夜になると、恐怖がやってくる。

手塚。手塚っ。側に…いてよ!!




























カウントダウン。




























「手塚君、少し、良いかしら?」


面会時間が終わり、英二の病室を出た手塚は英二の母親に呼び止められた。

待合室にあるベンチに座るよう促され、腰を下ろす。


「あなたは…今でも、英二の恋人…で良いのかしら?」

「はい。勿論です。」


手塚家よりも随分先に菊丸家の人々には英二と手塚の関係を理解してもらっていた。

もともと菊丸英二という人が隠し事が出来る質ではなかったのもあるし、

彼の部屋は兄と二人部屋だったと言うこともあり、早々にばれてしまったのだ。

当然のように反対はされたものの、英二の幸せそうな笑みに毒気を抜かれて

しょうがないな、と結果的に理解をして貰う形になっていた。

だからこその、電話だったりしたのだが。

手塚のはっきりとした言葉に、英二の母親は安心したようににこりと笑った。


「良かった。あのね、手塚君。あなたに頼みがあるの。」


手塚の目を見てゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あの子が生涯を終えるまで…ずっと、あの子と一緒にいて欲しいの。」

「どういう…意味でしょうか?」


意味を図りかねて、手塚は英二の母親に尋ねた。

英二の母親は、一度頷いて手塚に一つ一つ話し始めた。


「英二はもう、まともに歩けないわ。

 でも、意識ははっきりしているし、食事くらいなら自分で出来るの。

 車椅子と人出さえあれば、自由にも動ける。」

「えぇ。」

「だから、あの子は…死ぬまでに過ごす場所を選ぶことが出来るの。

 在宅介護も選べるって事ね。」

「はい。」

「残り約2週間、あなたに…それを依頼しても良いかしら?」


言われた言葉を理解するのに少々の時間を要した。

俺に、英二の世話を、依頼…?


「でも、俺はそんな資格はもってませんし、第一それならご家族の側に…」

「勿論、私たちも協力するわ。でも、英二がそれを望んでいるの。」


断ろうとした手塚の言葉を遮って、英二の母親は言う。


「看護婦さん達が言っていたわ。

 毎晩、面会時間が過ぎた後、あの子泣いているんですって。

 怖いって。

 あなたが側にいないのが、怖いって。」

「!?」


知らなかった。

手塚は思う。

去り際にはそんな仕草、全く見せなかった。

そう考えて、手塚はそれが違うことに気付く。

いや、おそらく違う。

多分英二は、俺が帰った後、突然思い出すんだ。

明日の朝まで、俺がいないことを。


「あの子は、誰よりもあなたが好きなのね。」


少し切なそうに俯いて、英二の母親は言った。

そして顔を上げて、


「フォローすると言っても、あなたに凄く負担がかかることもわかっているわ。

 側にいればいるほど辛くなるのも。

 それでも、あなたの側にいさせてあげて欲しいの。」


お願いします。と、英二の母親は頭を下げた。



ずっとずっと、一緒にいたかった。

英二の母親の言う通り、一緒にいればいるほど別れが辛くなるのはわかっている。

人の世話をするのが、簡単な事じゃないこともわかっている。

それでも、英二の側にいられるなら。



「顔を上げて下さい。

 英二君のお世話、お引き受けしても良いでしょうか?

 俺も…彼の側に、いたいんです。」


英二の母親に顔を上げるように促して、お願いします。と、今度は手塚が頭を下げた。


「ありがとう…手塚君。」


英二の母親の言葉に、手塚はなぜだか涙があふれそうになった。




























家族に英二と一緒に暮らす事を伝えた手塚は、母親に父親、

それに祖父にまでも一度だけ頭を撫でられた。

『頑張れ。』

何も言わなかったけれど、それだけは聞こえた気がした。


「手塚手塚手塚!!ずっと一緒ってホント!?」


次の日、手塚が英二を迎えに行くと、

車椅子に座ったはしゃいだ様子の英二が手塚を迎え入れた。


「はしゃぐな、英二。せっかく食べたものを吐いてしまう。」

「あーもう!!そうじゃないっしょ?な、ずっと一緒なの!?」

「あぁ、ずっと一緒だ。」


そう言って、手塚は英二をぎゅっと抱きしめる。

幸せなのも、辛いのも、

きっとこれからだ。









英二の命が消えるまで、あと約13日。









続く→