階段の横には、腕に沢山の欠片を抱え、

苦笑を浮かべた菊丸が立っていた。




























一段飛ばし。




























突然、菊丸の集中力が発揮されなくなった。

共に下校した翌日から。

朝練時も午後練時も、恐ろしい程に粗悪なプレーが目立つ。

一日だけならば調子のアップダウンだと理解が出来るが、

それが一週間続いていて、部内の誰もが不思議に思い始めている。


「菊丸!グラウンド10周だ!!」

「…了解。」


自覚はあるらしく、俺が声を荒げると反省するように俯いてグラウンドに向かった。


「おかしいな、英二のヤツ…何か知らないか?手塚。」


大石が俺にそう声をかけてくるが、俺としても全くと言っていいほどに原因が分からないため、

首を左右に振ることで返事をするしかない。

大石の横で、乾がぽつりと「データ外だ…。」と唸った。


「最近よく考え事してるみたいだけど…どうしたんだ?って聞いても答えてくれないんだよ。」


河村も困ったように同意している。

不二を見ると、にこりと微笑んで口を開いた。


「ボクも知らないし…手塚、後で英二に聞いてみてよ。」

「お前が聞いた方が良いんじゃないか?」

「ボクが聞いても教えてくれなかったからね。」


不二の一言で、そこにいた全員の視線が俺に集まる。

心配と期待と(一部)興味が入り交じった視線。

小さくため息を付いて、一度頷いた。




























「菊丸。少し残っていて貰えないだろうか。」

「んにゃ?あ、うん。イーよ。」


練習終了後の部室で、着替えていた菊丸に声をかけた。

一瞬驚いたように目を丸くした後、少し呆けた顔で頷く。

それを確認して自分のロッカーの前へ戻ると、隣で着替えていた不二がにこりと笑った。


「よろしくね、手塚。」


菊丸のことだということはわかっていたので、軽く頷いて返事を返す。

菊丸のことを思ってか、最後まで残っていた3年レギュラーの面々も俺と菊丸に声をかけて帰って行った。

もう既に着替え終わっている菊丸は、ベンチに座って手をひらひらさせながら返事をしている。


「んで、なんか話があんじゃないの?手塚。」


パタリと閉じられたドアを見送って、菊丸が俺に声をかけた。

筆記用具を取りだしていた手を止めて、菊丸を見る。


「なんて、ホントはわかってるけど。ゴメンな、迷惑かけて。」

「いや…構わない。何かあったのか?

 俺と帰った翌日からだからな。…何か、しただろうか?」


俺の問いに、菊丸は申し訳なさそうだった表情を、真剣なモノへと変えた。


「手塚は関係ないよ。…俺の、問題だから。」

「…そうか。俺で良ければ、話を聞くが。」

「んー…まだ、俺の中でも整理ついてないんだ。

 アリガトね、手塚。」

「いや。」


言われた礼に少しの笑みを持って返すと、菊丸は酷く困ったように微笑んだ。


「俺、帰るね。」


そう言って突然立ち上がった菊丸を、俺は驚きに見開いた目で見上げる。


「菊丸。」

「ん?」

「やはり俺は…何かしてしまったか?」


困惑したまま、俺は菊丸に再度尋ねた。

何かしてしまったかもしれないと思った理由は2つ。

1つは、いつもなら菊丸は俺が終わるまで当然のように待っていた。

「一緒に帰ろう。」と言って。

もう一つは…

あの日から菊丸は俺を避けることがある。

あからさまにではなく、さりげなく。それこそ、不二でさえも気付かぬ程度に。

ふと視線が合った時に何気なくそらすとか、少しだけ距離を置いて立つとか。

いつもではない。時折、ふとした瞬間に少しだけ。


「………何も、してないよ?」

「ならば、なぜ…」

「ッ何でもないんだってば!!」


俺の言葉を遮って叫ぶ菊丸に、あの日の菊丸が重なった。

『そんな訳ないだろ!!!!』

そう、不二に叫んでいた菊丸が。


「…ならば、なぜそんなに叫ぶ必要がある?

 お前は時折俺を避けるだろう。それは、なぜだ?」

「…それ、は…。」

「友人になろうと言ったのはお前だ。俺はそうしているつもりだが…

 お前が無理なら、初めから言わなければ良いだろう。」

「ちょ、待…」


菊丸が焦ったような表情をしているのを確認しながらも、俺はイライラと言葉を紡ぐ。

俺らしくないことを言っている。これは、八つ当たりだ。

わかっていながらも、感情に支配された言葉は止まらなかった。


「お前はもう、俺のことを友人だとすら思えないのだろう?」


俺の言葉を聞いて、菊丸の瞳が驚愕に見開かれる。

俺はじ、とその菊丸の瞳を見つめた。

しばらくの沈黙のあと、菊丸はぽつりと呟くように言葉を紡ぐ。


「…そう、だよ。もう、手塚のことを友達だなんて、思えない。」


紡がれた言葉に、俺の思考は停止した。

ベンチから勢いよく立ち上がる。


「でも…っ!?」


ゴツッ


部室に響く鈍い音と、痛みにゆがむ、菊丸の顔。


「ってぇ…」


話を続けようとした菊丸を、背後のロッカーへ押しつけた。

背にはロッカー。正面に俺。驚きに見開かれる、菊丸の瞳。

あごを掴んで上向かせ、


「てづ…っ!?」


深く、噛みつくように口付けた。









続く→





一回保存の際の不手際で全消しをくらいました。
めそめそめそめそめそ…。