Caress.




























目の前にあったから。

それ以上でも、それ以下でもなくて。

なんとなく、思ってしまっただけで。

あっさりと誘惑に負けて(まぁ、もともと逆らう気なんてなかったけど)それを口に含む。


「っぅ…!!」


ビクリ、と反応が返ってきて、少し満足した俺はそれから口を離した。

見下ろすと、眉間に皺をくっきり刻んだ手塚が俺に視線を向けている。

あ、顔赤い。


「お前は…何がしたいんだ。」


ため息を吐いて、手塚は持っていた本を閉じた。

ベッドの下に座っている手塚をベッドに寝転んでいる俺が見下ろすこの構図は、

俺的にかなり満足なものだったりする。

優越感っていうか、たまには見下ろさせろーって感じ?うん。

まぁ、そんか感じで手塚の部屋で過ごす休日、

いつも通りに本を読んでいる手塚の横で、俺もゴロゴロしながらテニス雑誌を読んでいた。

一冊読み終えてふと顔を上げたら、手塚の後頭部があって、少し赤く染まっている耳の端が目に入って。


「手塚って耳弱い?」

「俺の質問に答えろ。」

「美味しそうだなーって思ってさー。」


美味しそうだなぁ、なんて妙なことを考えてしまったのでした。

俺が言葉を口にした途端、手塚は訳がわからない、と視線で訴えてくる。

それには返事をせずにク、と腕だけで少し前へ移動して、そこに舌を這わせた。

ビクリ、と、再度手塚の身体が揺れる。


「手塚ってやっぱ耳弱いんだー。発見!」


口を離して俺が言うと、手塚は俺の舐めた耳を手で押さえ、ムッとしたように俺を見た。


「お前だって、そうだろう。」


そう言って手を耳から外し、ス、と伸ばされた指が、俺の耳に触れる。

表情や口調からは想像できないくらい、柔らかく。

ぞく、と、背筋に何かが通った。


「あ、れ…?」


呆然としながら手塚を見る俺に、手塚はさっきの指先みたいな笑みを向ける。

伸ばされた指がゆっくりと後頭部に回り、俺に背を向けていた手塚の身体が、俺に向き直った。

ゆっくりとした動きで、手塚は俺の側頭部に顔を寄せる。

頬に小さく息がかかって、また、小さく背に何かが通った。

寄せられた耳の端に、ゆっくりと手塚の舌が這う。


「ぅぁ…!」


ぞくぞく、と、先程とは比べものにならない位の感覚が身体を駆け巡った。

そんな俺を見て、目の前に戻った手塚は小さく笑う。


「お前だって、弱いじゃないか。」


酷く楽しそうに、笑う。


「手塚がエロいんだよ。」

「どうだかな。」


余裕かまして反論もしない手塚にムッとした俺は、手塚の肩を引き寄せて耳に舌を這わせる。

ぴく、と時折返ってくる反応が楽しくて、少し口を離してふ、と息を吹きかけた。

またぴく、と反応が返ってくる。


「手塚の弱点…耳?」


クス、と笑いながら耳元で囁くと、思い切り、頬をつねられた。

ぎゅうううううーーー。


「ぎゃーーーーーーーー!!!!痛いッ!!放せッ!!!!」

「馬鹿なことはやめろ。」


ぱ、と俺の頬から手を放すと同時に、手塚は微妙な顔をする。


「耳が寒い…。」

「あはは。風送ってやろうか。」

「いらん。」


耳に手をやったり離したりして複雑な顔。


「寒い?」

「耳がな。」

「あっためてやろーか?」


すすす、と寄って肩に顎を乗せて耳元で囁く。

少し驚いた顔をした手塚が俺を振り返った。


「誘っているのか?」

「耳だけね。」

「何だ、それは。」


憮然とした面持ちの手塚に、にんまりとした笑みを見せつける。


「あっためてやるのは、耳だけー。」


ふ、と再度耳に息を吹きかけると、俺が期待した反応は返ってこなかった。

その代わり、何がどうなったやらで俺を見下ろす、手塚の瞳。

さっきまで、俺が見下ろしてたのに。

何もされてないのに、背がゾク、と反応する。


「あれ…?」


ゆっくりと降りてきた手塚の唇が俺の耳に触れ、

ぴくりと反応する俺に手塚はやっぱりどこまでも柔らかい笑みを見せた。


「どうした。」

「っ、」


耳元で、息を吹きかけるように囁く声。

わかっててやってるだろ、コイツ…!!


「おま…」

「感じたか?」


そう言うと同時に、耳たぶを軽くはまれる。

殴ろうと振り上げた腕が、力無くベッドに落ちた。


「ばぁぁぁーーーーか。」

「自業自得だろう。」


どこまでも低い声が、俺の耳に響く。


「そんなに近くなくても聞こえるよ。」

「どうだろうな。良いのは目だけだろう。」

「うっさいよ。」


再度振り上げた手を、あっさりと掴まれた。


「あぁ、耳を暖めてくれるんだったな?」


そう言って、手塚は掴んだ俺の手を手塚の耳へと持っていく。

少し湿った、耳。

ぞれだけで、またぞくりと背に何かが走った。

触れているのは、俺の筈なのに。


「ふぎゃー。」

「変な声を出すな。」

「もうさーお前ムカツクー。」


大の字に転がって、降参。


「先に仕掛けたのは俺だけどさー、耳ばっか攻めやがって。

 変態かってーの。」

「何だ、こっちが良いのか?」


つい、と耳に触れていた手塚の指が、俺に唇に触れる。


「そだね、どっちかと言えば。」


その指先に、歯を立てる。


「痛いんだが。」

「噛んでるもん。」


口を離して、歯形にちゅ、と口付けた。


「手塚。」

「何だ。」

「好きー。」


驚いて目を見開く手塚に、してやったり、と笑みを向ける。


「誘っているのか?」

「さっきも聞いたよ、それ。」

「菊丸。」


誤魔化そうとした言葉を、あっさりと止められる。

覗き込まれた瞳に、心臓が止まりそうだよ。


「好きだ。」


いちいち卑怯なんだ、ばぁか。









終。