そしてまた一ヶ月が過ぎ、やってきた嬉しくて仕方ないはずの

2ヶ月に一度のあいつからの電話。




























カウントダウン。




























LuLuLuLuLu…


菊丸家の電話が鳴る。

夜遅い訳ではないが、電話をするには少しためらう時間。

2ヶ月に一度、必ずこの時間に電話がかかってくる。

家族はみんなわかっているから、本人が取りに行くまで決して出ようとしない。


ガチャ


「手塚?」

『英二か?』


二ヶ月ぶりの手塚の声に、涙が溢れそうになる。

英二は受話器を握りしめて、手塚の名前を呼んだ。


「手塚。手塚ぁ…。」

『どうしたんだ?おかしなヤツだな。』


受話器の向こうで、手塚が苦笑しているのがわかった。

あぁ、どうしよう。

俺、どうしようもない程にコイツが好きだ。

溢れようとする涙を必死に押さえて、英二は気丈に振る舞った。

なのに。


「おかしいってなんだよ、失礼だな。」

『?声が震えている。泣いているのか?』


いつもいつも鈍すぎて頭にくるこの恋人は、妙なところで酷く鋭い。

気付いて欲しくなくて必死に隠す程、あっさりと見抜いてみせる。


「泣いてないよっ!!」

『俺に嘘が通じると思っているのか?』

「思ってないよ!!」


本当に嘘を付きたいとき程、手塚には通じない。

わかっているから、諦めることにした。


「声が聞けて、嬉しいの!!」


半ばやけくそに英二が叫んだ言葉は、半分は本当。

半分は、嘘。

それでも手塚は嬉しそうに一言返事をくれた。


『そうか。』


その一言が嬉しそうだとわかるのは、おそらく彼の家族か英二位のものだろう。

それ位、手塚の感情表現を理解するのは難しかった。

でも、わかってしまうとそれが嬉しくて。

手塚に捕らえられたまま、もう3年が経とうとしていた。


「なぁ、手塚。明後日がなんの日か覚えてる?」


覚えているだろうか。

それは、手塚が英二に「好きだ」と言った日。

手塚の毎日が忙しいことを知っているので、

忘れていてもしょうがないと英二は思う。

しかし、


『あぁ。当然だろう。』


そう言う、嬉しそうな手塚の声。

予想外の返事に、英二はしばし呆然としてしまった。


『なんだ、そんなに意外か?』


黙り込む英二に、手塚は苦笑をしながら聞く。

手塚にとっても大事な日であることは違いなかったらしい。

英二は思わず嬉しくなって、はしゃぐ。


「意外!!覚えてないと思った。でも、嬉しー!!!

 もう、4年目になるんだよ、俺たち。」

『そうだな。早いものだ。』

「まさか、こんなに続くとは思ってなかったけどね。」

『どういう意味だ?』

「手塚に、すぐフラれるかもってドキドキしてたかんね。」


いぶかしむように問う手塚の言葉に、英二は正直な気持ちを話した。

告白されはしたけど、いつ飽きられるか。

いつ、やっぱり合わないと言われるか、英二は毎日ドキドキしていた。

でも、それは杞憂だったようだ。

現に、あれから3年経とうとする今でも、

英二の大好きだと思う気持ちは変わらない。

手塚も、酷く優しい声で同意してくれる。

ヤバい。幸せだ。


『俺が英二をふるなど、有り得ないな。

 お前が思っている以上に、俺はお前を想っている。』


ほら、そんな幸せなことを言ってくれる。

好きな人に、想ってもらえる幸せ。

それにつられたように、つい、ぽろりと零した本音。


「会いたいなぁ…。」


それに苦笑したように息を吐いて、

受話器越しに手塚は英二を慰める。


『すまないと思っているが、会いたいのは俺も一緒だからな。

 半分まで来た。あと半分、我慢してくれ。』


切ないながらも幸せに浸っていた英二は、

突然現実に引き寄せられた気がした。

あと半分。

あと、二年。

英二には、残っていない時間。

あと半分。

その半分も、英二は生きられない。

身体が、死の宣告をされたときのように震え出す。

ガタガタガタ。


「わかってるって。ちゃんと我慢してるだろー?」


声は、震えていないだろうか。

おそらく、震えている。

例えば今ここで手塚に告げれば、手塚は飛んで来てくれるだろう。

何を、投げ出しても。

でも、そんなことは望まない。

世界を手にする人だから。


『英二?』


手塚の心配そうな声が聞こえる。

なんでもないと答えて、いぶかしむ手塚を抑えて電話を切った。


『俺は、ちゃんとお前のことが好きだからな。』

「うん、俺も、大好きだよ。」

『それじゃ。おやすみ、英二。』

「うん。おやすみ、手塚。」


電話を切る直前の会話が、酷く嬉しくて、酷く辛かった。

大好きな手塚。

好きだと言ってくれる、大切な恋人。

でももう、

会うこともないだろう、大好きな人。

好きで、大好きで、愛してるんだ。

だから、

手塚には、

もう、会わない。









英二の命が消えるまで、あと約10カ月。









続く→