きっかけは、ただの興味と好奇心。

それと、

ずっと気付かずにいた、狂おしい想い。




























一段飛ばし。




























「うん、気付いてたよ。」


ちゅるる、とリンゴ味のパックジュースを飲みながら言った不二の言葉に、

俺の隣に座っていた菊丸は持っていた苺ミルク味のパックジュースを取り落とした。


「え、気付いてたって…」

「うん?君たちが昨日から付き合ってるって事も含め、英二が手塚を好きになってたって事だけど。」


さすがに最初からじゃないけどね。

菊丸が困惑しながら問うた言葉に、

不二は笑顔で菊丸の落としたパックジュースを置き直してやりながら答えていた。

俺はそれを呆然と見る。

散々巻き込んだ不二には、と連れ立って行った中庭の自動販売機前のベンチ。

「付き合うことになった。」と告げた言葉に、不二は少し嬉しそうに微笑んでそう答えた。


「え、い、いつから!?」


ガタン、と大きな音を立てて菊丸が立ち上がっても周囲の視線が彼に集まらないのは、

今が部活終了後の放課後で、誰も残っていないような遅い時間だからに他ならない。

薄暗くなった校内に菊丸の声が響いた。


「もしかして、って思ったのは、英二が手塚に抱かれたって話してくれた時。

 確信したのは、手塚が英二にフラれた時。」


ちゅるる、とやはり軽い音を立ててリンゴジュースが減っていく。

頭痛がするのはきっと、気の所為じゃないだろう。


「不二…。」

「何?手塚。」

「それはつまり、随分と前から気付いていたことになると思うが…。」

「そうだね。」

「お前確か、散々邪魔したよな…?」


食ってかかられたことも、妨害を受けたことも、一ヶ月以上前とはいえしっかりと記憶に残っている。

菊丸に俺の気持ちをバラしたのも不二だ。

俺の言葉にまた不二はにこりと笑った。


「邪魔だなんて失礼だね、手塚。

 あのままにしておいたらどっちみち君たちは一生そのままだったよ。

 手塚は一生言わないだろうし、英二も自分の気持ちに気付かない。…間違いなくね。」


言われた言葉に思わず口をつむぐと、立ち上がっていた菊丸もベンチにストンと座る。

飲みかけだった苺ミルク味のパックジュースを持って、ちゅるる、と飲み始めた。


「全部、こうなる事を見越してやっていたのか…?」


小さくため息をついて問えば、不二は首を左右に振る。


「まさか。そうなればいいとは思ってたけど、どうなるかなんてボクにもわかるわけないじゃない。

 英二も手塚も、そのまま諦める可能性だってあるし。

 やりすぎたかなぁとも思ったけど、結果オーライでしょ?」


感謝して欲しいなぁ、と言って立ち上がった不二は、飲み終わったらしいパックジュースをゴミ箱へ捨てた。

菊丸は飲んでいたパックジュースから口を離して、立ち上がった不二を見上げる。


「アリガトな、不二。」

「…いいえ、どういたしまして。それじゃ、邪魔者は退散するよ。

 ジュース、奢ってくれてありがとう。また明日ね。」

「ん、明日な。」


ヒラリ、と手を振った不二に菊丸も手を振り返した。

立ち去る不二を見ていると、数歩歩いた後不二はこちらを振り返る。


「そうだ。英二、突然リストバンドなんてしてるからみんなが不思議がってたよ。

 何があったのかは聞かないけど…程々にね、二人とも。」


くす、と笑って今度こそ不二は帰っていった。

不二の残した言葉に、俺と菊丸は思わず目を合わせて苦笑する。

菊丸の腕を取り、リストバンドを外せば、現れるのは青黒い痣。


「痛むか…?」

「うんにゃ。強く押さえたりしなけりゃヘーキ。」

「そうか。」


痣を指先で撫でれば、菊丸はくすぐったそうに笑った。


「俺らもそろそろ帰ろっか。」

「…そうだな。」


腕を取っていた手を放してテニスバッグを持ち、ベンチから立ち上がる。

ジュースを最後まで飲んでゴミ箱に捨てた後、同じく立ち上がった菊丸が俺に手を差し出した。


「帰ろ、手塚!!」

「あぁ。」









差し出された手を取り、足を踏み出す。

その一歩は、これから延々と続いていく階段の、飛ばしたはずの一段目。

あの時見えずに感触だけだった階段は、今、はっきりと姿が見える。





その階段を、もう一度君と。

最初の一段目を、踏み締めて。









end.





 後書。