その後、母親が来て、

入院の準備を済ませた鞄を渡された。

その腕は震えている。

薄々、気付いていたのかも知れない。




























カウントダウン。




























『ごめんなさい、手塚君。』


英二が入院した翌日、手塚がいつものように電話をかけると

聞き慣れた声ではなく、少し疲れたような女性の声が聞こえた。


「あの、英二君は…?」


それが英二の母親の声であることは知っているけれど、

おかしい。

どんなに風邪を引いていても、どんなに眠くても、

必ず電話に出ていたあいつが。

ぞっ と、寒気と嫌な予感が手塚を襲った。


『今、出かけているの。』


自分より優先させるものが出来てしまったのだろうか?

手塚は一瞬そう考えて、それはないと思い直す。

疑うのは好きではないし、そうではない確信はある。

けれど、どうしても嫌な予感がした。


「…失礼ですが、どちらへ…?」


手塚がそう聞くと、英二の母親の息が一瞬止まった。

また、嫌な予感がする。

英二は一体何処へ行っているのだろうか?


『えぇっと、不二君の家…だったかしら?』


英二の母親の声が、少し震えている。

必ず報告するように、と手塚が口うるさく言っていただけあって

英二が無断で外泊することなどない。

それなのに不確定な母親の口調が気になる。

しかし、それ以上聞くのも気が引けて、礼を言って電話を切った。

少し考えて、また受話器を取る。


『はい、不二です。』

「夜分遅くすみません。

 手塚と申しますが、周助君はご在宅でしょうか?」

『…手塚?』


名乗った手塚の声に少し遅れて反応をして、不二が答えた。

驚いたような不二の反応に、手塚が眉間に皺を寄せる。

もし、英二がそこにいるなら、

自分がここに電話をかけることなど容易に予想できるはず。

それでも驚いたような不二の反応に、手塚はここに英二がいないことを悟った。


『どうしたの?』

「英二は、何処にいるんだ?」


率直に、聞く。

すると、英二の母親と同じように不二の息が一瞬止まるのに

手塚は気付いた。


「英二の母親は不二の家にいると言ったが、違うんだろう?」


そして、決して誤魔化せないように続ける。

しばらく沈黙が続いたが、少し息を吐いた不二が

ゆっくりと答えた。


『英二は、今ちょっと、ね。

 住所だけは…教えておいてあげる。それで、納得してくれる?』


不二の声は、手塚が聞いたことがない程に弱々しく聞こえた。


ドク


ドク


ドク


嫌な予感が強くなっていって、心臓がうるさく音をたてる。

何なんだ。

何を隠しているんだ?

英二は、一体どうしたというんだ?


「あぁ。」


動揺する気持ちを抑えて、冷静に取り繕って答えを返す。

そして、不二の言う住所を紙にメモして電話を切った。

嫌な予感が消えなくて、しばらく考え込んだ。

そして、部屋にあるパソコンの電源を入れ、住所を入力する。

検索をして出てきたのは…


「病院…?」


青学の近くにある、大きな病院の名前だった。




























「ちわッス。」

「越前。少し良いか?」


翌日、手塚はやってきた越前に声をかけた。

越前は手塚を見て、少し驚くように目を見開く。

話しかけられること自体は珍しくも何ともないけれど、

ただ、手塚の表情が、


「はいッス。」


酷く切羽詰まったような、怯えているような顔に見えたからだ。

手塚は越前をコート端のベンチに連れて行って、

ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「先週一週間、実家に帰るついでに不二にカメラのレンズを渡すと日本に帰っていたよな?」

「…はい。」


手塚の言葉を聞いて、越前は思わず身を固くした。

勿論、手塚はそれを見逃したりはしない。

やはり、越前も何か知っていると悟る。


「英二について、お前も何か知っているな?」


そして、身を固くした越前に、率直に聞く。

深めにかぶった帽子の下で、越前の目が大きく見開かれたのを手塚は見付けた。


「いえ、何も。」

「不二が、英二の今の居場所だと、病院の住所を教えてきた。

 それで、納得しろと。…どういう事だ?」


殆ど確信に近づいている手塚の言葉に、越前は固くさせていた身体を戻して、

ゆっくりと手塚の目を見、告げる。


「そのままの意味ッスよ。」


見つめる手塚の目が、ゆっくりと見開かれていく。

でも、越前は全て教える気はない。

英二の気持ちを踏みにじる気もない。


「菊丸先輩は、そこにいるんです。

 それ以上は、何も言えません。」


越前はそれだけ告げて一度礼をし、コートに戻った。


「病院に…?」


手塚の胸騒ぎは消えることがなく、酷く強くなっていく。

何故、病院に?

事故?

それとも、何かの病気だというのだろうか…?




























「無理を、しすぎたようです…。」


人生で、二度も死の宣告をされるとは思わなかった。

頭の中は警告の赤いランプがちかちかと光っている。

認めたくない。

認めたくない。


「あなたの身体は…後、1ヶ月が限界でしょう…。」


英二の寿命は、大幅に短くなっていた。









英二の命が消えるまで、あと約31日。









続く→