何事にもタイミング、というものが存在して、

今回のそれは、

最高

で、

最悪。


『あなたが好きです。』




























感情誘導論。
 =序論・保たれた上の日常=




























抱き付く手をきつくする。

そうすれば、抱きしめられる手も少し強くなった。


「手塚。」


緩みきった頬を寄せて、精一杯抱き付く。

明日からは、また、いつもに戻ってしまうから。


「英二。」


こんな時だけ呼んでもらえる下の名前を噛み締めて、

最高の笑顔で頬にキスを送った。

少しだけ緩む、表情。


「大好き。」


小さく照れながら言うと、髪の毛に柔らかな温もりが添えられ、離れる。

背を撫でる体温が心地よくて、眠ってしまいそうだと菊丸は思った。

抱き合うのは、こんな時だけ。

学校も休み。

部活も休み。

手塚の仕事も休み。

誰にも言えない関係を保つ為には、そうするしかないから。


「すまないな。」


主語のない謝罪は、もう両手では数え切れない。


「何で謝るんだよ。

 俺のこと好きだろ?」

「勿論だ。」

「うん、俺も大好き!

 ほら、問題ないじゃん。」


誰にも言わないようにしよう、とお互いに決めたわけじゃないけれど、

普通に考えて、普通じゃないこの関係は言いふらしたりする事じゃない。

ただでさえ、手塚も手塚程じゃないにしろ菊丸も、

名門と呼ばれる青春学園の男子テニス部でレギュラーというトップに立つ位置にいる故

人から注目されることが少なくない。

その上、手塚は生徒会長であることからして、校内に知らない者などいないだろう。

良くない噂は立てない方が良い。

それくらい、わかっている。

誰にも言わないこと。

それはこの関係が始まった時から暗黙の、了解。





春の日の午後、これからの事なんてわかるはずもなく、

穏やかな空気に身を寄せて、菊丸は精一杯の幸せを感じていた。




























春は一般的に出会いと別れの季節とされる。

別れをすませたこの季節は、出会いの季節になる。


「不二ー!!おはよ!」

「おはよう、英二。」


登校途中に出会った不二に挨拶をしながら駈け寄ると、

不二は菊丸を振り返っていつもの笑みを浮かべる。

少しのちょっかいをかけながら、一緒に登校。

それが、日常。


「あ、手塚だ。」

「ホントだね。」

「手ーーー塚ーーー!!!おっはよー!!!」


誰にも言わないとしているけれど、話をしないわけではない。

違和感の出ない程度に、菊丸は菊丸。

手塚は手塚の日常を演じる。


「不二と、菊丸か。おはよう。」

「おはよう。」

「おは!」


少しの、伏線。

必ず後に呼ぶ、菊丸の名。

少しだけ意識すれば、いつもの日常になっていく。


「仮入部、今日からだよね?」

「あぁ。」

「そうだっけ?

 うわー楽しみ!!面白いヤツ入ってくればいいな!」

「そうだね。」

「あぁ。」


菊丸と手塚の間に不二を入れて、3人で、登校。





かろうじて保つ、均衡。

さぁ、

どう崩れる?









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誰にも言えない秘密の塚菊。
べったべたなネタですが、そんな感じで進んでいきます。
多分、暗くなるよ…?(滝汗)
よろしければお付き合い下さいませv