麻痺したまま、確実に広がっていく傷口。




























一段飛ばし。




























「菊丸先輩が、好きです。」


ホームルームが終わり、部室へと向かう道の途中。

ふと耳に入った言葉に俺は驚いて足を止めた。

声のもとに目をやれば、菊丸と声の主らしい女子が校舎の陰に立っている。

真っ赤に染めた頬が、随分と可愛らしく見えた。


「ゴメン。今はテニスでいっぱいいっぱいだから。」

「そう、ですか…。」


菊丸の言った言葉にそう返事を返して女子は一度頭を下げ、駆け出すように立ち去る。

それを見送って俯き、菊丸は少し申し訳なさそうに一度小さく息を吐いた。

そして、顔を上げた菊丸と目が合う。


「あ、手塚。」


随分とバツの悪い気分になった。

偶然とはいえ、立ち聞きをしていたのだから。


「すまない。」

「うんにゃ。いーよん。」


俺が謝ると、菊丸は少し照れくさそうに笑う。

少し気まずいような沈黙が流れた。


「では、また部活で。」


沈黙に耐えかねて歩き出そうとした俺の腕を、菊丸が掴む。

ぐっと引き寄せられて、いつものように口付けられた。


「へへへのかっぱーっ!!不意打ち〜!!」


俺が驚いて目を見開くと、菊丸はそう言って腕を放す。

一瞬停止した思考が、ひとつの疑問を浮き上がらせた。

何故?


「何故断った?」

「ん?」

「キスがしたいならば…。」


キスがしたいなら、恋人を作ればいいじゃないか。


言いかけて言葉を止めた。

何を考えているんだ、俺は。

最低な考えに、少しだけ吐き気がする。

俺の言葉の続きが予想できたらしい菊丸は驚いたように目を見開き、

す、と眉間にしわを刻んだ。


べち。


鈍い音を立てて菊丸の掌が俺の額を軽く弾く。

少し驚いて俺が目を見開くと、菊丸は眉間にしわを刻んだまま真剣に俺を見つめてきた。


「それは、相手に失礼だ。」


菊丸の言うことは、至極もっともだ。

それに、コイツは相手の気持ちを弄んでまで自分の欲求を満たすようなヤツじゃない。

だから、


「…すまない。軽率な発言だった。」

「ん。つか、したくなったら手塚にねだるからイーんだよ。」


いつもの笑顔で菊丸は言う。

だから、俺がこの関係を望んでいる限り伝えられないんだ。


「お前…。」

「嫌じゃないだろ?ムッツリ国光君。」


呆れたように声を出せば、にんまりと笑ってそう返された。

少し強めに睨んで、菊丸の頭に持っていたファイルの角を少し強めに当てる。


「だっっ!!!」


俺は菊丸から抗議の声が上がる前に、踏み出し損ねていた足を前へ出して歩き出した。


「っちょ、手塚っ!!」


それに焦ったように菊丸が声を上げて、俺の横まで駆け寄ってくる。


「ったく、置いて行くなよな。どーせ行き先は一緒なのにさー。」


横まで来て菊丸は抗議の声を上げた。

菊丸へ一度目を向けて、俺はわざとらしくため息を付く。

出来るだけ、悟られぬように。


「うわ、ため息付くなよ!!!

 イーじゃん。友達だろ?」


“友達”


「そうだな。」


ズキリと音を出すココロを無視して俺が肯定を返すと、

菊丸は嬉しそうに にへ、と笑った。


「否定されたらどーしよーかと思った。」


あー良かった。と、息を付いている。

ズキズキズキ。

麻痺しているココロは痛みを伴わない音を出し続けた。

友達で。仲間で。


「菊丸。」

「ん?」

「…何でもない。」

「なんだそりゃ。変なヤツー。」


例えどんなにココロが音をあげようと、

それすら奪ってしまう可能性のある言葉など、言おうとすら思わなくなっていた。









続く→





手塚の心境さえなければ仲良しっぽい。
英二も塚も、普通にモテると思う。実際にいたら惚れるなー。
…こんな素敵な男子はうちの学校にはいなかったがな!!(笑)