何も先の島がありありと見える場所から叫んでみる。

しかも人通りもそこそこあるし。

手塚はちょっと疲れたような顔。

でも、真っ直ぐ海を見て黙っていた。

視線の先には、夕日にキラキラと照らされる波。

すぅ、と一度空気を吸ったのを感じる。


「到着到着!って、手塚山の方が好きだったっけ?」

「ここまで連れてきておいて、それか?」


呆れたような声で、手塚は言った。

俺が手塚を見上げると、頭のてっぺんをポンポンと撫でられる。


「たまには、良いな。」

「…ん。」


今日、朝俺が手塚に会いに行ってから初めて取れた眉間の皺に、良かった。と自己満足に頷いた。


「菊丸。」

「ん?」

「俺に気を使うな。」


どうやらばれていたらしい俺の考え。でも、ちょっと違うんだな。

ニーッと笑えば、手塚は少し不思議そうな顔をする。


「気なんか使ってないよ。眉間の皺がない手塚の方が好きなだけ。」

「…そうか。」


今日初めて、手塚が小さく笑った。

うん、やっぱりこっちの方がいいや。

こんな事で幸せになれる俺って、かなりお手軽じゃない?

手塚につられて俺も笑えば、手塚は優しい顔のまま、俺の髪をもう一度撫でた。


「帰るか。」

「ん。帰りは手塚がこげよ?」

「…。」


微妙な顔をしながら、手塚は自転車を俺の手から取る。


「帰るぞ。」

「おうよ!」


自転車の後ろに座って、海と夕日を背に、いざ出発。

帰りは上り坂だけど、きっとうちの部自慢の部長なら大丈夫。









「手塚、頑張れよ!」

「お前…人事だと思って…。」

「頑張って夕飯には間に合わせような!頑張れば国光君にはご褒美が待ってるよ!」

「…褒美?」

「そ、今日は土用の丑の日!今日の夜ご飯は鰻だっておばちゃん言ってたよ。」


手塚がちらりとこちらを振り返った。


「今日は泊まるんだったな、菊丸。」

「ん?うん。ちゃんとお泊まりセット持ってきたよ?」

「なら、夕食に間に合うよう少し急ぐか…覚悟しておけよ、菊丸。」

「ん?…んん…?…え、あ、あーーーーーーー!!!!!」

「耳元で叫ぶな。」

「い、い、急がなくていい!!!!!」

「聞かん。」





こんな手塚でも眉間に皺寄せてる時よりずっと好きだなんて、

結構重傷だよね、俺。

そんな事を思いながら手塚の背中を見て、やっぱりお手軽な幸せを感じてみる。

夏休みはまだ、これから。









了。




バレバレ…というか、ウィンドウタイトルにも付けている通り、あの曲から。
これは塚←菊っぽいなぁという、腐った思いつきより。塚菊ですよ。あくまでも。
てか…これ、いつだろう…。
1年でも2年でも3年でも辻褄が合わないよ…!!!!
ごめんなさい…は、半パラレルで…!!
しかも最後それとなく下ネタでごめんなさい…!!!せ、切腹…!?