その一言は、俺を地の底まで突き落とす。




























一段飛ばし。




























好きになったのはいつだ、と聞かれれば俺は答えを出すことが出来ない。

コロコロと変わる表情に目を奪われて、気付けば目で追うようになっていた。

これが恋なんだと気付いたときには、もう狂おしいほどに菊丸を想っていた。

それでも、伝えようとは微塵にも思っていなかった。

迷惑がられるのは目に見えているから。

だから、絶対に悟られるわけにはいかなかった。




























「は…?」

「別に俺はイーよ?」


何でもないように、そいつは続ける。

抱いても良いよ、と。

俺のことを何とも思っていないからこそ、言える言葉。


「て・づ・か。」


ガバッと起き上がって菊丸は楽しそうに俺に顔を寄せた。

いつもの天真爛漫さとは少し違う、それでも無邪気な笑み。


「気持ち良くしてくれんでしょ?」


楽しそうに、楽しそうに笑う。


「ま、夜…ね?」


イヒヒと笑いながら菊丸が俺の肩を叩いたところで、

まるでタイミングを見計らったように扉をノックをする音が部屋に響いた。


「はい。」


扉を開けると、母親の姿。


「国光、夕食の準備が…あら、いらっしゃい。」

「お邪魔してます。菊丸英二です。」


菊丸に気付いた母が挨拶すると、菊丸もいつもの笑顔で一度頭を下げる。

その仕草を見てふふ、と笑うと、母は用件を思いだしたのか俺に向き直った。


「そうそう、国光。夕食の準備は出来てるから降りていらっしゃい。

 菊丸君も一緒にね。」

「はい、ありがとうございます。」


にこやかに返事を返す菊丸を見て、母は嬉しそうに微笑んで立ち去った。

菊丸はそれを見送ると、くるりと振り返って楽しそうに笑う。


「そんじゃ、お楽しみは後にして行こうか?国光君。」


そんな菊丸を一度睨み、ため息をついて部屋を出た。




























「にゃ〜気持ちよかった!!手塚ん家の風呂って広いんだねぇ!!」


嬉しそうに笑いながら部屋に入ってきた菊丸を見て、俺はため息をつく。

それを目敏く見付けた菊丸は、失礼なヤツーと、口を尖らせた。


「手塚手塚。」


すす…と寄ってきてちょこんと俺の横に菊丸は座る。

何だ?と菊丸を見れば、にぃっと笑ってみせた。


「同じ匂いー。」


同じ家の風呂に入ったから当然だと思うが、そうか。と言えば、そうだよ!と菊丸は楽しそうに笑う。

変な気分ーと、もう一度笑った。

ふと見上げた時計は23時を指している。


「もう寝るぞ。勉強の復習は明日だ。」


俺がそう言うと、菊丸は床に引いてある客人用の布団ではなく、俺のベッドへ移動した。


「菊丸、お前の布団は…」

「ん?お楽しみはこれから、でしょ?」


俺が布団を指して言うと、その言葉を遮るように言って菊丸は笑う。

楽しそうな、興味に満たされきらきらと光る瞳で。

俺は平静を繕ってため息を付くと、菊丸に目を向ける。


「冗談はそこまでにしておけ。言って良いことと悪いことがあるだろう。」


菊丸は少し驚いたように目を見開くと、少し不機嫌そうに顔をしかめた。


「別に減るモンじゃないんだし、いいじゃんよー。何なら俺から誘おっか?」

「断る。いい加減にしろ。」


呆れた風を繕って、俺はもう一度ため息を付く。

特別に好きじゃない相手でも、その行為に興味があるから抱かれようとする。

つまり、誰でも良いんだ。菊丸は。

たまたま、そんな事を言える場所にいたのが俺だっただけで。

そんな菊丸を抱いても、意味がない。

ゆっくりと立ち上がって電気を消した。


「さぁ、もう寝るぞ。」


俺のベッドから降りようとしない菊丸に、仕方がないので俺は客人用の布団で寝ようと移動する。

すると、菊丸は腕を掴んで俺を引き寄せた。

触れるように口付けられる。

驚いて菊丸を見れば、月明かりに照らされて微笑む顔。


「いいじゃん。なぁ…抱いてよ、手塚。」


そう言って、もう一度口付けられた。





言葉とは裏腹に酷く無邪気で幼い…それでも妖艶な笑み。





鳥肌が立つ程に身震いをして、菊丸の腕を引き寄せた。

わかっているんだ。興味本位でしかないことは。

それなのに、腕に抱きたいという欲望に抗うことが出来ない。

理性的だの何だの言われているのが聞いて呆れる。

こんなにもどす黒い欲望が渦巻いているというのに。


「菊丸…。」


あごに手を当てて、上を向かせる。

それに従った菊丸は、ゆっくりと目を閉じた。

口付けを落としながら、ココロは悲鳴を上げる。

ギリギリと悲鳴を上げ、ついに切れた。

がらがらと音を立ててココロが崩れていき、少しずつ穴が空いていく。

唇を離すと、うっとりと目を細める菊丸と目が合った。

一度頬を撫でる。

崩れゆくココロを無視して、くすぐったそうに笑う菊丸をベッドに押し倒した。









続く→





放っておけばいちゃいちゃしそうになる塚菊に大慌て。
その良い例が同じ匂い発言。危ない危ない…。
…危ない…。