久しぶりに会った大好きな後輩。

でも俺は、その人の口から出るただ一言を、

ひらすらに恐れていた。




























カウントダウン。




























「不二先輩に用事があって…ここだって聞いたんスけど…

 菊丸先輩、どうかしたんスか?」


勿論、越前だっておかしいと思っていた。

久しぶりに日本に帰ってきて青学にやってきてみれば

自分が知っているそれとはかけ離れたような雰囲気で迎えられた。

桃城に不二の居場所を聞けば顔を青くしたまま病院にいると言い、

何故か部員は練習をしている素振りがない。

ぼうっと、コートに落ちているコップをひたすら拾っていた。

そもそも、何故コートにコップが落ちているかわからなかったし、

いるはずの先輩達が何故か3人もいない。

責任感の強い大石がどこにもいない。

不二の居場所が病院というのもおかしい。

何より、元気にコートを飛び跳ね、大石とダブルスを組んでいるはずの

英二の名前が、レギュラーから消えていた。

そして、病室の中でベッドに座る英二の姿と

顔を青くしてその姿を見つめている大石と不二。


「怪我?」

「…病気。」


それしか思いつかなくて越前が聞くと、英二はゆっくり顔を上げ、

首を振って苦笑を浮かべた。

越前は少なからず驚いて少し目を見開く。

留学後、手塚と同じスクールに通う越前はそんな話を聞いた事はなかった。

手塚と越前は互いに口数が多い方ではないが、青学の事は割とよく話したりしている。

大石の細かな報告や、英二の電話などで手塚は越前よりも

青学の事を把握していたからだ。

それでも、英二が病気などとは一度も聞いた事がなかった。


「いつから?」

「半年位前…だったよな、不二。」

「そう、だね。」


確認のために英二が話を振った不二は、

いっそ同情してしまう程に顔色が悪い。

それを見て、越前は眉を寄せる。


「病状、良くないんスか?」


それを言った時、越前は空気が止まるのを感じた。

なに?

そんなに悪いわけ?

英二を見る限りは、そんな風には見えない。

少し…痩せた位だろうか。

そう考え、越前は英二を見る。


「…実は、余命半年。」


視線を感じた英二は、痛々しい程の苦笑いと共にそう告げた。


「…は?」


思考が止まるというのはこういう事か、と

少しして回復した頭で考えた。


「あと半年したら死んじゃうかもって位悪いらしいんだよね。」


余命と言う言葉を知らないかもしれないと判断して英二が再度告げると、

越前はあらためてゆっくりと英二に目を合わせる。

まさか、と思った。

嘘なんかつくはずがないとわかっていても。

これで辻褄があったと頭では判断していても。

第一、あの人は知らなかったじゃないか。


「部長には…」


越前が聞こうとした時、不二に力一杯口を塞がれて病室から連れ出された。




























「英二の前で、それを言うのはやめて。」


真っ白な廊下に出て、越前の口から手を離して不二は言った。

さっきまで真っ青な顔をしていた不二は、

うってかわったように強い目で越前に告げる。

殆どの人は知らなかったであろう彼らの関係だが、越前は知らなかった訳じゃない。

だからこそ、聞こうと思ったのだから。

だって、おかしいじゃないか。

あの人が知らないなんて。


「でも、部長は菊丸先輩の…」

「だから、だよ。越前君。」


越前が発した言葉を遮るように不二は言った。


「英二は、本当に手塚が好きなんだ。

 …邪魔だけは、したくないって。

 今日だって倒れて運ばれてきたのに。

 もう学校にだって通えないんだ。

 あと、半年だよ?

 その半年ですら、生きていられる補償なんてないのに。」


震える唇で続ける。

本当は、不二だって手塚を殴ってでも連れてきたい。

そんなことをしなくても来るのは目に見えていても。

それでも、肝心の英二がそれを望まないから。


「部長に言うなって事ッスか。」


眉間に皺を寄せて、越前は悟ったように言った。

目の前に手塚がいる越前には、酷かも知れないけれど。


「お願い。」

「わかったッス。」


一度頷いて、病室を振り返った。




























「大丈夫かい?英二。」

「え、ぁ、うん。ヘーキヘーキ。」


越前と不二が病室を出た後、顔色が悪くなった英二を見て

大石は心の中で越前を諫めた。

外で不二がしているのはわかっているけれど、

今の英二には酷く残酷な一言。

『部長』

それは、手塚を指す言葉で。


「大石は心配性過ぎなんだって。」


苦笑いをして英二が放った言葉は、少し震えていた。


「英二…本当に、会えなくていいのか?」

「…その聞き方は、狡いよ。おーいし。」


「会わなくて」ではなく、「会えなくて」。

自主的に「会わない」のではなく、「会えない」で良いのか、と聞いてくれる。

微妙な、言い回し。


「『会える』なら会いたいに決まってんじゃん。」


それは間違いなく、英二の本音だった。









英二の命が消えるまで、あと約6カ月。









続く→