11月28日。




























「どうやらお前は俺のタイプらしい。」


何の前振りもなく突然言われた言葉に、俺は呆然と手塚を見上げた。

11月最後の月曜日、放課後の部室。

もうみんな帰った後で、忘れ物して戻ってきた俺と部誌を書いている手塚。

俺がロッカーの中からその忘れ物を探している音と、

手塚が部誌を書く音だけが部室に響いていた。

そんな中の、突然の言葉。


「…え、何の話…?」

「いや…先日、アンケートであっただろう。好きなタイプ、という項目が。

 それを書き込んでいたら、覗き込んできた桃城がお前の事のようだ、と。」


至極真面目な顔で、手塚はそう言った。

うん、確かにあったよ。あったあった。

出来上がったみんなのアンケート結果を見て、不二と教室で笑ったりした。

手塚のも、見たよ。

確か…

何でも一生懸命やる子(おっちょこちょいでも良い)

明るく真面目な人

うん、確か、そんなだった気がする。

…俺、そんなタイプじゃないと思うんだけど…


「や、てか、女子の話だろ?あれ。」

「あぁ、そう返せば良かったのか。

 菊丸がそうならお前もそうだろう。と返したんだが、妙な顔をされたな。」

「お前な…。」


からかっているわけでもなく冗談な訳でもなく、

至極真面目にそう思ったからそう返した手塚の言葉は、

つまりはお前も俺のタイプだ、と言われているようなもので…桃にとっちゃ災難だな。

複雑な気分になったのであろう後輩をちょっとだけ羨ましいと思いつつ、

真面目な顔で頷いている手塚を見た。


「手塚って妙にずれてるよな。」

「…そうか?」


笑いをかみ殺しながらそう言えば、手塚は眉間の皺を少し深くする。

つーか、最初の一言はないだろ。告白かと思った。

ふと手塚の手元を見ると、部誌を書いていた手は今日の日付…

11月28日と書いた所で止まっている。


「部誌、書けよ。書かないと帰れないんだろ?

 んでさ、一緒に帰ろ。」


珍しくこうやって二人になった事だし、先に帰る理由もないし。

これは、手塚からの(無意識の)プレゼントなのかもしれない。

そんな、もはや妄想みたいな事を思いつつ、に、と笑ってそう言えば、

手塚は少し驚いたような顔をした。





今日は、俺の誕生日だったりする。





「構わないが…珍しいな。」

「良いじゃん、たまにはさ。」


手塚と俺との関係はといえば、部活仲間。それ以上でも、それ以下でもない。

友達って程、近いわけでもないし。


「あぁ。」


俺は、好きなんだけどさ。

まぁ…そういう、意味でね?

だから、一緒に帰れる=プレゼントな訳さ。うん。

俺って健気ーなんて思うと同時に忘れ物を発見して、ひょい、と軽く投げる。

今日が誕生日だと知った桃が、「おめでとうございます!」の言葉と一緒に

鞄の中から出してくれた箱に入ったキャラメル。

腐るものじゃないし、明日でも良かったんだけど…せっかく、誕生日だから、とくれた物だし。

そう思って、取りに戻ってきた。

うん。手塚からというより、桃からのプレゼントのおまけかもしれない。

そう思って、俺は小さく笑う。

勿論桃だって、俺が手塚の事が好きだなんて夢にも思ってないだろうけど。


「やーでも、何でも一生懸命にやるとか、明るく真面目とかはともかく、

 手塚がおっちょこちょいな子が好きだなんて、意外だなー。」


手塚の横に立つのが俺じゃない、女子だろう事なんて、ずっとわかってた事だけれど。

アンケートの手塚の欄を見たとき、大笑いに誤魔化して、ちょっとだけ泣きそうになった。

わかってるよ、ちゃんと。

わかってるんだ、ちゃんと。

例えば、委員の仕事だとか。

例えば、体育祭のフォークダンスだとか。

それら全て、俺が振り分けられるのは手塚と同じ、だけど別の場所で。

それら全て、手塚と別の、だけどその隣に立てるのは女子で。

同じ事をこなせるのも、その掌に堂々と触れられるのも、手塚と異なるから。

同じ場所に振り分けられる利点は、恐ろしくなる程多いけれど、

一緒に帰ろうって言えるのも、一緒に部活が出来るのも、その利点だけれど…

決定的な欠点は、それを凌ぐ程に大きい。

カリカリ、とシャーペンを走らせる音に重ねて俺がそう言うと、手塚が顔を上げた。


「そうか?」

「うん、だって、大人しー感じの、

 こう、お姉さんーって感じの子が好きだと思ってたから。」


何度も見かけた手塚の横に立つ女子達の姿を想像しながらそう言うと、手塚が一度頷く。


「あぁ。桃城も言っていたな。」


何で桃。と思ったけど、書いてるときに桃がいたんだっけ、と思い出して、ちょっと謝っておいた。

おまけまでくれたのに、変な嫉妬してゴメン、桃。


「あーだろうねー。だって、手塚ってそんな感じだよ。

 完璧主義っていうか。」

「…何でも完璧にこなしてしまうよりも、少々抜けている方が可愛らしいと思うが。」


お前がそれを言うのか、と思いつつも、手塚の放った言葉に思わず動きが止まった。


「か、可愛い…?」

「あぁ。可愛いだろう。」

「うわーーーーー!!手塚が可愛いとか言ったーーーー!!!!!!」


ガタガタガタッと、盛大な音を立てて後退る俺に、手塚は怪訝な顔を向ける。


「何だ。」

「や、だだだ、だって!」


思わず真っ青な顔をしてどもる俺に、手塚は不本意そうな顔をした。


「…手塚、可愛いとか思う思考回路持ってたんだ…!!」

「お前は俺をなんだと思っている。」


憮然とした面持ちの手塚を、パチパチと瞬きをしながら見つめる。

暫くそうやって視線を合わせた後、手塚は小さなため息を吐いて部誌の続きを書き始めた。

可愛いとか、思うんだ。

何となく、ショックだった。

そんな思考からは、それはもう、程遠いと思っていたから。

『好みのタイプ』もそうだけど、それよりもずっと…横に立つ誰か、が、明確になった気がした。

それでも、わかってた事だと繰り返し、俺は手塚に笑顔を向ける。


「まぁまぁ。んー、じゃぁさ?手塚はそーゆーの以外に何を可愛いって思う?」


手塚的に『可愛い』物なんて、滅多に知る機会なんてない。

大きすぎる欠点より、今は、恐ろしくなる程多い利点を見る。


「…突然言われても、思いつかない。」


少しの沈黙の後、手塚はそう言った。


「何でも良いよ。なんか、ない?」


笑いながら俺が尚も聞くと、考え込むようにまたシャーペンの動きが止まった。

暫く、待つ。


「…………………自宅の、池の、鯉。」


絞り出すような声で告げられたのは、一般的な可愛いとは程遠そうな物。

思わず吹き出せば、手塚はバツが悪そうに眉間に皺を刻む。


「菊丸。」

「ご、ごめ…あはははは…も、手塚、最っ高!!!!!」


暫く笑い続ける俺に、手塚はまたため息を吐く。

俺といるとき、手塚はため息を吐く事が多い。

呆れとか、困惑とか、象徴するように、誤魔化すように、ため息を吐く。

多分、俺みたいなのは苦手なんだろうな、と思う。

それでもこうやって一緒にいられるのは、利点の一つ…の、おまけ。

テニス部員で、レギュラーで、約2年間、ずっと一緒に部活してたから。


「ゴメンって。ペットは可愛いもんな、うん。

 うちの犬とかインコとか…俺の大五郎と一緒一緒。」

「大五郎?」

「そ。俺の部屋にいる、でっかい熊のぬいぐるみ。」


こんなの、と手を広げて大五郎の大きさを示すと、手塚は少し驚いたような顔をした。


「熊のぬいぐるみ…お前、14だろう?」

「そだけど、良いじゃん。可愛いんだって!今度手塚にも見せてあげるよ。」


自分の言った言葉にも、手塚の言った言葉にもドキドキしながら、へへへ、と笑う。

14だろう?と言った手塚。

今の時期で言えば、14になっていない方が少数派。

それに、俺らの年齢を総じて14と言ったのかもしれない。

それでも、『今日』言ってくれた事が、少し、嬉しい。

手塚にも見せてあげるよ。と言った俺。

大五郎は家にあるんだよね。

デカイし、持ってこれるようなもんじゃない。(つーか、持ってきたらグラウンド10周かな。)

なにげにお誘い?なんてね。


「終わった。」


パタン、と部誌を閉じる音が響いて、手塚が立ち上がった。


「おう。帰ろっか。」


桃からのプレゼントをポン、と投げて、キャッチ。

手塚の視線がその軌道を辿る。


「あ、お咎めは勘弁ね。」

「わかっている。」


やべ、と思って手塚を見れば、頷きが返った来た。

あの場に、手塚はいなかった筈。

何をわかってるんだ?

疑問に思いつつ、部誌を所定の位置に返す手塚を見る。

手塚は相変わらずの無表情のまま、筆記用具を筆箱に仕舞って鞄に入れた。

そのまま閉じると思っていた鞄のチャックは開いたままで、手塚は何かを探している。


「探しもん?」


なんなら一緒に探すよ?

と言った所に、突然ぎゅ、と握った拳が差し出された。

ぽかん、と口を開けた間抜けな顔で、俺は手塚を見上げる。


「…え?」

「手を出せ。」


反射的に、手を差し出した。

握った手塚の掌がゆっくりと開かれて、コロン、と小さな何かが俺の手の中に落ちてくる。


「誕生日だろう?おめでとう。」


至極真面目な顔で、手塚はそう言った。


「あり、が、と…。」


知っているなんて、知らなかった。

手塚の誕生日が先月だって俺が知ったのは、もうその日が過ぎた後だったのに。

手塚が、何で。

掌の中にあるのは、小さな、熊のキーホルダー。


「これ…?」

「茶を買ったら、ついてきた。元手もかかっていない物で悪いな。

 …それは、可愛いと思うんだが。」


俺がさっき、大五郎の話したから…?

ってゆーか、手塚が熊のキーホルダーを可愛いとか言ってる…。


「…うん。」


呆然としている俺の口から出てきたのは、肯定の意を示すだけのたった二文字。

掌で揺らせばコロリ、と裏返る熊のキーホルダー。


「手塚。」


見上げれば、無表情。



「好きだよ。」








口をついて、出た。

無表情が、ゆっくりと動いて驚きに変わる。

あ、と思った時には、もう遅かった。

冗談にするにはあまりに唐突すぎて、あまりに真剣に言いすぎた。

あまりに真っ直ぐ、手塚を見過ぎた。

あまりに感情を、目の中に滲ませすぎた。

伝える気なんて、なかったのに。

手塚の表情だけで、その言葉の意味合いが正しく理解された事を悟る。

誤魔化しの言葉すら、口をついて出ない。

さっきは、俺の意志なんか無視して勝手に出てったくせに。


「……………。」

「……………。」


沈黙が、痛い。

息が、出来ない。


「菊丸。」


答えなんて、欲しくないのに。


「俺は…お前と共に笑い合う事など、した事はないと思うが。」


至極真面目な顔をして言った手塚の言葉に、

どういう意味だろうか、と呆然としていた思考を鈍く回転させる。

暫く考えて、それが俺の好みのタイプの回答だと思い当たった。


「ない…けど。」


それでも、好きなんだからしょうがないじゃん。

言いそうになった言葉を、何とか押し留める。

俯いた俺の肩を、トン、と手塚が軽く叩いた。


「返事は…急ぐか?菊丸。」


そう言った手塚を、ゆっくりと見上げる。

ゆるゆると首を左右に振れば、少し安心したように手塚は息を吐いた。


「…俺は、お前のことをそういう対象として、見たことがないから…

 突然で…どうしたらいいか、わからない。」


すまないな。と謝る手塚に、もう一度首を左右に振る。


「俺こそ。ホントは言うつもりなかったんだけど…ゴメン。

 あの、さ。気持ち悪いなら悪いで、そう言ってくれて良いから。

 返事、しなくても、良いし。」

「…いや、そういうわけではない。ただ…驚いているだけだ。」


本当にただ驚いている様子の手塚の言葉に、俺はやっと、笑みを見せることが出来た。


「ありがと。」

「何が、だ。」

「俺が好きだって言ったこと、否定しないでくれて、ありがとう。

 もう一回、ちゃんと言っていっかな?」


少し目を見開いた手塚の目を見て、さっきみたいに呆然とした顔じゃなくて、

満面の笑みで、告げる。


「好きなんだ…手塚が。」

「…あぁ。ありがとう。」


照れながら笑うと、手塚はやっぱり、至極真面目に頷いた。


「帰ろっか。」


横に置いてあったバッグを持って、手塚に向き直る。

手塚は一度頷いて、俺と同じようにテニスバッグを持った。

部室の戸締まりを確認して、忘れ物…桃から貰ったキャラメルを持って、部室を出る。

パタン、と閉じたドアに、手塚が鍵をかけた。


「菊丸。」

「うん?」


振り返った手塚は、少し照れたようなぎこちない口調で、


「誕生日、おめでとう。」


改めて、そう言う。


「うん、アリガト!!」


今度は、満面の笑みを返した。









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+コメント+

 菊丸英二、おめでとう!
 菊丸英二誕生日は、お約束ネタで行ってみようキャンペーンです。
 コンセプトは誕生日に告白!
 手塚が菊にあげた熊のキーホルダーが、リラックマだったら良いと思う。
 いえ、お茶になんて付いてないでしょうけど。…リラッ塚だったら最高です★
 …こっそり白状すると、えぇ、未読です。20.5。えぇ、すみません。て・へ★
 てか、誕生日なのにこんなんでゴメンね、菊!
 ちゃんと続くから!流石に誕生日に嫌な目には合わせたくないという、
 茶瓜のこすい技です。えぇ。
 ってな訳で、待て翌日!なのでした。
 とにかく、おめでとうね!菊丸英二v

2005-11-28 茶瓜。