明確な形で、それは始まった。




























カウントダウン。




























幸せな夢を見た翌日の同じ時間。

昨日のようにうとうととしていた英二の目の前が真っ暗になって、

白い文字で86400という文字が一瞬だけ表れた。

は、っと目を開けると、目の前にはテニスバッグを担いだ手塚。

何…?

少し混乱した頭で出かけようとする手塚を見つめた。


「…行って来る。」

「…あ、うん。行ってらっしゃい。」


英二を振り返って名残惜しそうにそう言った手塚に、英二はホッとして笑みを向ける。

手塚はいつも同じ時間にテニスをしに出かけた。

多少のズレはあっても、大体同じ時間に出て、同じ時間に帰ってくる。

今日は不二も大石も予定があるそうなので、来る予定もない。

手塚は一度英二の髪を撫でて部屋を出ていった。

暫くして訪れた静寂に、また意識がふらふらと睡眠の波へ引きずり込まれようとする。

また来るかも知れない数字と暗闇に少し怯えたけれど、心配は杞憂に終わり、あっさりと眠りについた。




























真っ暗の中に突如表れた数字。

79200。




























バチッ


驚いて目を開ければ、同じく驚いたような手塚と目が合った。

また、数字。

そして、少し減っている、数字。


「起こしたか?」

「うんにゃ。ごめん。」


心配したように英二をのぞき込む手塚に否定の返事を返す。

そうか、と言って手塚は背負っていた荷物を置いた。

どうやら手塚は帰ってきたばかりらしい。

少し身体が汗ばんでいる。

ふと時計を見れば2時間ほど経過していた。


「英二、風呂に入るぞ。」

「ん、ヨロシク。」


英二を車椅子に移して手塚は風呂場に向かう。

手塚が帰ってくる時間に合わせて、家族達は毎日風呂を沸かしてくれていた。

洋服を脱がし、幾度かお湯をかけてから英二を浴槽に入れる。

ずれて溺れないよう、浴槽の中には滑り止めの付いた椅子が設置されていた。

手塚は服は脱がずに袖と裾をまくって英二の体が温まるまで待つ。


「もう良いよー。」


英二の身体が温まると手塚は湯船から出し、髪を洗ってやる為に頭からお湯をかけた。

わしわしわし。

髪を洗って貰うのに英二は目を閉じる。

髪に触れる手塚の指が、とても心地よかった。

気持ち良くて、少しうとうととする。





77400。




「英二!!」

「ぅわっ!!ご、ゴメン手塚!!」


どうやら眠ってしまったらしく、カクリと前に倒れそうになった英二の身体を手塚が支えた。

謝った後に礼を言って、英二は先程現れた数字を思い出す。

少しだけれど眠った瞬間に確かに表れた数字。

また、少しだが減っている数字。


「大丈夫か?」

「ダイジョーブ!!手塚も、入ろう?」


心配そうに英二に声をかけた手塚に笑顔を返して、風呂に入るよう促す。

頷いた手塚は英二を浴槽に入れ、服を脱いだ。

英二がぬくもっている間に手塚は髪と身体を洗う。

ふと自分の身体を見ればさっぱりとしていて、

うとうととしている間に全て洗い終わっていたことに英二は気付いた。

そして、もう一度思い出す数字。

一番初めは昨日の夕方見た夢の中。

172800。

次は昨日とほぼ同じ時間の今日。

86400。

3回目はその約2時間後。

79200。

そして、さっき。

77400。

一番初めと2番目の減り様はかなり多いのに比べて、2番目と3番目の減り様はそこそこだし、

3番目とさっきの減り様は随分と少ない。

何なんだろ…?

うーんうーんと英二が悩んでいると、身体を洗い終わった手塚が湯船の中に入ってきた。


「どうした?」


悩んでいる様子の英二に、心配そうに手塚が声をかける。


「なぁ、手塚。数字が表すものって何だろう?」

「数字?」


湯船に二人で浸かりながら英二は手塚に疑問を投げかけた。

数字…。手塚はそう呟いて思い付く限りのものをあげる。


「スコア、点数、成績、日付、時間、距離、金、量…。」

「!!!!!!」





まさか。





湯船に浸かっているにもかかわらず、英二の背を冷や汗が伝った。

とっさの暗算で出てきた数字を、手塚に投げかける。


「手塚…86400を3600で割ったらいくつ…?」


突然計算問題を出された手塚は、少し考えて結論を出した。


「24だ。」


にじゅうよん。

英二の頭の中でその数字がぐるぐると回る。

86400は2番目の数字。

3600は、60×60の答え。

…1時間を、秒数に直したもの。

172800は、86400の2倍の数。

確か、172800から86400迄の経過時間は丸一日。…24時間。

86400から79200迄の経過時間は、2時間。

そして、86400を3600で割ると24。

86400から79200を引いて出てきた数字は7200。

7200を3600で割ると、2だ。


つまり、

これは…




























明確な死への、

カウント、ダウン。






































風呂から上がって寝る直前現れた数字は、

66600。











英二の命が消えるまで、あと…18時間30分。









続く→