01:行ってきますのキス。




























「んじゃ、行ってくんね。」


一昨日からオフに入っている国光を見上げて、

靴べらを使って革靴を履く。

オフっていっても、練習やらなにやらあるし、本当にオフって訳じゃないんだけど…

ちゃんと家に帰ってくるってだけでも、全然違うよね。


「あぁ。気を付けろよ。」

「うん。」


俺を心配する国光の言葉に一度頷いて、顔を突き出す。

不思議そうに俺を見る国光に俺はわざと満面の笑みを向けた。


「行ってらっしゃいのちゅーは?」


俺の言葉を受けて、国光は酷く顔をしかめる。


「何故俺がお前にしなければならない。」

「えー何だよ、良いじゃん。新婚でラブラブでっしょー?

 仕事に出かけるのは俺なんだから、国光がしてくれるべきじゃん?」

「断る。」


何が新婚だ、とぶつぶつ言う国光を見ながら、俺は小さく笑う。

名字をくれたんだから、実質的には違っても結婚したって事だと思うんだけど、

国光的にその響きは照れくさいらしい。


「ま、いいや。んじゃ、俺がすれば良いんだもんねー。

 ハイ、国光国光。」


手招きすると、渋々ながら国光がしゃがんでくれた。

その頬に軽くキスをして、にっこりと笑う。


「行ってきます。」


そう言って出ようと玄関の戸に手を伸ばすと、

その手を取られ、振り返させられた。


「国…んむっ!?」


一瞬瞳に映った国光の意地の悪い笑みの意味を理解する間もなく、

唇を塞がれる。

抵抗もする間もなく舌を入れられ、ぐるりと一度口内をかき回して

すぐに出ていった。


「行って来い。」


呆然としている俺にそう言って意地の悪い笑みを浮かべたまま、

国光は部屋の奥に戻っていく。

驚きと刺激で力の抜けた俺は、玄関の戸を背にずるずると座り込んだ。


「ち、くしょう…。」


負けた。

国光の笑みにそれを悟る。

うーうーと口元を抑えて唸りながら、俺は恨めしい目を部屋の奥に向けた。





とりあえず今は俺の負け。

玄関先の攻防戦、帰りはどうかな?









終。