11月29日。




























「桃ーー!!」


誕生日だろうとその翌日だろうと、平日だからには朝練があって。

練習開始前、ラケットを持つ背中に思い切り飛び付くと、

俺より少し背の低い後輩は思い切り前のめりに倒れる。


「エージ先輩ッ!危ないじゃないッスか!」

「まぁまぁ。昨日はさんきゅな!キャラメル美味かった!」

「ウィッス!」


おまけを含めた礼を改めて言うと、桃はニニーっと嬉しそうに笑った。

わしわし、とわざと乱暴にその頭を撫でると、セットしてるんスから!と、桃は困ったように笑う。

年下なのに、やっぱりどこか長男くさい後輩。

年上なのに、やっぱりどこか末っ子くさい俺。

だからだろうか、後輩の中でも特別位に仲が良い。

ふと顔を上げると、いつ部室から出てきたのか、コートの入り口に立っている手塚と目が合った。


「手塚、おっはよー!」


桃の背中に張り付いたまま手を振ると、手塚は少し驚いたように目を見開く。

あり?


「なぁ、俺何か変だった?」

「や、いつも通りじゃないッスか?」


俺と同じく視線を手塚に向けていた桃も、

目を見開いた手塚に少し不思議そうに首を傾げた。

昨日はあれから、何もなかったのかって位普通に話をしながら二人で帰ったし、

挨拶したくらいで驚かなくても良いと思うんだけど。

返事は待つって言ったし、今まで通りにしてるだけ。

押しつけることもしたくないし。


「部長、おはようございます。」

「…あぁ。おはよう。」

「うわ、酷い!手塚ってば俺のこと無視ー?」


桃の背中から身を乗り出したままそう言って手塚に抗議すると、

手塚は少し困ったような顔をする。


「いや…そういう訳ではない。おはよう、菊丸。

 そろそろ着替えなければ始まるぞ。」

「うっそ、やべ!」


ダッシュで部室に向かう俺の背を、手塚の視線が追っていた。






「おっはよ!」


部室のドアを開け放つなりそう言った俺に、部員の視線は当然集まる。

俺を認識して、挨拶が返ってきた。


「おはよう、英二。珍しく遅いな。」


笑みを浮かべながら挨拶を返してきたパートナーに、床にテニスバッグを置きながら笑顔を返す。


「桃構ってたら遅くなった。」

「ふふ、ゆっくりしてたら走らされちゃうよ?」


返事を返しながらテニスバッグを開けると、もう準備の出来たらしい不二がそう言って笑った。


「わかってるっての。つーか、ご本人にご指摘いただきましたから。」

「そう?」


くすくすと笑いながら、じゃぁ、お先に。と言って不二は部室を出て行く。

テニスバッグからポロシャツとジャージを出すと、ガシャ、と音がして中に入れていた携帯が落ちた。

その携帯には、昨日手塚に貰った熊のキーホルダーが揺れている。

へへ、と少し笑って落ちた携帯を拾い、そこに表示されている時間を見て慌てて着替えを始めた。




























「どうしたの?随分と上機嫌じゃない。」


昼休憩の、教室。

同じクラスな事もあって一緒に昼食をとる不二が、俺を見て言った。


「う…わかる?」

「ほっぺた雪崩起こしてるよ。」

「うー…へへへ。」


用もないのに携帯を机の上に出してニヤニヤしてれば当たり前か、と思いつつ、

にーっと笑えば、不二もつられたように笑う。


「嬉しいメールでも来た?」

「んーそんなトコ?」

「英二にも、ついに彼女かぁ…。」


そこらで買ったお茶に付いてるキーホルダーが原因だとは気付かない不二が、

そう言ってわざとらしくため息を吐いた。

彼女じゃないし、片想いだけどね。


「なになに、しんゆーに相手が出来たら寂しい?不二。」

「親友すら漢字で言えない親友なんて考え物だけどね。」

「えぇー?俺と不二の仲じゃーん。」

「それ、この前大石にも桃城にも言ってたでしょ?」

「何だ、知ってんのかよ。」

「ボクを誑かそうなんて、10年早いよ?英二。」


くすくす笑いながらそう返した不二に、ちぇ、と口を尖らせてみせる。

俺が言わない限り、不二は相手が誰かなんて、きっと聞いてこない。

そーゆーヤツで、そーゆー距離。

俺の性格を知った上で、必要ないことを知ってる。

言いたくなったら、言えばいい。

そんなヤツ。


「不二っ!」

「何?」


名前を呼んでニィーーーーと笑えば、不二は一度キョトンと目を丸くした後、

ぷ、と小さく吹き出した。


「…あ。」


ふと視線を向けた廊下。

委員の仕事をしてるらしい手塚と、その横に、女子が一人。

何か話をしながら、通り過ぎていく。

良いなぁ…。

思わず目で追っていると、ふいに教室内に視線を向けた手塚と目が合った。

その瞳は、朝と同じく驚いたように一瞬見開かれ、そのまま逸らされる。

朝練の最中も、何度か目が合っては驚かれた。

俺が手塚を見るのは日課みたいなもんで、

目が合う事もたまにはあったけど、驚かれたことなんてなかったのに。

やっぱ告っちゃったからかな…なんて思いつつ、

でも毎回驚かなくて良いのに。と思いながら視線を不二に戻す。


「手塚は相変わらず忙しそうだね。」

「だな。」


机の上の小さな熊が、少し傾いた。




























「27回…。」


ボソリ、と呟いて、ため息を吐く。

今日一日で、手塚と目が合って驚かれた回数だ。

毎回毎回、驚かなくても良いのに、驚かれる。

見るなって事か?なんて思いながら、部活中、自分の順番が回ってくるのを待っていた。


「菊丸?」


呼ばれて顔をあげれば、丁度終わったらしい乾が俺を見下ろしている。

ひらひら、と手を振れば、不思議そうに見返された。


「そういえば、今日はやたらと手塚が菊丸の方を見てるね。」


乾の観察力がモノを言うデーターは、こんな時でも収集中らしい。

今はコートの中にいる手塚に視線を向けた乾が、そう言う。


「やっぱ?もうすっげー目が合うんだよね。」

「手塚をからかって遊んだのか?」

「んなわけないっしょー。」


からかって遊んだ訳じゃないから、そこは否定しておいた。

原因ならわかっているけれど、こうもあからさまだと、俺もちょっと困る。

どうしたもんかな、と悩んでいると、タカさんがコートから戻ってきた。


「英二、交代。」


差し出された手に、パシ、と音をさせて手を重ね、了解の意を伝える。

コートに立って、ラケットを握った。

スミレちゃんから出される玉を、取って、返す。

その間ずっと、視線が背中を刺していた。




























「菊丸。少し時間…良いか。」


呼ばれた声に、少し驚いて頷く。

どっちみち、話がしたくてわざとゆっくり着替えてたんだけど…

手塚から声をかけられるなんて、思ってもみなかった。

ゆっくり着替えたおかげで、部室には誰も残っていない。

昨日と同じ。

ひとまずは着替え終わって携帯を胸ポケットに入れ、手塚に向き直る。

手塚の口調は少し硬いもので、多分、返事なんだと思った。


「昨日からずっと思っていたことを聞いても良いだろうか。」

「う、ん。」

「…どうして、俺なんだ?」


手塚の問いに、俺は驚いて目を見開く。

どうして、と、聞かれても。


「昨日も言ったと思うが、

 俺はお前の『好きなタイプ』とやらとは縁遠いように思うが。」


そんな事、聞かれても。


「だって、手塚が好きなんだから…しょうがないじゃん。

 『好きなタイプ』だから好きになるわけじゃ、ないだろ?」

「…そうか。」


俺の返事に、手塚は納得したように一度頷いた。

少し思案するように視線を床に向け、手塚は俺に視線を戻す。


−−−来る










「こんな事ならば、もっと別のモノを用意すれば良かったな。」




らしくないほど小さくその言葉放ち、

手塚は俺の胸ポケットの前で揺れている小さな熊に視線を向ける。

俺は意味を図りかね、口を開けた間抜けな顔で手塚を見上げていた。

この間抜けな顔は、2回目だ。

ぱちり、とゆっくり瞬きをして、目の端に映ったもの。

手塚の耳の端が、少しだけ、赤い。


「手塚…?」


照れて、る…?

俺が名を呼ぶと、手塚は顔を逸らしてその顔をはっきりと赤く染めた。


「な、何で!?」


思わず叫んだ俺の言葉に、手塚は赤い顔のまま少し不機嫌そうに俺に視線向ける。


「なんで、とは。」

「だって、昨日の今日じゃん!!!」


俺の混乱は、もっともだと思う。

昨日は驚いたって、困った顔したのに。


「…視線が、合っただろう。」

「合った、よ。あんまりにも合いすぎるし、その度に驚くから…

 乾も気付いてたし、それを言おうと思って俺、残ってたんだよ。」


じ、と赤い顔の手塚を見上げて言うと、手塚は小さく息を吐いた。


「教室でも部活中でも、焦点が合っているにしろ合っていないにしろ、

 俺の視界にはお前がいた。

 以前から無意識に、お前を視界に入れようとしていたらしい。

 お前と視線が合う度に、お前を視界に入れようとしていたことに気付いた。

 意識していれば視界に入った途端焦点はお前に行ってしまうし…

 目がよく合ったのは、そういう事だろう。」


隣に女子がいたって、俺を見てたって、事。

手塚の言葉に、俺は驚いて見上げるだけ。

少し落ち着いてきたのか、手塚は顔の赤みが少し引いている。


「でもそんなの、昨日俺が告ったからじゃ…。」


そんな事、信じられない。とばかりに言う俺を見て、手塚は再度小さく息を吐いた。


「…俺は、お前の『好きなタイプ』ではない、と言っただろう。」

「言った、けど。それが…」

「覚えていると思うのか?俺が。」


『好きなタイプ』なんて、情報を。

そう言うと、手塚はまた視線を逸らした。

少し引いていた顔の赤みが、また戻っている。


「誕生日だって、そうだろう。」


誕生日も好きなタイプも、あのアンケートの項目の、1つ。

わざわざ読んで、

わざわざ覚えていなければ、昨日の言葉だって、出ない。

見たけど覚えてなかったから、桃は当日、持っていたキャラメルをくれたんだから。


「今更気付くのも、間抜けだと思うが。」


視線を逸らしたままこっちを見ない手塚の腕を、ぎゅ、と掴んだ。


「俺…こそ、お前の好みじゃ、ないよ。桃勘違いしてる。

 良いの?」


少なくとも、男の俺は可愛くなんかない。

そう言うと、手塚は俺に視線を戻して、赤い顔のまま少し困ったような顔をする。


「可愛い…かどうか、は、ともかく、

 俺は、お前が好きだし…お前の笑った顔がとても好きだ、と、思う。」


ぽつり、と零すような手塚の言葉。


「好みだから好きになるわけでは、ないのだろう?」


手塚、顔さっきより、赤いよ。


「っ、好きだ、手塚!手塚が好き!」


身を乗り出すように、手塚に向かって叫んだ。

驚いたように目を見開く手塚に、同じ言葉を繰り返す。


「好き!手塚が、好き!!」

「わ、わかった、から。」


あまり叫ばないでくれ。と、困ったように手塚は俺を見て言った。

首まで赤い、手塚。

俺も、多分。


「すっげーすっげーすっげー、好き。」


ふにゃ、と、締まりのない顔で笑いながら、俺は手塚を見た。

そんな俺を見て手塚は小さく息を吐き、ぽん、と、一度頭に掌を乗せる。

そしてそのまま、ぎこちなく何度か撫でられた。

…どうしよう。

めちゃくちゃ、嬉しい。


「菊丸。」


ぎこちない掌を俺の頭に乗せたまま、手塚は俺を呼んだ。


「1日遅れで悪いが、もう一度、改めて…言わせてもらっても良いだろうか。」


あ、それ…昨日の俺と、一緒。







「誕生日おめでとう。

 菊丸が、好きだ。」



頷いた俺は、彼が好きだと言ってくれた満面の笑みで。

俺の胸元では、彼が可愛いと言っていたキーホルダーが

ゆっくりと揺れていた。









了。




+コメント+

 余裕で約2時間遅刻。ゴメンよ、菊。愛だけは詰め込んでみましたv
 二人とも無駄に初々しい感じで。は、はずかしー!!!
 基本的にうちの手塚的には、菊は好きなのです。可愛いとは、思ってないと思います。
 可愛いと考える対象じゃない、というか。
 菊もそう。塚はカッコイイとは、ちょと違う。
 …もうこの時点で、一般的な塚菊ズレズレ。いぇあ!(某さん裏切ってすみません!)
 たまには精一杯手塚大好きな菊も宜しいかと。
 たまには大慌てする手塚も宜しいかと。
 と、いう訳で、二日間かけて精一杯お祝い!
 菊丸英二、おめでとう!なのでしたv

2005-11-29 茶瓜。