無邪気に笑っている筈のその目から、目線をそらすことが出来ない。




























一段飛ばし。




























それから暫く真面目に勉強をした。

菊丸は集中すれば理解するのも覚えるのも早い。ただ、波が激しすぎるだけで。

思ったよりも随分と早く予定の範囲を終え、シャーペンを置いた。


「うにゃー!!すごい!もう終わっちゃった!!

 マジで助かったよ。あんがとね、手塚!!」


嬉しそうに微笑む菊丸に、何でもないように「あぁ。」と返す。

ふと時計を見れば7時を指していた。


「なぁなぁ、手塚。」


時計に移していた視線を菊丸に戻すと、先ほどとは違う、楽しそうな視線と目が合う。


マズい…。


こんな視線を菊丸がする時は、キスを強請る時だ。

背筋に冷や汗を流しながら、俺は「何だ?」と聞いた。

   
「キスしよー?」


にっこりと、菊丸はそれはそれは楽しそうに微笑む。


「…勉強をしに来たんだろう。」

「終わったじゃん。それに、休憩だって必要でしょ?」


逃げようと苦しい言い訳をすれば、あっさりと返された。

机越しに俺の前に座っていた菊丸は、立ち上がって俺の横へ移動してくる。

きゅ、と軽く腕を首に巻き付けて、菊丸は目を閉じた。

誘われるように、口付ける。

ガンガンと鳴り響く音には、無視をした。

一度だけ触れて離そうとすると、首を引き寄せられて再度口付けられる。

突然引き寄せられたので俺の身体はバランスを崩し、菊丸を押し倒すような体勢になっていた。


「手塚…。」


楽しそうに目を細めて笑った菊丸を黙らせるように、唇を押しつける。

啄むように、何度も何度も。

頭と身体が沸騰したように熱い中、ココロだけが異常に冷めていた。

わかっているんだ。

菊丸がこうしてキスを強請るのは、単純にこの行為を楽しんでいるだけだということを。


「んっ…。」


押しつけるように重ねるだけだった口付けは、菊丸が舌で俺の唇を舐めたことで深いものに変わる。

ちゃんとわかっている。

それ以上を促してくるのは、ただ単純に好奇心を満たすためだということを。

頭と身体は火傷しそうな程に熱いのに、ココロだけは反比例するように凍り付いていく。


「手、塚ぁ…。」


菊丸の口から呟かれた俺の名に、ぞわりと鳥肌が立った。

これ以上は駄目だ。

これ以上続ければ、歯止めが利かない。

警告はいつになく高く大きく鳴り響き頭はぐらぐらとするのに、

口付けだけは深く激しくなってゆく。

飲み込みきれない唾液が菊丸の口の端から流れ落ちた。

それにすら、欲情する。


「ふっ、んっ、」


必至に息をしようとする菊丸の唇を深く深く犯すと、くぐもった菊丸の声が部屋に響いた。

駄目だ駄目だ駄目だ。

止めろ止めろ止めろ。

そう思うのに、思考に身体が付いて行かない。

左手を、菊丸の腰に添えた。


「国光ー?」


がちゃりと玄関の開いた音が遠くで響く。

帰ってきたらしい母親の声に、俺は我に返って起き上がった。

菊丸は少し荒れた息で、潤んだ目を呆然と俺に向けている。

そして喉の奥から出すように、はぁ、と一度息を吐いた。


「手塚ってばむっつりー?」


息が整ってくると、菊丸はそう言っていつものように笑う。

少しだけ安心して、俺は菊丸を睨んでやった。


「ディープキスって初めてしたけど、気持ちイーんだねぇ。

 鳥肌立っちゃったよ、俺。」


それとも手塚が上手いのかな?

そう言ってイヒヒと笑う。

その言葉を横に聞きつつ、今更ながらに震えてきた手をぎゅっと握りしめた。


「帰れ。菊丸。」

「へ?」

「後は自分で出来るだろう。」


これ以上同じ空間にいることなど、耐えられない。

そう思っているのに、コイツは俺に追い打ちをかけていく。


「あぁ…欲情しちゃった?手塚。」


そして、楽しそうに笑いながら菊丸は言ったのだ。





「何なら、抱いてみる?」





と。









続く→





わーぉ!塚がヘタレなムッツリ!!
てか、菊丸さんが…すみませんすみません…!!!!