きっかけはただの興味と好奇心。

それだけ。




























一段飛ばし。




























誰もいない、部活終了後の部室。

ちゅ、と軽い音をたててそいつは俺にキスをした。

俺が驚いて目を見開くと、嬉しそうに楽しそうに、笑う。


「手塚の驚いた顔、見ちゃったー!!」

「菊丸…!?」


俺とコイツは付き合っているなどという訳ではない。

それなのに何故…?と聞けば、きっと単純でわかりやすい答えが返ってくるだろう。


「手塚の驚いた顔なんて、俺が見るの初めてなんじゃない?」


イイものを見た!と言いながら菊丸は笑っている。


ただ単に、俺の驚いた顔が見てみたかっただけ。

本当に、それだけ。


「お前…。」

「初めてってわけじゃないだろ?イイじゃんイイじゃん。」


俺が今どんな気分でいるか、コイツには一生わからないのだろう。

そう心の隅で思いながら、楽しそうに笑っている菊丸の腕を引き寄せた。


「ぅえ!?」


焦ったような声を出して倒れ込む菊丸のあごを掴んで上を向かせ、軽く唇を重ねる。

一瞬の接触。

解放してやれば、菊丸は呆然と俺を見上げていた。


「手塚…?」

「仕返しだ。」


なんでもないように俺が言うと、菊丸は驚いたように目をまんまると見開く。

しかし次の瞬間には意地の悪い笑みに変わっていた。


「うわー。出たよ、究極の負けず嫌い!!」


その言葉を睨むことで返せば、菊丸はまた楽しそうに声をあげて笑う。

確かに、俺は負けず嫌いだ。

しかしそんなことでキスをキスで返す程大人気ないわけでも、非常識なわけでもない。

ただ、


「よっしゃ!手塚の驚いた顔も見たことだし、帰ろっと。

 じゃぁな、手塚!また明日!!」

「あぁ。」


一言答えると、菊丸は手を振りながら部室のドアを開け、帰っていった。

バタンと大きな音を立てて閉まったドアから目線を離すことが出来ない。

今更のように心臓が大きな音を立て、顔に熱が集まるのを感じた。





俺はただ、狂おしい程に菊丸のことが好きなんだ。





手塚は驚いたことあんの?

たまたま遅くまで残っていた菊丸にそう聞かれて、当然だと返した後のあの行動。

心臓が止まるかと思った。

キスが初めてだったとか相手が同姓だったとか、そんな事はどうでもよくて。

相手が菊丸だったということが、何よりも強い衝撃だった。


「菊丸…。」


狂おしい程好きな相手はまったくそんな気などなく、無邪気に俺にキスをする。

そしてその後の俺の行動にもまったく気にすることなく、平然と笑っていた。

喜びたいはずの接触は、結局相手にその気がないことを確認させるだけの酷く虚しく辛いもの。

狂おしい程菊丸を想っていても、必死で押さえている想いを踏みつぶすように俺に現実を突きつける。


いくら俺を想っていても無駄だよ、手塚。


楽しそうに笑ってそう告げるように。




























「手塚ー!!」


放課後の生徒会室に菊丸の声が響く。

大抵この時間は俺が一人で残って仕事をしているのを知っていての行動。


「菊丸。部活は終わったのか?」

「当たり前じゃん。鬼ぶちょー様にグランド走らされたくはないかんねー。」


俺が眉間に皺を寄せて言うと、けらけらと楽しそうに笑って菊丸は答えた。

そして、そんな目をしたままゆっくりと近づいて俺の首に腕をまわし、


「キスしよ?」


無邪気に誘いをかける。

菊丸はあれから、時々気まぐれに近付いてはキスを強請った。

その度に期待しそうになる自分のココロを踏みつぶす。

やめておけ。菊丸にそんな気などない。

わかっているはずなのに、拒否しようとするココロの言うことを聞く事が出来ない。

俺は眼鏡を机に置いて菊丸の柔らかい頬に手を添える。

それを待っていたかのように、菊丸は目を閉じた。


ゆっくりと唇を重ねる。

触れるだけの、とても軽いもの。


グリグリと潰されていく想いに見て見ぬフリをして、更に頬に額に一度ずつ唇をおとした。

菊丸はくすぐったそうに笑うと、俺の頬に口付ける。

甘い甘い恋人同士のような行為は俺を追いつめていく。

それでも俺はこの関係を止めるのを躊躇していて。


「あんがと!!」


顔を上げて微笑む菊丸に、いつものように無表情を繕って「いいや。」と言った。









続く→





今回はツッコミながら進みます。わぁい!ヘタレ塚!!精神的に根暗ー!!
1話はある意味お試し編のような感じです。
1話で大丈夫だった方は2話以降もお付き合いいただければ幸いにございます。