忘れてた。

自分がどんなに危ない状態だったかってことを。




























カウントダウン。




























その日は酷く暑い日だった。

手塚との電話から約4カ月たった夏休みのある日。35度を超える真夏日。

その日も英二はマネージャーとして仕事をこなしていた。

心配する仲間達に悪いと思いながら、

走ったりする訳じゃないから、と言いくるめて。


「英二…顔色、悪くない?」

「へ?そう?」


一度休憩になった時、不二が英二の側に来て言った。

しかし、気分も悪くないし、頭も痛くない。

そんな事ないと言うと、不二はそれ以上何も言わず少し眉を顰めただけだった。


「そんな心配すんなって!!な!!」


病の事を告げてから、酷く心配性になった親友の肩を叩き、

英二はにかっと笑う。

それに不二が苦笑を返すと、休憩が終了する声が響いて

不二はコートに戻っていった。

英二はまたマネージャー業を再開するため、立ち上がる。

みんなの飲んだコップを持って、水道を目指して一歩踏み出した。





その時





「英二!!!!!!」


コップの落下音と人が倒れる音がテニスコートに響く。

日陰から日なたに出た瞬間、

強すぎる日差しを浴びた英二は意識を失って倒れたのだ。


「動かさない方が良いな。」

「救急車呼びに行って来る!!」


集まってきた部員の中で、比較的冷静な乾と大石が行動を起こす。

冷静と言っても、あくまで比較的、で。

二人とも顔が青いのは気の所為ではないだろう。


「英二…!!!」


救急車を待っている間、不二の身体にはあの時の震えが蘇り、

頭の中ではあの英二の言葉がグルグルと回っていた。

『もってあと、1年なんだって。

 …あんね、不二。俺の、命。』

1年は、まだ半年も先。

まだ先。


「まだ半年あるんだよ?英二…。」


震える身体を必死に押さえて、それだけ小さく呟いた。




























「あれ…。」


目覚めて英二が最初に見たものは、見慣れない真っ白な天井。

そして、真っ青な顔をした友人二人の姿だった。


「病院だよ、英二。部活中に倒れたんだ。

 お母さん、もうすぐ来ると思うから。」


大石はそう言って英二の肩に軽く手を乗せた。

ふと見れば、不二が英二の手をぎゅっと握っている。

不二の手は、震えていた。


「ゴメン、不二。大石。」


英二が謝ると、大石と不二は首を左右に振る。

やめておけと、言ってくれたのに。

大切な仲間に迷惑をかけた。

申し訳なくて、英二は少し強めに不二の手を握り返した。


「英二。」


少し決意したような大石の声が、病室に響く。

嫌な予感がして、英二は大石の顔をじっと見た。

大石の顔に、笑顔がない。

さっきまで、苦笑とはいえ笑みを浮かべていたというのに。


「入院、だそうだ。」


入院…?

英二は何度か頭の中でその言葉をくり返した。

入院。

入院。

…入院!?


「でも、俺ッ!!」


まだ歩ける。

そう言おうとした英二の言葉を遮るように、

不二は強く手を握る。


「英二には、もう、通学する体力すら残ってないんだよ…。」


震える指が、嫌にリアルで。

突きつけられた気がして。


「もう、限界なんだ。英二…。」


大石に再度告げられて。

嫌だ嫌だ嫌だ。

まだ、行ける。

まだ、歩ける。

まだ、笑えるんだ。

お願いだから、行かせてよ。

お願いだから、側にいさせてよ。

マネージャーなんかじゃなくても良い。

お願いだから。

迷惑かけないから。


「何で…俺、まだ…。」


身体がカタカタと震えた。


「大丈夫じゃないから、倒れたんだ。

 英二、頼むから。もう無理をしないでくれ…。」


いつの間に、こんなに弱くなった?

いつの間に、こんなに体力がなくなった?

いつの間に、こんなに蝕まれてた?


「わかった…。」


英二の声が病室に響く。

思わず溢れそうになる涙を、必死で堪えて俯いた。

髪を撫でようと、大石が英二に手を伸ばそうとした時、


「菊丸先輩…?」


病室の入口に響いた声。

それは、この国にいないはずの、

大好きなあいつと同じ場所にいるはずの、

お気に入りだった後輩の声。









英二の命が消えるまで、あと約6カ月。









続く→