宙に浮いた身体は、

いとも容易く一番下まで落下した。




























一段飛ばし。




























「…な、何言ってんだよ、不二。違うよな?手塚。」


菊丸はそう言って俺を見上げた。

懇願するような、ひたすらに否定を望むような目で。

俺はそれに答える事は出来なかった。

答えを返さず目をそらした俺の制服を、菊丸は少し焦ったように掴む。


「だって、お前、好きなヤツいないって…。

 俺の事好きな訳じゃないって言っ…。」


そこまで言って菊丸の言葉は途切れた。


『お前って、好きなヤツとかいねーの?』

『俺のこと好きなの?』


『それはお前にも言えるだろう。』

『さぁな。』


聞かれた問いに、俺はそうとしか返していない。

否定した事など、一度もなかった。

その事に気付いたらしい菊丸は、言いかけた口を開けたまま。


「まさか…お前、本当に…。」


顔を真っ青にして、菊丸は俺を見つめ続ける。

不二はそんな菊丸を見て「英二。」と小さく名を呼んだ。


「…手、塚…あの…。」


いっそ同情してしまう程に顔色を悪くしている菊丸を見て、

これ以上の追い打ちは得策ではないと思う。

ゆっくりと菊丸の肩に手を置いて、二度程軽く叩いた。


「…気に、しないでくれ。」


俺の言葉を聞いた菊丸は、ふるふると首を左右に振る。

そう言っても、菊丸が気にするのは目に見えていた。

そういう、ヤツだから。


「だって…」

「断る事も出来たにもかかわらずお前の誘いを断らなかったのは俺だ。お前が気に病む事ではない。

 浅ましいと、軽蔑されてもおかしくはない位だ。」

「軽蔑なんかするわけないじゃん!!俺が…。」

「菊丸。」


続けようとする菊丸の言葉を、名を呼ぶ事で遮る。

眉間に皺を寄せて、青い顔のまま菊丸は俺を見上げた。


「俺がお前の興味につけ込んだんだ。

 本当に、気にしなくていい。」

「っ!!」


ぐ、と菊丸が奥歯をかみしめたのがわかる。

もう一度肩を軽く叩いて、俺は菊丸と不二に背を向けて生徒会室へ足を向けた。


「手塚。」


呼び止めたのは、不二。

振り返ると、不二は苦々しく顔を崩していた。

何かを言おうとして口を開いては閉じ、また開いては閉じる。

責めようなどとは思わない。

それならば、かける言葉は一つ。


「心配をかけた。」


俺がそう言うと、不二は一度目を見張って俯いた。

また彼らに背を向けた瞬間、ギリギリと音を立て始めたのは麻痺しきっていたココロ。

まるで麻酔が切れたかのように、激しく襲う痛み。


痛い。

痛い。

痛い。


それでも、それを望んだのは俺自身。

大丈夫だ。覚悟は、していた。

この関係が始まった時からずっと。

軽蔑しないと言っただけ良いじゃないか。

そう自分に言い聞かす。

けれど、


「手塚っ!!!!」


背にかかった菊丸の声に振り向く事だけは、出来なかった。









続く→





ラブいの書きたいよ…あーあー…ラブいの書きたいよ…。