ふと見ると、長く長く続いていた筈の階段は

跡形もなく消え失せていた。




























一段飛ばし。




























「手塚。」


呼ばれて顔を上げると、困ったような顧問と大石の顔。

俺はすみません、と頭を下げた。


「いいや、構わないが…どうしたんだい?

 最近随分とぼーっとしてるようじゃないか。」


お前らしくないね。

そう言って顧問の竜崎先生は笑った。

あれから3日。

今まで通りの、何気なくも忙しい日常が過ぎる。

ただ違うのは、菊丸の態度。

以前、悪戯が始まる前…よりももっと、俺に近付かなくなった。当然だろう。

軋んだ音を上げ続け、激しく痛むココロの穴も…当然だ。

隣にいた大石が疲れているんじゃないか?と少し心配そうに言う。


「いや…大丈夫だ。続けましょう。」


ランキング戦のブロック分けを記す紙をシャーペンの先で一度弾いて俺は答えた。

その時、視聴覚室のドアが軽い音を立てて開かれる。


「失礼しまーす。ちょっと良いかな?」


穴の開いたココロが強く反応を示した。

ズキリ。

痛む。

言葉の割に遠慮がちに顔を覗かせたのは、


「おや…部活中じゃないのかい?」


菊丸。

パートナーをしている大石が、どうしたんだ?と立ち上がって菊丸に駆け寄って行った。

少しおどおどするような仕草の原因は先生ではなく、俺だろう。

そう思って俺はすぐに菊丸から紙に視線を戻す。


「、手塚。」


呼ばれた名前に驚いて外した目線を元に戻した。

菊丸は大石の横で、真っ直ぐに俺を見ている。


「ちょっと、付き合ってよ。」


暫く呆然と菊丸を見つめて席を立った。


「すみません、少し行って参ります。」


驚いたような顔をしている竜崎先生にそう一言断って菊丸のいる入り口のドアまで歩く。

柄にもなく緊張している自分がいて心中で苦笑した。

今までしたどんな試合でもこんなに緊張したことはない。

きっと、菊丸を抱いたとき位だ。

ズキリズキリと音を上げるココロの穴に響くのは、甘い喘ぎ声。

…未だに。


「すまないが少し席を外す。

 …菊丸。」

「ん。」


大石にも一言断って、菊丸を正面から見て名を呼んだ。

あれ以来、こうやって正面から菊丸を見るのは初めてかもしれない。

菊丸は一度小さく頷いて俺の腕を取ると、何も言わずにずんずんと歩き出した。

俺は、それに引きずられるようについて行く。


「手塚。」


歩きながら、菊丸が俺を呼んだ。

振り返らずに。


「手塚。」


もう一度、俺を呼ぶ。


「何だ。」


返事を返すと、菊丸が立ち止まった。

思わずぶつかりそうになり、少し慌てて俺も止まる。

周り見れば、そこは3年6組の教室の前。

放課後の教室には人の姿もない。

菊丸は少し強く俺を引っぱって教室に足を踏み入れた。


「座って。」


指差された席はおそらく不二の席。

菊丸の隣だと以前嫌味がてらに言われたことがあった。

菊丸はゆっくりと自分の席…俺の隣に座る。

俺の腕は未だ、掴まれたまま。


「あの、さ。」


ぎゅ、と俺の腕を掴んだまま指に力が入っていた。

何を言おうとしているのか、何が言いにくいのか、わかっている。

だから、


「好きだ、菊丸。」


俺の言葉を聞き取った菊丸の肩がビクリ、と震えて顔を上げた。

伝えるのをあれだけ躊躇していた言葉だというのに、

こういう時にはすんなりと出て来るんだな。

そう少し自嘲気味に思って菊丸の目をじっと見つめ返す。


「てづ…か…?」


返ってくる答えなどわかりきっている。

戸惑っているのは目に見えてわかるが、

このまま曖昧にするのが得策ではない事くらいはわかっている。

…だから、


「返事を、貰えないだろうか?」


言いやすい状況を作るのは、俺の役目だろう?


じ、と見つめ続けていると、菊丸は俺からゆっくり目を逸らす。

何度か視線を左右に彷徨わせた後一度俯いてから顔を上げ、





「ゴメン。」





そう、俺の目を見て返事をくれた。


「あぁ。ありがとう。」


微笑んでそう答えた俺に、菊丸は泣きそうな顔をした。









続く→





ふられ塚って珍しいですよねぇ…。
…いや、私の見てるサイト様のジャンルが偏ってるからかもしれませんが。