そうして歩いて…また現れた、階段。




























一段飛ばし。




























それから、1日…2日…と時間が過ぎ、1ヶ月が経った。

もう飛びつかれても胸の疼きはないに等しいその日。

たまたま部の用事があって、3年6組の教室を訪れた昼休憩。


「不二!!!!!!」


ガンッ


廊下にまで響いた菊丸の声と音に、俺は声をかけようとした口を閉ざした。

ざわついていた教室は一気に静かになり、不二と菊丸に視線が集まっている。

見れば、菊丸が不二の机に拳を振り下ろしたようだった。

弁当箱がガタガタと揺れ、菊丸の顔は怒りの所為か真っ赤に染まっている。


「英二、顔真っ赤だよ。」


立ち上がっている菊丸に対し、座って自分の弁当を食べながら楽しそうな声で不二は言った。


「冗談言うのもいい加減にしろよ!!!そんな訳ないだろ!!!!」


こんなに怒っている菊丸を見ることは珍しい。

拗ねたり、ムッとした様子を見ることはあるが、

ここまで声を荒げた上に机にまであたっているというのは本当に珍しい。

そんなことを思いながら、入りにくい状況に少々ため息をついて

クラスの面々と共に菊丸と不二のやりとりを見守る。


「そんなにムキになることないじゃない。ボクは可能性を提示しただけだよ?

 それとも…図星?」


ふふ、と笑いながら、不二は楽しそうに菊丸を見て言った。

その不二の態度に菊丸の機嫌は更に逆撫でされたようで、

もう一度強く大きな声で「不二!」と叫ぶ。


「そんな訳、ないって言ってるだろ!!」

「さっきから言ってるでしょ?ボクは可能性を…あ。」


ふとした時に顔を上げた不二と目が合って、不二は俺を見ながら菊丸に声をかけた。


「英二、後ろ。」

「何だよ!!」


怒鳴りながら勢いよく振り返った菊丸とも目が合う。

菊丸は驚いたように目を見開いて、なぜかバツが悪そうに少し俯いた。

少々呆然とした後、話が中断されたことに気付いた俺は

用事があったことを思い出して不二と菊丸の席へ向かう。

どうしたの?と、不二が声をかけてきた。


「放課後の部活は急なコート整備が入って中止だそうだ。」

「うん、わかったよ。」


頷いた不二に対して、菊丸は俯いたまま返事はない。

ちゃんと聞いているのか、と菊丸の目の前に手をやる。


「菊丸?」

「…あ、うん。わかった。」


少し驚いたように顔を上げて、菊丸は目を見開いたまま頷いた。


「気を付けろよ。」


菊丸の態度に少々不安になりながらそう言って、俺は自分の教室へ戻る為に二人に背を向ける。

一歩踏み出そうとした時、クン、と引っ張られる感覚に身体を止められた。

振り返ってみれば、菊丸が俺の上着を掴んでいる。


「用事何もないなら、一緒に帰ろ。」


据わったような目で言われ、内心首を傾げながら頷いた。


「教室、迎えに行くから。」

「あぁ、わかった。」


俺が返事を返すと、菊丸はストン、と椅子に座って弁当の続きを食べ出す。

正面に座っていた不二は、くすくすと楽しそうに笑っていた。

興味深そうに見守っていた3年6組の面々は、話が終決したらしい雰囲気を読み取って元のざわつきに戻る。

ふと時計を見ると、昼休憩終了10分前だった。




























「…………。」


菊丸と一緒に校門を出て、ゆっくり歩いて帰る。

菊丸は黙ったままそわそわとどこか落ち着きなく俺の横を歩いていた。


「…どうした。」


階段の前にさしかかった時、立ち止まった菊丸に問う。

一緒に帰ろう、と言ったわりには黙ったままで何を言う様子もみせない。

普段の菊丸を考えれば、実に奇妙な状態だ。

普段の菊丸は、相手が俺だということも全く関係ないようにしゃべり倒す。


「ぇ?あ、いや、何でもないんだけど…。」


言い淀みながら、菊丸は足元を見ずに一歩踏み出した。

勿論、階段の前だったのでそこは一段分低くなっていて…


「菊丸ッ!!」

「うわっ!?」


バランスを崩して落ちそうになった菊丸の腕を、慌てて引き寄せる。

俺に支えられてバランスを取り戻した菊丸が、驚いたように顔を上げた。


「足下を見ろ!!!」


咄嗟に俺が怒鳴ると、菊丸は顔を伏せる。

顔を伏せたまま、小声で「ゴメン。」と言った。

咄嗟とはいえ怒鳴ってしまったことに罪悪感を感じて、「気を付けろ。」と言って軽く髪に手を乗せる。

すると、菊丸はまた驚いたように顔を上げた。


「…帰るぞ。足下に気を付けろよ。」

「…うん。ありがとう、手塚。」


少し困ったように笑って、一段降りた俺に並ぶように菊丸も階段を下りる。

残りの帰り道は、普段と変わらない菊丸だった。

時折、俯くこと以外は。









続く→





ずっと菊丸菊丸と書いていたせいか、「英二」と呼ぶ手塚に違和感を感じる今日この頃。
慣れって恐ろしい…。
場面コロコロ変わってすみません。読みにくいですよねぇ…。(汗)