俺達と英二のご家族は家を借りて暮らし始めた。

英二の家の方が良かったけれど、車椅子で過ごすには不便すぎたからだ。

広くて大きくて病院の近くにある段差の少ない一軒屋。

その一階の2間続きの部屋で、俺と英二の生活は始まった。




























カウントダウン。




























「手塚。」


英二は手塚を呼んだ。

これから、この部屋で俺と手塚の生活が始まる。

迷惑も沢山かけると思うし、手塚は凄く大変だと思う。

でも、24時間一緒にいられるのが嬉しくて。


「これから、宜しくお願いします。」

「こちらこそ、だ。英二。」


互いに笑顔を向ける。

車椅子に座ったままだった英二を手塚は抱きかかえて、ベッドへと移動させた。

ゆっくりと下ろして、背を二度ほど軽く叩いた。

英二は手塚を見上げ、微笑む。


「よ!英二。」

「英二ー!!」

「英ちゃんっ!!」

「英二っ!!」


ひょいっと英二の兄姉達が顔を覗かせた。

手塚は一度頭を下げる。

英二は嬉しそうに迎え入れた。


「大姉大兄ちい姉ちい兄!!」

「調子は?手塚君もだけど、俺らも一緒なんだからな!忘れんなよ?」

「何だよ、それ!!当たり前じゃん?」

「手塚君も大変だなぁ。英二、煩いだろう?」

「いえ、いつものことですから。」

「うわ、兄ちゃんも手塚も酷ぇ!!」

「相変わらず仲が良いのねぇ…。」

「良かったね、英二。」

「…うんっ。」


英二は嬉しそうに微笑む。

その笑顔を見て、兄姉たちも微笑んだ。

そして、手塚に向き直る。


「手塚君。」

「はい。」

「英二を、頼みます。」

「っ、はい。」


まるで、お嫁に行くようだと、英二は思った。

頭を下げる兄姉たちに、頭を下げる恋人。

自然と頬が緩んでくる。

正しくは手塚が婿養子になったような感じだけれども。


「手塚っ。」

「どうした?」


英二が手塚を呼ぶと、顔を上げて手塚も英二を見た。

英二は精一杯の力で手塚に抱きつく。

それでも弱々しい英二の身体をやんわりと手塚が抱き留めると、英二は頬を染めて


「幸せにしてね?」


そう言って、にっこりと微笑んだ。


「勿論だ。」


手塚は英二の髪をゆっくりとすく。

見つめ合って、幸せそうに。

そんな二人を見て、英二の兄と姉たちは顔を見合わせた。


「英二っ!!」


そして、英二を呼ぶ。

英二が手塚の腕の中から兄姉たちを見ると、嬉しそうに微笑む4つの顔。

不思議そうにしている二人に駆け寄って、


「幸せになれよ!!」


英二を抱きしめている手塚ごと、4人で抱きしめた。


「うわっ!!」

「にゃはははは!!!!!」


英二は声を上げて笑う。

驚いている手塚と微笑んでいる兄姉たちに抱かれながら、

嬉しくて嬉しくて、涙が出そうになった。




























「手塚。一緒に、寝よ?」


そろそろ寝ようと、英二を車椅子からベッドへ移した後、

英二は手塚を見上げて言った。

英二のベッドは手塚が一緒に寝ても支障ない程には大きな作りになっている。

でも、体が自由に動かない英二と一緒に寝ても大丈夫だろうかと手塚は思う。

もし、自分が英二の腕を踏んだりしてしまえば腕は折れてしまうし、

自分がいることで、ただでさえしにくい寝返りがしにくくなるのではないかと思うのだ。


「駄目だ。俺はここにいる。手を握っていてやるから。」

「でも、それじゃ手塚ゆっくり寝られないじゃん。」

「大丈夫だから。」

「駄目!!!な、一緒に、寝てよ。」


懇願するようにすがりつく英二を柔らかく抱きしめて、手塚は髪を撫でる。

英二の恐怖は、いつも夜にやってきた。

それを知っているから、安心させるように、優しく優しく。


「英二、大丈夫だから。」

「ダメだよっ!!だったら、俺も寝ない。ずっとこうして手塚を見てる。」

「英二、いい加減に…」

「迷惑だってわかってる。でも、お願い。

 手塚の体温、少しでも長く感じていたいんだ…。」


気付けば英二の身体は震えだしていて。

手塚は一度小さくため息をついて、英二を抱きしめる腕を少し強くした。


「ゴメ…」


ため息に気付いた英二は顔を勢いよく上げて、後悔するような目をする。


「違う。俺はお前を泣かせてばかりだと、自分に呆れていただけだ。」

「そんなっ!!俺が我が侭言ってただけで…。」

「お前はもっと甘えて良いんだ。英二。」

「あんま甘やかしちゃ、駄目だよ。つけあがる。」

「それもお前なら、可愛いものだ。さぁ、寝るんだろう?英二。」


手塚が言った言葉に、また俯きかけていた英二が嬉しそうにぱっと顔を上げた。

その直後、また後悔する目を見せる。


「あ、ゴメン、手塚。一緒に寝ると…その、辛くない?」

「…そんなこと、気にしなくて良い。」


英二が気にしているのは、おそらく肌を重ねられないという事だろう。

当然、英二にはその行為に耐えられる体力など残っていない。

だから、一緒に寝ることで悪戯に煽るのではないかというのだ。


「お前が隣にいることが一番大事なんだ、英二。

 肌を重ねるのが目的で、お前と一緒にいるわけではない。

 あぁ、でも…抱きしめて寝るのだけは、勘弁してくれ。」

「…うん。アリガト、手塚。」


手塚が苦笑して言うと、少し照れたように微笑んで英二が答えた。

抱きしめて寝てしまえば理性との戦いになるのは必至だというのもあるが、

それとは別に、拘束したまま寝てしまえば力のない英二の負担になるという理由もあった。

英二のベッドにあがって、ゆっくりと髪を撫でる。


「キスして良い?手塚。」


照れたまま英二が笑って、答えも確認せずに ちゅ と軽く手塚の唇に触れた。

手塚は驚いて髪を撫でる手を止める。


「大好き。」


そう言って手塚の胸に身体を預けた英二を、

どっちみち理性との戦いになりそうだと、手塚は苦笑して抱きしめた。









英二の命が消えるまで、あと約12日。









続く→