ピンポーン


聞きなれた呼び鈴が家中に響く。

4月から通う学校の案内を読んでいた顔を上げて、

少し足早に玄関に向かった。




























片恋彼女。
 −act.0314




























玄関の戸を開けて、私は余程間抜けな顔をしたのだろう、

呼び鈴を鳴らした主は私の顔を見るなり苦笑を浮かべた。


「菊丸…。」

「やっほ、卒業式ぶり。」


それでもにこりと笑みなおして、ひらり、と手を上げる。

そこに立っていたのは、中学の3年間、ずっと好きだった人。

告白する前に、相手には誰よりも好きな人がいたのだと、知ってしまった人。


「え、なんで…?」


何も言わないまま渡した彼への本命チョコは、次の日の美味かった、と言う一言のみで、

それ以上もそれ以下もない。

気付いたのか、気付いていないのか。

聞くことすらなく、気付けば卒業式が終わっていた。

そんな彼が、どうして今私の目の前に立っているんだろう。

呆然としていた視線をずらすと、門の向こう側、見覚えのある後姿が見える。


「あ…手塚君…。」


その特徴のある髪型には見覚えがある。

ただでさえ何かと目立つ、彼の、想い人。


「知ってたんだな。」


手塚君の方を見ていた私に、菊丸が複雑な声でそう言う。

菊丸に視線を戻すと、菊丸は困ったような顔で笑っていた。


「あーうん、まぁね。

 …心配しなくても、誰にも言ったりしないけど。」


今更釘を刺しに来たのだろうか、と思いながら聞くと、

菊丸はムッとしたように顔をしかめる。


「誰もそんなこと心配してないっての。

 これ、渡しに来た。」


ほい、と手渡されたのは、可愛くラッピングされた袋。

袋と菊丸を交互に見れば、菊丸はその瞳を、ス、と真剣なものに変えた。


「あいつが好きなんだ。だから、ごめん。」


あぁ、そっか。

あの、これ以上ない程丁寧に書いた『菊丸英二様』の意味は、

ちゃんと伝わってたんだ。

少し嬉しく思って、目を細める。


「うん。」

「…でも、お前に貰ったのが今までで一番嬉しかった。」


菊丸の一言に驚いて見開いた目に、ピクリ、と、

それまで微動だにしていなかった背が反応を示すのが映った。

それに思わず噴出すと、菊丸が不思議そうな顔をする。


「これからデート?」

「え、あ…うん。」


少し照れたように、困ったように、

でも心底幸せそうに、菊丸が笑った。


「そっかそっか。…仲良くね。」

「…サンキュ。」


菊丸のこんな顔、初めて見たよ。

良いもの見せてもらっちゃった。


「ありがとね、菊丸。」

「は?」

「手塚君も、ありがとね。

 いってらっしゃーい。」


ひらひら、と手を振りながら後姿に声をかけると、

手塚君は一度振り返って、気にするなと言うように軽く目礼をする。

あーらら。でも、私が遠目で見てもわかる位眉間の皺が深い。

そろそろ笑いが堪えられなくなってくすくすと笑っていると、

菊丸はまた不思議そうな顔に戻った。


「…何だよ?」

「ううん。手塚君待ってるよ、菊丸。」

「あ、おう。じゃーまたな。」


手を上げた菊丸に、返事が一瞬遅れる。


「…ん?どした?」

「あー…いやいや。またね、菊丸。」


またね、だって。

罪作りな男よねぇ…なんて思いながら、菊丸に手を振り返した。

私に背を向けた菊丸は手塚君に声をかけて、

一度二人で振り返って、二人で並んで、見えなくなる。


良かったね、菊丸。

多分来年は、手塚君からも貰えるよ。


やっぱり笑ってしまいながら、ゆっくりと玄関の戸を閉じた。





お返しの中身はそれはそれは美味しい手作りのクッキーで、

なんだか無性に負けた気がした、15の春。










了。




+コメント+

 補足のような、違うような。
 菊に「お前に貰ったのが今までで一番嬉しかった。」と
 言って欲しかっただけです。
 バレンタインで終わっておけば良かったのにーって方は、
 さらりと記憶から抹消することをお勧めします。
 相変わらず、自分が楽しければ良い感じです★
 失礼いたしましたー!

2006-03-14 茶瓜。








こっそり、補足の補足。


「なんか、機嫌悪くない?」

「…。」

「手塚?」

「気のせいだろう。」

「はっきり否定しないって事は、自覚あるんだ?」

「……。」

「やきもちですか?手塚君。」

「…わかっているなら、聞くな。」

「へーへーへーーー!!」

「気持ち悪い笑い方するな。」

「喜んでんのに。」

「………来年は、」

「うん?」

「来年は、俺も、やるから。」

「ん、楽しみにしてる。」





今度こそ、了。


まぁ、結局いつもどおりですね!はっはっは!