二度目の死の宣告は、『会えるなら』と望んだ俺に

だめ押しのように押し寄せた。

後1ヶ月。

絶対に、無理だ。




























カウントダウン。




























「英二。不二君と大石君が来てくださったわよ。」


入院して1週間が過ぎた日。

いつものようにやってきた母親の後ろに、1週間ぶりに見る親友二人の姿。

毎日二人を含め、色々な人が来てくれていたが、

英二は会いたくないと病室に入れようとしなかった。

けれど。


「うん、入ってもらって。」


これだけ心配してくれている二人には言わなければ。

どうぞ、と言って母親は病室を出ていった。


「英二…。」

「久しぶり、英二。」

「不二、大石…。」


1週間が経ち、英二の身体はかなり痩せほせていた。

見るのも痛々しい程に。

二度目の死の宣告の日から、それまで飲んでいなかった薬を飲み始めた。

進行を、少しでも遅らせるために。

そして、当然のようにその薬は副作用も強かった。

食事をしては、嘔吐を繰り返す。頭痛や腹痛は日常茶飯事。

それでも、病は着実に英二の身体を蝕んでいた。

2日後、歩くことに違和感を覚えた。

上手く足が上がらない。

更に3日後、箸を持つ手が震えるようになった。

今ではスプーンを使ってじゃないと、食事もできない。

英二が顔を上げると、心配そうな二人の顔。

ゆっくりと二人を見て、英二は精一杯の笑顔を見せた。


「俺、後3週間だって。」


良かった。声、震えてない。

英二の言葉を聞いた二人は、見る見るうちに顔を青く変えた。

不二は、あの時のように身体をカタカタと震わせている。


「無理、しすぎたんだって。」


英二はこの1週間で、はっきりと自分の現状を認めることが出来た。

もう、俺は普通の生活なんかに戻れない。

手塚にだって、会えるわけがない。

認めざるをえなかった。


「英二…おま、え…。」

「なんか、心配させちゃったけど、後ちょっとだからさ。

 ゴメンな、二人とも。」


後ちょっととは、英二の死を認めろということで。

少なくとも、冗談なんかではないということで。

大石と不二は、足の力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


「嫌…だ…。嫌だよっ英二!!!!」


先に口を利いた不二は嫌だ嫌だと、認めないとくり返す。

不二にだって一番辛いのは英二だとわかっているし、

こんな事を言ってもどうしようもないのもわかっている。

それでもくり返さざるをえなかった。

認めたくなかった。

大好きな親友。

その思いは、勿論大石も一緒で。


「嘘…だろ…。」


焦点が合っていない瞳は、呆然と床を見つめるのみだった。




























「大石、止めないでね。」


英二の病室を出た後、ゆっくりと決意をした目をしている不二を見て、

大石は一度頷いた。


「勿論止めたりしないさ。

 英二もだけど、あいつだって大切な仲間だからね。」


それを聞き、不二は安心したように笑って携帯を取りだした。




























コートの中に電子音が鳴り響いて、

練習していた面々はその手を止めて後ろを振り返る。


「Sorry.」


越前は数日ぶりに聞く着信音に首を傾げた。

画面には『不二周助』の文字。

今こっちが朝だから、確かあちらは夕方頃の筈だ。

そう言えば先日結局レンズを渡し忘れたなと思い、通話ボタンを押す。


「レンズだったら、明日にでも送ります。」


電話に出た越前の第一声はそれだったが、

相手の用件がそれではないと瞬間に思い知った。


『手塚、いる?』


菊丸先輩に何かあったのだろうかと、帽子を深くかぶり直す。


「いますけど。何か…」

『あと、3週間しかないんだ。』


あったんですか?と聞こうとした越前の言葉は不二の言葉によって遮られた。

不二の言葉を理解した瞬間、越前の身体から血の気が引いていくの自分でがわかる。

あと3週間…?

あの人は余命は半年と、言っていなかっただろうか?


『縮まったんだ。もう、時間がないんだよ…

 だから、手塚呼んでくれるかな?』


決意に満ちたような声が、少し震えていることに気付く。

「わかりました」と返事をして、越前は辺りを見回した。

程なくして見つかった長身の青年。

動揺を悟られないよう、平静を繕って彼を呼ぶ。


「部長。」


越前は未だに彼のことを部長と呼ぶ。

イメージが強烈すぎたのもある。

けれど、それ以外にどう呼んだらいいのか見当もつかないというのもあった。

振り返った手塚は握られている携帯を見て、眉間の皺を少し増やした。


「なんだ。」

「不二先輩が。」


越前の前まで歩いてきた手塚に、越前は自身の携帯電話を差し出した。

不二と言う言葉に、先日のことを思い出す。

ゾクリと、また嫌な予感が駆けめぐった。

嫌な予感を抱きながら、手塚は携帯に耳を当てる。


「どうした。」

『ねぇ、手塚。』


その不二の声は、震えていた。


『英二のこと…好き、だよね?』









英二の命が消えるまで、あと約20日。









続く→