身体ががたがたと震えていた。

大好きなテニスがもう二度と出来ない事実。

大好きな人に、もう二度と会えないかもしれない事実。




























カウントダウン。




























がたがたと震え続ける身体を何とか動かして英二は病室を出た。

母親は尚も病室で泣き続けている。

ふと前を見るとおそらく英二に付き添ったのだろう、

不二が病室前の長いすに座っていた。


「英二。大丈…」


不二は顔を上げて英二を見、彼の身体の震えに気付く。

身体中の血がすっと冷たくなるのがわかった。


「英二…?どうした…の…?」


不二の顔から表情が消え、真っ青に染まる。

そんな不二の様子を見た英二は、言おうかどうか少し迷って

どうせいつかは言わないといけないんだ。と、きゅ と唇を引き締めた。


「あと、もって1年なんだって。」


不二が目を見張る。

身体の震えと一緒に、英二の声もがたがたと震えていた。

1年。

長いようで、酷く短い時間。


「な…にが?ねぇ、英二!!何が!?」


取り乱したように不二が英二の肩を掴む。

多少乱暴なように思えたが、それどころではなかった。

嫌な考えばかりが頭を掠めて行って、思考を止めたい気分だった。

1年。

ねぇ、何が?

英二。何が、あと1年なの?


「あんね、不二。…俺の、命。

 もって、あと1年なんだって…。…どうしよ?

 手塚に、もう、会えない…よ。」


英二は必死で笑顔を浮かべるが、引きつっているのが自分でわかった。

こんな状況で笑みを浮かべられる程、強くない。

大切な恋人。

帰って来るまで会わないと約束した大好きな人。

あと、帰って来るまでどれだけある?

少なくとも、英二の宣告された寿命内では、叶いそうもなかった。

英二の身体の震えが知れず大きくなる。

そんな英二を、不二は力一杯引き寄せて抱きしめた。

大切な親友。

彼がどれだけ恋人のことを好きなのか、ずっと隣で見てきたから痛い程知ってる。

帰って来るまで会わないと約束した後の彼の表情も、

痛い程覚えてる。

恋人に会えなくてどれだけ寂しい思いをしているかも、痛い程わかってる。

何で、彼なんだろう。

出来るなら代わってあげたかった。


「英二…英二…!!!」


名前を呼んで抱きしめてやる事しかできない自分が、不二は歯痒かった。


「大石に、謝んなきゃ。一緒にインターハイ行けなくてゴメンって。

 …もう、テニスも出来ないんだって。」

「何で英二が謝るの!?

 君は…悪くない、のに…。」


震える声で呟く英二の言葉に、不二の目には涙が浮かんできた。

手塚に会えない英二の、心の支え。

そのテニスさえ、病は英二から奪ってしまった。

どうしようも出来ない歯がゆさに不二は英二を抱きしめる腕の力を強くして、

一滴だけ、涙を流した。




























「手塚には、言わないつもりなの?」


しばらく沈黙が続き、先にそれを破ったのは不二だった。

英二の身体の震えは不二が抱きしめてくれていた所為か、大分おさまっている。

不二は答えを促すように、顔を上げて英二の目を見た。

先ほど英二は「手塚に会えない。」と言った。

ということは、病を手塚に告げる気がないということ。

不二と英二の目が合ったとき、英二の目が変わった。


「言わない。心配だけは、絶対かけたくない。」


それは、普段は試合中にしか見せないような真剣な瞳。

帰って来るまで会わない、と約束をした時の瞳だった。

そうなれば英二の意志が変わることがないのを、不二はよく知っている。

それでも、出来れば手塚には英二の側にいて欲しかった。

英二が手塚を想うように…もしかしたらそれ以上に、

手塚が英二を想っていることを、不二はよく知っていたから。


「手塚も、傷付くよ?」


手塚の名を出されても、英二の意見は変わることがなかった。


「言わないよ。俺が、死ぬまで。」


『死ぬまで。』

その言葉は不二の胸に深く突き刺さる。

自分や周りの人間には永遠をも思わせるその言葉は、

目の前にいる自分と歳も何もかもがさほど変わらない大切な親友にとっては

たった『1年』という短い時間の表現にしかならない。

それが、とても痛くて…切なかった。


「だから、不二。内緒な。」

「わかった…。」


口元に指をあてて言う英二に、不二はそう答えるしかなかった。









英二の命が消えるまで、あと約12カ月。

手塚との約束の日まで…あと、約24ヶ月。









続く→