無邪気に笑いながら、菊丸はゆっくりと確実に、俺を追いつめていく。




























一段飛ばし。




























「ねぇ、手塚。」


部活の休憩中、突然不二に呼ばれて俺は振り返った。


「何だ。」

「いつまで待つつもりか知らないけど…このままだと後悔するよ?」


何についての話か、主語が抜けていると言おうとして、やめた。

俺自身何の話なのかはわかりきっているし、

コイツにそんなことを言っても無意味な事くらい、短くはない付き合いで知っている。


「君の気持ちもわからなくもないけど、あの子は鈍いから。」


あの子、が誰を指してるかも。

不二は菊丸の悪戯が始まる随分と前から俺の気持ちに気付いていた。

それでも、俺の気持ちを否定する事もなければ菊丸を俺から遠ざけようともしなかった。


「それでも、伝える気はない。」


話を逸らすことを諦めて、俺は答えを返す。

それが迷惑でしかないことは、わかりきっている。

もしかしたら、という望みはあの日以来深い傷になって今でも浸食を続けている。

勿論その事は不二でさえも気付いていないとは思うけれど。


「そう。

 ところで…最近英二と仲が良いのはボクの気のせい?」


ちょっと前まで会話すらまともにしたことあるか疑問だったのに。

そう言った不二の言葉に、俺は一度眉をひそめる。

確かに、あれ以来菊丸は俺に声をかけてくるようになった。

おそらく、冗談の通じる相手だと判断したからだろう。

一度目を閉じてため息を付く。


「もともと悪いわけではない。」

「…まぁ、良いけどね。」


俺がそう返事を返すと、不二はぽん、と俺の肩に一度手を置いて立ち去った。


後悔なんて、もう腐るほどしている。

そう、腐るほどに。


「手塚ーっ!!」


楽しそうに俺を呼びながら手を振る菊丸が見えた。

たたっと駆け寄って来て、がばっと抱きつく。

以前は俺にはしていなかった菊丸流のスキンシップ。


「突然飛びつくな。」

「声かけたじゃん?」


俺がそう注意しても、にまりと笑って返してくる。

一度ため息を付くと菊丸は楽しそうに笑った。

きょろ、と辺りを見回し誰もいないのを確認すると、菊丸は抱きつく手を少し強くする。

そして、確認をするのだ。


「な、今日も居残り?」

「…あぁ。」

「んじゃ、俺も残ろーっと。」


良いだろ?

そう言って菊丸は少し楽しそうに笑ってみせた。

ほら、こういう時だ。

後悔を腐るほどするのは。

傷口が腐るほどに、後悔をするのは。


「好きにしろ。」


俺がそう言うのを確認すると、菊丸は一度ぎゅう、っと抱きついて嬉しそうに笑う。

ふと目の端でとらえた不二が、一度楽しそうに笑った。

違う、そうじゃない。

喉まで出かかった言葉を飲み込んで、俺はいつものように菊丸の腕を剥がす。

不満そうに口を尖らせた菊丸の頭を、いつものように持っていたファイルで一度軽く叩いた。


そして、悪循環は実に順調に回り続ける。

俺だけを巻き込んで。

他には良いことのように思い込ませて。










続く→





不二と手塚。仲は絶対に良いと思ってます。原作然り。