俺の指が欠片に触れると、

眩しいほどの光が辺りを包み、菊丸の腕にあった欠片は姿を消した。




























一段飛ばし。




























菊丸が言い終わると同時に俺の手の力はゆるみ、菊丸の身体はずるずると床に崩れ落ちた。


今、なんと言った?


グルグルと頭の中で巡るのはその言葉だけ。

すん、と下の方から鼻をすする音が聞こえてきてゆっくりと下を向けば、涙目の菊丸が俺を見上げている。


「きく、まる…?」


なんと言った?菊丸は、今、なんと言った?


視線を合わせて、呟くように名を呼んだ。

呼ばれた名前を聞き取れたのか、菊丸は目の端から涙を流しながら、ふ、と微笑む。

嬉しそうに、安心したように。


どうして、微笑む?

さっきまでさんざんなことをしていた俺に向かって、何故、微笑む?

疑問しか巡っていない俺の脳は、答えを見いだすことが出来ない。

答えが、

欲しい。


「ぶはっ!!」


菊丸は突然、涙目のままで笑い出した。

やはり理解など出来るはずもなく、俺は呆然と菊丸を見る。


「…そんな顔、初めて見た!!!」


苦しそうに笑いながら菊丸はゆっくり立ち上がって背をロッカーに預けた。

顔上げた瞬間、つ、と頬に涙が落ちる。

それを乱暴にゴシ、と拭って真剣な瞳で俺を見上げ、


「好きです。」


俺の目を見てハッキリと、菊丸は言った。


「……は…?」


マジマジと菊丸の顔を見つめ返しても、菊丸の瞳は変わらない。


好きだと、言ったのか…?

俺のことを…?


「誰でも良いんじゃないよ。手塚じゃないと、ダメだって気付いたんだ。」


呆然としている俺を見て、菊丸は少し顔を歪めた。


「散々酷い事しといて、何を今更って…

 友達に戻ろうって言ったじゃんって思って当然だと思う。

 突然こんな事言ってゴメンな、手塚。」


無理矢理笑みを作って顔を逸らし、俺が外したベルトを締め直して

菊丸はゆっくりと俺とロッカーの間から出た。

俺に背を向けてシャツのボタンを留めている菊丸に目を向けると、

震えている、指先。


「菊丸。」


びくりと震える肩を強く引き寄せてこちらを向かせる。

俺に向き直った菊丸は目に涙を溜めていた。


「ご、ゴメン、手塚!!あの…」

「俺が何をしたかわかっているのかッ!!!!」

「へ…?」


目に溜まった涙を見て俺が怒鳴ると、菊丸は目をまん丸に見開く。


「俺がお前に何をしていたか、わかっているのか!?」

「…え、えと、襲われた…?」


呆然と俺を見上げて答えた菊丸の言葉に、俺は菊丸の腕を取った。

俺が強く強く押さえつけた所為で残っている、青黒い痣。


「こんな事をした俺に、何故好きだと言う!!」


イライラとした。


友人とすら思ってもらえないなら、いっそ嫌われてしまえば良い。

そう思っていたのに。

無理矢理だろうと、憎まれようと、もう一度菊丸の熱を。

そう思っていたのに。


いつもそうだ。

望んでいた言葉とは正反対の言葉ばかりが、菊丸の口からは紡がれる。


俺の言葉に、菊丸はまた穏やかに微笑んだ。


「どうしてかな。」


腕に残った痣を反対の手で俺の手ごと一度撫で、菊丸は細めた瞳で俺を見る。


「手塚になら良いって思っちゃったんだよ。ちょっと怖いって、思ったのは思ったんだけど。

 誰でも良いんじゃないってお前に気付かせてもらったから、それだけは伝えたかった。

 その後は、もう、犯されても何でもいいやって。」


合意の上なら犯すって言わないっけ?

菊丸は笑った。


開けられた穴がざわりと騒ぐ。

いつだって、本当はいつだって、

望んでいたのは、

その、

言葉で。


「友達じゃないなんて言われれば誰だってキレるよな。ゴメン、手塚。

 話、聞いてくれてアリガト。」


そう言って、菊丸は俺の指ごと痣に唇を寄せ、俺の指を腕から離す。

俺の指が菊丸の腕から離れたことによって、俺と菊丸の間に出来た距離。

数cm。

少しの距離。


「菊丸。」

「ん、何?」


普通を装っているのがバレバレの声で、菊丸はボタンを留めながら返事を返した。

ボタンは、一向に留まっていく気配がない。


「俺は、お前を無理矢理にでも抱きたいと思ったんだ。

 …例え、恨まれようとも。例え、嫌われようとも。」


ぴたりと止まった、指。

数cm。

絶対に届かないはずだったものが、そこまで迫っている。


「菊丸が、狂おしいほどに好きだ。」


腕を伸ばして、菊丸の止まったままの指に触れた。

菊丸の肩がピクリ、と反応を返す。

恐る恐る、菊丸が顔を上げる。


「好、き…?」

「あぁ。」

「俺のこと、まだ、好き…なの?」

「ずっと、好きだった。」


菊丸がしたように、その刻んでしまった痣に唇を寄せた。









続く→





告白文句としては最低ランクだと思いますよ、国光君。
でも、しっくりくる表現がこれだったんだからしょうがない。
あぁ、やっとだ…良かった…!!