それから毎日手塚は俺の病室にやってきた。

面会時間始まりから終わりまで、本当に『ずっと』側にいてくれた。




























カウントダウン。




























英二と手塚が再会してから5日目の朝。

手塚はいつものように英二の病室へとやって来た。


「おはよう、英二。」

「手塚。」


入ってきた手塚を、英二は笑顔で迎える。

戻ってきてから、手塚は実家と病室との往復に時間の全てを費やしていた。

朝一番にやってきて、面会時間ぎりぎりまで居る。

帰りに少しテニスをして、家へ帰って寝る。その繰り返し。

病室から実家に帰ったとき、手塚は家族に英二との事を全て話した。

今まで黙っていたことも含めて謝った上で、それでも側にいてやりたいから、と、

家族に反対させる隙も与えずに頼み込んだ。

手塚の初めて見る姿に、家族は驚きながらも了承してくれた。

出来るだけ、英二君の側にいてあげなさい。

そう言ってくれたのは、母親だった。


「おはよー。今日もいい天気だねぇ。」

「あぁ。母さんが洗濯物が乾いて助かると言っていた。調子はどうだ?英二。」

「上々かにゃ?手塚が居るからね!!」


再会してから誰の前であろうとも手塚は『菊丸』と呼ばなくなった。

そして、常だった無表情など忘れたように、柔らかい笑みを終始浮かべていた。

例え、あの頃の部の仲間や後輩の前であろうとも。

初めは誰もが驚いていたが、英二の嬉しそうな笑顔を見ると、皆納得したように見守ってくれた。


「な、手塚。覚えてる?お前が、告白してくれた時のこと。」

「突然どうした?勿論だろう。」


約3年半前、手塚は英二に好きだと言った。

その頃はまだ仏頂面が常だった手塚が、少し頬を赤くして。

驚くと同時にすごくすごく嬉しくて、思わず抱き付いたのを覚えている。

突然抱き付いた英二を、手塚は少し驚きながら抱きとめた。


『菊丸!?』

『手塚ーーっ!!!俺も!!俺も手塚が好き!!!』


その時手塚が浮かべた照れたような笑みに、英二は柄にもなく真っ赤になって見惚れた。


「んで、初めてのキスは4カ月後。」

「あぁ。あの時は驚いたな。」


それから、4カ月後の8月。

初めてのキスは、合宿先の旅館前の砂浜で。

みんなで花火をした後片づけ当番になってしまい、二人で片付けていたとき。

付き合って4カ月も経つのに手しか繋いだことがない事に英二は不安になっていて。

「俺のこと好きじゃない?」と思わず泣き出した英二に、

手塚は珍しく慌てながら違う、と否定して、

そんなことばかり考える自分が嫌だったと言った。


『俺は、嬉しいのに。』


英二がそう言うと、手塚は困ったように英二を見て、


『菊丸…良いのか?』


そう聞く。

当たり前じゃん、と答える英二の頬をゆっくりと撫でて、

目を閉じるよう促した。

ゆっくりと近づいて、互いの唇が触れる。

軽く触れるだけのキスだったけれど、二人はとても幸せな気分で旅館に戻った。


『ボクの英二に手を出すなんて、イイ度胸だね?手塚。』


何故か不二にはしっかりとばれていて、二人で顔を真っ赤に染めて顔を見合わせた。


「で、初めて手塚を知ったのが、俺の誕生日。」

「あぁ。」


本当は手塚の誕生日に全部あげようと思って泊まりに行ったけれど、

どうしても英二の恐怖が抜けなくて、結局ただのお泊まりになった。

手塚は大丈夫だ。と言って、英二を待つと決めていた。

英二にしては珍しく沢山考えて、考えて。

結局出てきた答えはあっさりとしたものだった。


『手塚。誕生日プレゼント、手塚をちょうだい?』

『意味、わかっているのか?』

『わかってるよ。わかってて、手塚が欲しいんだ。だって』


誕生日に泊まりに行って言った英二の言葉に、手塚は再度確認をする。

一度頷いて、英二は笑った。


『手塚だから。』


それが、答えだった。

しかし、いざという時になるとやっぱり身体が震えて。

でも、


『英二…大丈夫だから。』


初めて名前を呼んでそう言ってくれた手塚を見て、身体の震えは何処かへ行ってしまった。

優しく触れる掌に、涙が溢れた。


「すごく、幸せだった。」

「俺もだ。」


喧嘩もよくしたし、何度別れた方が良いのかと思ったかわからない。

手塚が肘を壊した時。

九州へ治療に行ってしまう時。

留学を決めた時。

それでも手塚は英二を、英二は手塚を想うことをやめることが出来なかった。

死の宣告をされてもなお、

手塚は英二を、英二は手塚を想い続けていた。


「俺、今すっごい幸せ。」


少し体を起こして、英二は微笑む。

手塚は英二の身体に負担にならない程度に英二を抱きしめた。

壊れてしまわないように、優しく、優しく。


「こんちわーって、えぇ!?」

「相変わらずラブラブだねぇ。」

「英二、体調はどうだい?」


カラリと病室の扉が開いて、いつものように現れた不二・大石に続いて桃城がやってきた。

手塚が来てから初めて病室を訪れた桃城は驚いて入口で固まっている。


「おーいしに不二に桃!!」

「桃城か。久しいな。」


英二を抱きしめていた腕を放して、手塚と英二はそれぞれに挨拶をする。


「え、エージ先輩と手塚先輩って…。」

「そういう事。」


不二が楽しそうに言って、今度は英二に話しかける。


「どう?英二。満喫してる?」

「そりゃぁもう!!」

「手塚も大変だよなぁ。」

「…お前ら。」


不二と大石と英二の会話に、呆れたように手塚はため息をつき、

にんまりと笑った英二の頭を軽く小突いて、苦笑を浮かべた。

その表情は、とても柔らかい。


「無表情じゃない先輩って、初めて見たッス…。」

「英二の前じゃ、昔からああだったらしいよ?」


信じられないでしょ?

そう言って不二はまた笑う。

深く深く頷く桃城を見て、手塚は久しぶりに眉間に皺を寄せた。


「ナイス桃!!」


笑いを堪えながらそう言う英二をもう一度小突いて、手塚は背を向ける。

その瞬間、英二は笑顔を消して手塚の服を弱々しく掴んだ。


「すぐに戻ってくる。こいつらに飲み物を買ってくるだけだ。」

「あ…そ、か。」


驚いている3人をよそに、手塚は優しく微笑んで英二の額に口付け、病室を出た。

珍しい人前での行為に、英二は顔を赤くして額を抑えている。


「やっぱり、怖い?」


不二が英二に聞く。

さっきの行動は、おそらく離れていく手塚を恐れてだ。


「にゃは。ずっと離れてたからかな、余計にね。」


英二は苦笑をして病室の入口を見つめる。


「でも、今のはちょっとねぇ。人目は気にした方が良いよ?」

「確かに。手塚も変わったよなぁ。」

「うわー!!手塚先輩、今笑ってましたよ!!」


三者三様の反応に、今度は真っ赤になった顔で病室の入口を睨んだ。

病室を出ていった、手塚に向けて。









英二の命が消えるまで、あと約14日。









続く→