口下手な俺の彼氏は。




























口説き文句。




























「手塚ー。」


手塚の部屋で、家には手塚の両親もじいちゃんも居なくて。

つまり、完全に二人っきりって事で。

それなのに。


「てぇーづぅーかぁー!!」

「何だ。」


さっきから声かけてるのにムシ無視虫。

読みかけだったらしい洋書ばっか構ってさ。

俺なんか見向きもしねーの。

せっかく、二人なのに。


「かーまーえぇぇーーー!!」


バタバタと足をばたつかせながらベッドをギシギシいわせてみる。

ベッドは俺の特等席!!

座り心地抜群なのだ。

俺がはっきり主張してるのに手塚ってばちらって見ただけですぐ戻っちゃう。

いつもはこんなんじゃない。

いつもは二人で話をしたり時々キスしたりして楽しく過ごしてるのに。

ムッとするよ、そりゃ。

俺よりもその洋書の方が良いんですね、国光君は。

それなら俺だって考えがあるもんね!!!


「手塚。」

「何だ?」


こっちを向いた隙に眼鏡を奪う。

これで本なんか読めないだろう!!

手塚は明らかに眉間に皺を寄せて嫌そうにしている。


「…英二。」


ため息をついて俺の名を呼んだ。

二人の時にしか呼んでくれない名前だって、こんな時には嬉しくない。

構って欲しくてじっと手塚を見つめる。

見えてないだろうけど。


「返せ。」

「やだ。」

「返せ。」

「嫌だ。」

「返せと言っているだろう。」

「いーやーだーー!!!!」


どうでもいい言い合いが続く。

そんなにこれが大事?

そんなにそれが読みたい?


「英二。」


もう一度、ため息と共に名前を呼ばれた。

俺よりも、大事なのね。

コトリと机の上に眼鏡を置いて、ゆっくりと立ち上がる。


「俺、帰るね。」


眼鏡を付け直した手塚は驚いたような顔をした。

当然だろ?

邪魔しかしてないんだし。


「お邪魔しました。」


ぺこりと頭を下げて部屋を出るために扉に手をかける。

でも、押せども引けども扉は一向に開く気配がない。

コイツが手で押さえてる所為だ。


「開かないんだけど。」

「すまない。」


そう言って、手塚は振り向いた俺の肩に頭を乗せた。

何なんだよ。


「怒らないでくれ、英二。」

「手塚はその本の方がいいんだろ?」

「違う。」


ゆっくりと顔を上げた手塚は、困ったような苦笑を浮かべていた。


「どうしたらいいのかわからなかった。」


そう言って、もう一度謝られる。

…え?

それってさ。それって、つまり…


「意識してたって、事?」

「………そうなるな。」


苦笑を深めた手塚は、申し訳なさそうに扉を押さえていた手を離した。


「お前と居たくない訳じゃない。出ていかないでくれ。」


お願いされちゃ、断れないじゃん。

しょうがないな。と言って、俺は手塚の首に腕を回した。

良かった。俺と居たくないのかと思った。


「英二…。」


安心したように手塚は俺を抱きしめてくれる。

やっぱり俺は手塚が好きなんだって実感した。


「手塚って、案外エロい?」

「失礼だな。お前に限ってだ。」


どきどき鳴る心臓がうるさいけど、どこか心地よくて。


「俺は、お前の事になると理性が余りもたないようだからな。」


そう言って俺のほっぺに軽いキスをして。

その言葉、すっごい口説き文句だって気付いてる?

たぶん、気付いてないだろうけど。


「しょうがないなぁ。」


もう一回その言葉を言って、俺から手塚にキスをした。






口下手なくせに、最高の言葉をくれる俺の彼氏。

俺がその一つ一つにいちいちドキドキしてんの、気付いてんの?




















end.