そして、悪循環は輪をかける。




























一段飛ばし。




























「ああぁあぁぁぁぁぁぁ…どぉしよぉ…!!!」


菊丸の声が放課後の部室に響く。

隣で着替えていた不二が、苦笑をしながら菊丸の髪を撫でた。


「自業自得でしょう?英二。土日があるんだし、性根入れて勉強すれば?」

「うぅぅぅぅ…わかってるよ…。」

「どうしたんスか、エージ先輩。」


ただならぬ様子の菊丸に、少し離れた場所にいた桃城が声をかける。

ガバッと顔を上げて桃城を見た菊丸は、すぐにがっくりと肩を落とした。


「桃じゃ意味ないじゃーん…。」

「だから、どうしたんスか?」

「月曜の小テストで悪い点だったら補習なんだよ。英語のね。」


答えようとしない菊丸の代わりに不二が答えると、桃城は納得したように頷く。

頑張ってください。と、少し苦笑しながら声をかけた。

桃城の隣で越前がまだまだだね。と呟く。


「おーチービー…!!ちょっと帰国子女だからって、生意気だぁぁーーー!!!」

「ちょ…先輩、苦し…!!」


その呟きを聞きつけた菊丸は後ろから抱き付いて越前の首を絞めた。

どうやら本気で苦しかったらしい越前は、バシバシと菊丸の腕を叩いて離れようともがく。

あっさりと腕を放した菊丸は、ビシッと越前を指さした。


「参ったか!おチビ!!!」

「はいはい…。」


ゲホ、と一度咳をして越前は降参するように手を挙げる。

その様子を満足そうに見ると、菊丸は突然俺の方を振り向いた。


「手塚!明日と明後日暇?」


内心驚いて返答に詰まっていると、菊丸は尚も続ける。


「今の聞いてたっしょ?

 明日部活終わった後で英語教えてもらいに手塚ん家泊まりに行ってもいい?」


な?と、なんでもないように告げられた言葉に、内心は酷く焦っていた。

これ以上、かき乱さないでくれ。

一時的な二人きりならまだしも、一日中二人きり。

キスを何度も何度も強請られることは、容易に想像できた。

否定の言葉ばかりが頭の中を駆けめぐっていくにも関わらず、

口から出たのは肯定以外のなんでもない言葉。


「理解するまで眠ることは許さないからな。」

「うげ!!!マジ…!?」

「泊まりの兼は今夜母に聞いておこう。後で連絡する。」

「おう!よろしく〜!!」


菊丸は機嫌良さそうに返事をしてロッカーに向き直り、鞄を持って不二と帰っていった。

俺は重たくなった気持ちを抱えていつもよりもゆっくりと着替え、いつもよりもゆっくりと家へ帰る。

家へ帰って聞いてみれば、頼みの綱だった母親はあっさりと、寧ろ嬉しそうに菊丸が泊まることに許可を出した。

深く深くため息をついて、俺は受話器を取る。


『ハイハイハーイ!菊丸でーす!!』

「手塚だ。」

『あ、やっぱりね。そろそろかなーって思ってたんだよん!

 で、お母さんなんて?』


数回のコール音の後電話に出た菊丸に、一瞬嘘を付こうかと考えた。

しかし、嘘はよくないと思い直す。


「喜んで。だそうだ。」


俺がそう言うと、菊丸は嬉しそうにやったー!と声を上げた。

勿論勉強を見てもらえるという事にだろうが、もしかしたら…という期待がふくれあがって嫌になる。

本当にどうしようもない程、俺は菊丸が好きなんだ。

くらくらと眩暈を起こしそうになる頭を何度か振って、

嬉しそうにはしゃいでいる菊丸の声に耳を傾けた。


『じゃぁじゃぁ、明日一回帰ったらすぐ行くね!!』

「わかった。」


極力いつも通りに、冷静なフリをして返事を返す。


『そんじゃ、おやすみ!また明日ねー!!』

「あぁ、おやすみ。」


ガチャンと切られた後、ツーツーと音がする受話器を見つめて俺はまたため息をついた。




























「お邪魔しまーす!!!」

「あぁ。入れ。」


玄関チャイムと共に響いた声にドアを開けると、私服に身を包んだ菊丸が満面の笑みで立っていた。

招き入れて、家へと上げる。

こんな日に限って何故か家族はみんな出払ってしばらく帰ってこない。


「あれ、家族は?」

「皆出払っている。夕食までには帰ってくるから心配するな。」

「ふーん。」


不思議そうに言った菊丸に返事を返すと、菊丸はにやりと笑って俺の腕を引き寄せた。


背伸びをして、俺の唇に触れる。


ぱっと一瞬で唇を離すと、目を見開いた俺を見て菊丸は楽しそうに笑った。


「手塚の驚いた顔見れんのって俺の特権かなー?得した気分っ!」


無邪気に笑ってそう言う菊丸に深く深くため息をついて、菊丸を部屋まで案内する。

グリグリグリグリグリ…。

廊下を歩きながら、ココロが踏みつぶされていく音が聞こえた。

部屋に着くと、荷物を下ろして教科書とノートを出すように言う。

もう始めんのー?と不満そうな菊丸に、当然だと答えて折り畳みの机を出した。


「なぁ、手塚ー。」

「何だ。」


教科書とノートを机の上に置いた時、菊丸がさも当然の疑問のようにその問いを俺に投げかける。


「お前って、好きなヤツとかいねーの?」


お前だよ。


その一言が言えればどんなに良いのだろうかと心から思った。

それでも、その一言を言ってしまえばこの関係が崩れてしまうことを何処かで惜しんでいて。

潰されていくココロ達の悲鳴を無視し続けてもこの関係に縋ってしまっている俺は、何と浅ましいのだろう。


「それはお前にも言えることだろう。」


そう返せば、菊丸はそれもそうかと笑う。


「さぁ、始めるぞ。」

「よろしくお願いしまーす!!」


俺がそう言うと、教科書とノートを開いて菊丸は一度頭を下げた。









続く→





菊丸ってお馬鹿なのか頭良いのか…サイトさんによって両極端ですよねー。
うちは教科により極端って感じでしょうか。日本史と体育は良いケド…みたいな。