『3週間経ってしまえば…一生、会えなくなる。』


それは死の宣告にも似た、予想以上に残酷な言葉。




























カウントダウン。




























ガランと、テニスラケットが落ちる音と手塚の怒鳴り声にも近い声がする。

あんなに取り乱す部長なんて初めて見た、と越前は少し呆然と思った。

チームメイト達も“冷静沈着”が常である手塚の行動に、

驚きを隠しもせず見守っている。


「英二はっ!?あそこにいるんだな!?」


確認するように、何度も場所を聞く。

病室の番号。

そこへの行き方。

病室に入れるのかどうか。

何度も何度も。


『いつ、これる?』


カタカタと震え続ける不二の声に、「明日までにだ!!」と大声で答えると、

半ば投げるように携帯を越前に返し、手塚はコーチのもとへと走っていった。


「Echizen!!Teduka did what?」
 (越前!!手塚はどうしたんだ?)


そんな手塚を呆然と見送ったあと、チームメイト達は越前に駆け寄る。

勿論、日本語なんて殆どわからないから、何を話していたのかも

さっぱりわかっていない。

ただ、あの手塚らしからぬ行動に興味を隠せないでいた。


「A sweetheart’s seirious affair.」
 (大切な人の、一大事。)

「I see.Is it ok?」
 (成る程。大丈夫なのか?)

「…愛されてるね、菊丸先輩。」


チームメイトの問いには答えずぼそりと日本語で呟いて、

越前は手塚が落としたラケットを拾った。




























『英二のこと…好き、だよね?』

「当たり前だろう。どうしたんだ。」


手塚は不二の声が震えていることに面食らったが、

いつものように冷静に答えた。


『英二と…約束してたんだけど、もうボク達耐えられそうにない。

 英二はね、君が、世界で一番…多分、それ以上に好きなんだよ。』


不二は、涙が出そうになるのを必死で堪えている。

声だけでもそれがわかる程痛々しい不二の様子に、

手塚は鳥肌が立つ程に寒々しい気分になった。

何だ。何なんだ。

手塚の心臓は、うるさい位に音をたてている。


『不二。…手塚、俺がわかるか?』


泣き出しそうな不二の後に出てきたのは大石だった。


「大石まで…どうしたんだ?英二に、何があったんだ!!!」

『落ち着いて、聞いてくれ。』


大石はゆっくりと言葉を紡ぐ。

しかし、大石の声も震えていた。

不二と電話をし、越前と話した後、手塚はどうしても消えない嫌な予感に

蝕まれながら急に忙しくなった日々の生活に追われていた。

今すぐ越前に掴みかかってでも聞き出したかったのに、

それも出来ず一週間が経つ。

そこへ、この電話。

心臓の動機は酷くて、胸を殴ってもおさまりそうにはなかった。


「大丈夫だ。話してくれ。」


手塚の言葉は、懇願に近かった。

自分だけが、知らない。

不二や大石、越前までもが知っている“何か”を。

誰よりも大切な“英二に関する何か”を。

ゆっくりと深呼吸をする音が聞こえて、大石の声が、鼓膜に響いた。





『英二の寿命は、後3週間なんだ。』





手塚にしては理解するまでずいぶんと時間がかかったと思う。

持っていたラケットを落としたのにも、気付かなかった。

一度深く深く深呼吸をして、混乱している頭を何とか回す。


「病気…なの、か?」


英二の居場所が病院だったのを何とか思い出して手塚はそれだけ聞くと、

大石は電話口で一度肯定の意を示した。


『治す方法も見つかっていない、と聞いた。

 3週間経ってしまえば…一生会えなくなる。』


上手く整理できていない頭が狂ったように英二の姿ばかりを回す。

一緒にいた頃の、とても幸せそうな英二の顔ばかりがグルグルと回る。

まるで走馬燈のようだと、縁起でもないことを思った。


「っっ…英二はっ!?あそこにいるんだな!?」


嫌な予感はこれだったのだと、頭でやっと理解した。

どうして気付いてやれなかった?

どうして無理矢理にでも聞き出さなかった?

どうして、俺だけ知らなかった!?

気付いた瞬間、手塚の頭の中を後悔ばかりが頭を回る。

英二の笑みと、一緒に。

確認するように、何度も場所を聞いた。

病室の番号。

そこへの行き方。

病室に入れるのかどうか。

何度も何度も。

いつ戻ってこれるかを聞いてきた不二に、らしくもなく大声で「明日までにだ!!」と叫ぶ。


「…ちっ!!」


投げるように携帯電話を越前に返して、長期の休みをコーチに交渉するため、テニスコートを駆け抜けた。

好奇の視線が手塚を射抜く。

そんなもの気にならなかった。


英二。


ただ彼だけが、手塚の頭の中に存在していた。

越前と違って休み中ではない時期の、それも長期休みの申請に

コーチはなかなか首を縦に振ってくれなかった。

頭を下げて下げて下げてやっとコーチから許可が下りる。

条件として、以降の休みは取り上げると言われた。

そんなもの必要ない、と手塚は思う。

どっちみち自立するまでは休みを取る気などなかったし、

第一、英二がいなければ意味などない。

コートへ持ってきていた荷物を片づけて、部屋へと戻る。

すれ違いざま、越前に


「黙ってて、すんませんでした。」


と、一言謝られた。

英二が口止めしていたことはわかっているので、気にしなくてもいいと言えばよかったのだが、

その時間すら惜しくて、悪いと思いながらも、手塚は自宅への道を走った。

投げるように荷物を置いて、財布とパスポートだけを持って家を出る。

着替える前に声をかけられたので、ユニフォームのまま、というのは免れたが、

格好なんて気にしている時間などない。

タクシーを呼び止めて空港へと急ぐ。


一刻も早く、英二のもとへ…!!!!


ただ、それだけを考えながら。









英二の命が消えるまで、あと約20日。









続く→