とてもとても、不思議な出来事。




























10月31日




























「Trick or Treat!!」


流暢な英語と楽しそうな笑みと共に差し出された小さな掌を見て、手塚は足を止めた。

目の前には、真っ黒なマントを羽織った小さな子供の姿。

練習試合帰りの夕方の街角。

ふと、今日はハロウィンだと部員が騒いでいたのを思い出した。


「おとーさん?」


目の前の幼い少年は、反応を返さない手塚を見ながら首を傾げる。

どうやら父親と間違えられたらしいと気付いた手塚は

周りで笑いを堪えている部員達をひと睨みした。


「あはははは!!!手塚ってば、隠し子ー?」


他の部員は必死で笑いを堪えているにも関わらず、大笑いしているのが一人。


「…菊丸。」


鋭く細められた手塚の目線など気にせず笑っているのは、菊丸英二。

手塚にとって唯一の存在…いわゆる、恋人というヤツである。

大笑いしたくらいで手塚が怒らないことを知っているので、英二は気にせず大笑いを続ける。


「いくらなんでも笑いすぎだってば。」


そう言いながらも肩を震わせている不二が英二の肩を軽く叩いて諫めた。

腹を押さえながらも何とか笑いをおさめ、ぴょこぴょこと飛び跳ねる勢いで幼い少年の前に来る。

制服のポケットの中から飴玉をいくつか取り出して、それを小さな掌に乗せてやった。


「Happy Halloween!!

 チビちゃんは迷子かな?コイツこれでもまだ子供なんだよね。一緒に交番行こっか?」


そう言った英二を見て、幼い少年は嬉しそうに笑う。

そして英二の手をぎゅっと握り、言った。


「ありがとう、おかーさん!!」


一瞬の間の後、今度こそ堪えきれない笑いが部員全員から溢れる。


「部長がお父さんでエージ先輩がお母さんッスか!!!」

「英二、いつの間に産んだの…?」


あふれる笑いを堪えようとせず、桃城と不二が英二に言った。

ぶんぶんと首を左右に振って英二は言葉を失ったまま否定をする。


「ち、チビちゃん。俺、お母さんじゃないよ…?」


男なんだけど…と英二が訴えるが、幼い少年は首を傾げた。


「えいじおかーさんとくにみつおとーさんじゃないの?」





その一言に、一瞬にして場が凍り付く。





誰も手塚の下の名を口に出していない。

英二なんて名前の女性などまずいない。

幼い少年は英二と手塚を交互に見ながら首を傾げている。


「手塚…どーゆー事よ?」

「俺が知るか。」


英二が引きつった笑いを浮かべて手塚を見ると、

手塚は眉間の皺をいくつか増やしてそう答えた。

英二はゆっくりと少年の目線に合わせるようにしゃがむ。


「えっと、チビちゃん。お名前、言えるかな?」


英二に話しかけられたのが嬉しかったのか、少年は嬉しそうに微笑みながら自分の名を名乗った。


「てづかこういちだよー。」


絶句。


「うわぁ…単純な名前の付け方だね、手塚。」

「…。」


英二と同じようにひきつった笑みを浮かべて不二が言うと、

手塚の眉間にいくつかしわが増える。


「おとーさん?」


困ったように首を傾げる少年に、手塚は小さくため息を付いた。

その手塚の仕草に、少年は焦ったように手塚の制服の裾を掴む。


「ぼく、なにかした?ハロウィンだめ?」


今にも泣きそうな少年を見かねて、英二は彼の髪を撫でた。


「手塚は怒ってるんじゃないよ。」


英二がよしよしと撫でながら優しく言うと、少年はふるふると首を左右に振る。


「おとーさんがためいきつくのは、こまってるときなの。」

「え…。」


まさにその通り。

手塚がため息を付くのは、困っている時と、心底呆れている時。

的確なその判断に、少年の髪を撫でる英二の手が止まる。

ふむ、と小さく声を出して乾は幼い少年を見つめた。


「本当にお前の子なんじゃないか?」

「そんな訳がないだろう…。」


手塚はその言葉に眉間のしわを更に増やして答える。

少年の歳を考えると実に無理があるし、そんな覚えなど当然ない。


「過去の過ち?」


酷く複雑そうな表情をして、英二は手塚に聞いた。

第一、少年の言う母親は英二だ。


「母親がお前なのにか?」

「あ、そっか。」


そう手塚が言うと、英二は少しホッとしたように笑みを見せる。

子供がどうこういう前に、生物学的に無理だということにどうして誰もつっこまないんだろう。

傍観者と化していた河村と大石と海堂はそう同時に思った。


「とにかく、部長の子じゃないなら親御さんを捜さないとッスよね。」


呆然と行く末を見守っていた桃城がそう言うと、英二と少年は同時に顔を上げる。


「おかーさんじゃないの?」

「うん、ゴメンな?」


よしよしと髪を撫でる動作を再開して、英二は少年に答えた。

その時、


「「光一っ!!!!」」


背後から少年の名を呼ぶ二つの声が響いて、少年は黒いマントをはためかして声の方へかけだした。


「おかーさんっおとーさんっっ!!!」


突然なくなった髪の感触に少し残念なような気がして英二は顔をゆがめる。


「何だ、やっぱり人違いだったんス…」


振り返った桃城の言葉が途切れた。

他の部員も驚いたように声を出さない。

手塚も珍しく目を見開いて固まっていた。


「何?どしたの?」


不思議に思って英二も少年の駆けていった方を振り返る。

そこにいたのは、


「やっぱこっちだったじゃんか、国光のアホ!!」

「見つかったのだから、良いだろう…。」

「ただいま、おとーさんおかーさん!!」

「お帰り、光一。」

「勝手にどっか行っちゃダメだろー!!」


優しく微笑んで少年を抱き上げる手塚と、

困ったように微笑みながら少年の髪を撫でる英二。

少年をあやす、随分と大人っぽい二人。


「うっそ…。」


呆然と見つめていると、どう見ても自分としか思えない人物と目があった。

にっこりと微笑まれて、びくりと肩を揺らす。


「この子が御迷惑をおかけしたようで、すみません。」


声すらも、自分とそっくりで。

英二は慌てて軽く会釈をして答えた。


「あの、」


全員が呆然としている中、不二が英二にそっくりな人物に声をかける。


「お名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


驚いて部員全員が不二を見ると、不二は探るような目線で英二にそっくりな人物を見つめていた。


「あぁ、失礼しました。手塚英二です。

 こっちは、手塚国光。

 本当に、御迷惑をおかけしました。」


一度手塚にそっくりな人物を指さした後、彼は一度頭を下げる。

横にいた手塚にそっくりな人物も少年を抱いたまま頭を下げた。

抱かれていた少年は、くいくいと手塚にそっくりな人物の服を引っ張ってその腕からはなして貰い、

ててて…と手塚の前に駆けて来る。

少し困惑したように手塚が眉間のしわを増やすと、

少年は嬉しそうに笑ってポケットにあった英二に貰ったものとは別の飴を手塚に差し出した。


「Happy Halloween!!」


手塚が飴を受け取ると、流暢な英語でそう言ってまた親らしき二人のもとへ戻る。

そして一度軽く頭を下げて、3人は雑踏の中に消えていった。


「…どう、なってんの…?」


英二の呆然とした呟きが響く。


「幻にしては、随分と大規模でリアルだね…。」


困惑した様子のまま、不二が答えた。

ざわざわと、部員達も意識を取り戻したかのように何だったんだと騒ぎ始める。

手塚は呆然とした頭のまま、少年に貰った飴を見つめた。

ぎゅっと握って顔を上げると、英二と目があう。


「手塚英二だって。」


そう言って苦笑している英二に、手のひらの中の飴を渡した。









とてもとても、不思議な出来事。

お菓子をくれなきゃ悪戯するよ!

お菓子をくれれば、見せてあげる。

それは、幻?

それとも…










了。




+コメント+

 微妙に間に合いませんでした…。

 なんのこっちゃな話でごめんなさい!!

 全然ハロウィンじゃないですねぇ…。

 彼らは多分、未来の塚菊…?

 子供ネタが書きたかったんですー!!

 す、好きなんですー!!ごめんなさぃぃぃーーー!!!

 深い意味などないので、どうにでも取っていただければ…。(汗)

 そんなわけで、

 Happy Halloween♪でした!

2004-10-31 茶瓜。