ふと外を見ると、眩しいくらいに真っ青な空。

本当なら、今頃俺も…。

そう思ってやめた。




























カウントダウン。




























不二と大石に告げた次の日。

畳みかけるように色々な人の訪問があった。

部活仲間。

後輩。

クラスメイト。

担任の先生に、顧問の先生。

みんな遠慮するように長居はしなかった。

クラスの女子の中には泣いてくれる子もいた。

申し訳ない気持ちになりながらも、嬉しかった。


「英二…なんだかいろんな人が来ちゃったけど、大丈夫?」


家族と母親に泊まり込みで過ごす、と言われたが、断った。

もともと皆忙しい人だったので、せめて最後の一週間までは今まで通りで、と通しきった。

不二と大石も、出来るだけ側にいてくれると言ってくれた。

英二は悪いから、と何度も断ったけれど、


「俺たちが、側にいたいんだよ。英二。」


そう言われて、時間制限と、予定は優先させることを条件に英二は受け入れた。

勿論、すごく嬉しかった。


「話すくらいなら大丈夫だって。身体動かしてる訳じゃないんだから。」


英二の身体は副作用の所為もあり、食べ物を殆ど受け付けなくなっていた。

ほぼ慢性的にある頭痛と腹痛には慣れた。

限られたものの中で何とか食べられるのは、消化の良い果物と、お粥くらい。

それ以外は口にすれば数十秒もしない内に吐き出してしまう。

程良く筋肉の付いていた身体は見る影もなく、今は骨格がはっきりと見える程に細い。


「林檎、擦ろうか?」

「ぁ、マジ?んじゃ、よろしく!!」


大石の申し出をありがたく受け取って引き出しの中におろし器と林檎があることを告げた。

英二は常に笑顔だった。

先週一週間で覚悟を決めた。

絶対に、笑顔でいようと。


「はい。スプーンで良いよな?」

「おう!あんがとね。」


そして、もう一つ。

一週間前に迫った日、手塚に電話をかけようと。

ただ、「好きだ」と告げるために。


「やっぱ、おろし林檎は大石のが一番だにゃ〜!!」

「えー?ボクじゃダメなの?英二。」

「不二って唐辛子とか入れそうじゃん?」

「酷いなぁ。さすがのボクでもおろし林檎に唐辛子は入れないよ?

 せめてわさびとか…。」

「一緒だっての。」


くすくすと笑いあう。

こんな時間がずっと続けばいいと、英二は思う。

でも、言わなくちゃ。

こんなに思ってくれる二人に、たった一つ、告げていなかったことを口にした。


「あんね。俺、一週間前にあいつに電話しようと思ってるんだ。」


あいつ。

英二のその言葉に二人は驚いたように目を見開く。


「手塚に。やっぱさ、好きだから。

 3年付き合っといて今更かもしんないけど、告白しなおしとこうかなって。」


イヒヒ、と照れるように笑って英二はおろし林檎を口に含んだ。

不二と大石は目を見合わせ、一度笑う。


「ねぇ、英二。手塚のこと好き?」

「好きだよ。大好き。」


英二が即座に答えると、不二は酷く嬉しそうに笑った。


「良かった。」


なにが?と思ったが、英二は深く聞かないことにする。

器の中のおろし林檎はあと少し。


「英二、手塚に会えるなら、会いたいんだよな?」

「うん?会えるなら、だけどね。」


大石まで嬉しそうにそんなことを聞いてくる。

何を言おうとしているか、さっぱりわからない。

英二は首を傾げながら、残り少ないおろし林檎を口に含んだ。


「会えるよ。」


大石の一言に、英二は思わず笑みを崩しそうになる。

慌てすぎて、むせた。


「大丈夫か?」

「げほっ!!…っあのな。もう良いんだってば。」


心配しつつも笑みを浮かべる大石に、英二は更に疑問を深める。

会えればいいな。

じゃなくて、

会えるよ。

と、大石は断言した。

どういう事?


「不二。そろそろじゃないか?」

「あぁ、もうこんな時間だね。」


何の話?と聞く暇もなく、大石と不二は立ち上がる。


「帰んの?お見舞い、いつもアリガトね。」

「英二。ボクらからのお見舞いの品、そろそろ届くと思うから。」

「楽しみにしてろよ。」

「じゃぁ、また明日。」


礼を言う英二ににっこりと笑みを向けて、大石と不二は病室の扉を開けた。

お見舞い?と更に困惑していると、病院にあるまじき、走る音が響いている。

その音はだんだん近づいてきて、英二の病室の前で止まった。

誰だよ、病院で走ったりして。

英二がムッとしていると、


「早かったな。」

「英二、中だから。」


大石と不二がその足音の主に声をかける。

知り合い?んで、俺の見舞客?

誰だろうと首を傾げていると、足音の主は、らしくもなく切れた息を整えるのも忘れたように一言、


「すま…な、い。」


そう言った。





まさか。





聞き覚えがある、その声。

聞き間違えるはずもない、声。

ここ数ヶ月、聞いていないけれど。

ここ数年は、電話越しだったけれど。

英二が好きな、低い声。


もう会わないって決めたはずの、


「英…二…!!」


大好きな、


「手塚…!?」


手塚の、声。









英二の命が消えるまで、あと約19日。









続く→