お味はいかが?
















目の前で滴り落ちていく透明な滴に興味を引かれて、舌ですくってみた。

想像とは違う味に、菊丸は顔をしかめる。


「しょっぱ…。」


本来は正しい味、なのだけれど。


「…………………………菊丸。」


眉間に目一杯の皺を寄せた手塚が、菊丸の奇行にたっぷり10秒硬直して彼の名を呼んだ。

呼ばれた菊丸は、視線を合わせるのに手塚を見上げる。


「何?」

「…いや、」


珍しく言いよどんでいる様子の手塚に、菊丸は少し楽しそうな笑みを見せた。


「ご馳走様。」


なんて、冗談にも程があるセリフ。

手塚は目一杯の眉間の皺に加え、顔をしかめる。


「何の嫌がらせだ。」

「んー?何か俺らとは違う気がしてさ。」


そう言いながらあははと脳天気に笑って、菊丸はポン、と手塚の肩を叩いた。

足下に置いてあったバッグを掴む。


「俺帰るな〜お疲れっ!」


菊丸がひらりと手を振って出ていった後の部室には、

深い深い溜息をつく手塚が一人、残された。





手塚を残して部室を出た菊丸は、胸の奥に詰まっていた息をフッと吐き出した。

砂利におおわれた道を歩きながら、唇を少し舐めてみる。

湿った唇は、舌ですくったあの味が少しだけ残っていた。


首筋に、滴る、汗。


強い塩の味が口の中にも残っている。

練習中、珍しく本気を出していた手塚に鳥肌が立った。

その瞳に映る黄色いボールに嫉妬するほどに。


「アイツもフツーじゃん。」


何となく自分のそれとは別物に見えた滴は、けれどごくごく普通に塩の味がした。


「何してんだろ、俺…。」


菊丸は一度溜息を吐いて、首を左右に振る。

けれど、その歩みはだんだんと遅くなり、部室から少し離れた場所で立ち止まった。

ぎゅう、と拳を握る。

強い塩の味が舌と唇から浸食したように、ジンとした熱を持った。

抑えるように噛みしめた唇は、少しだけ、塩の味がする。


「なん、だよ…。」





その唇の、お味はいかが?










了。