ガラクタと折り紙




























「光一っ!!!!」

「ひっっ!!!」


ひしっと足にしがみついてぎゅ、と涙目になった目を閉じている幼い子供と、本気で怒って子供を見下ろしているいい年の大人。

その二人に間に挟まれた手塚は小さくため息をついた。


「…英二。」

「だって…だって!!!」


問うように視線を向ければ、英二はちょっと涙目になって手塚を見上げている。

何に対して英二が怒っているのか見当もつかない手塚は、

取りあえず足下にしがみついている子供の手を解いて視線を合わせるようにしゃがんだ。


「光一?」

「うっ、うぇっ…。」


ゆっくりと髪を撫でてやると、涙目だった光一の目から、ぽろぽろと涙が溢れて来た。

ぎゅっと抱きついてきた小さな身体を抱き上げてやりながら、やっぱり涙目になったままの英二の頭をもう片方の手で撫でる。


「国光…。」


本気で悲しそうな目で見上げてくる英二に、手塚は苦笑を禁じ得ない。

ぽろぽろと涙を流しながらしがみついている子供と、何ら変わらないように見えるからだ。


「どうした。」

「…時計、壊れた。」


ぽつり、と呟いた英二の言葉に、手塚は意味を理解出来ず首を傾げる。


「時計?」

「一昨年、お前に貰ったヤツ。」


そこまで言われて気付く。

一昨年、英二の誕生日に手塚が英二に腕時計を贈ったのだ。

それが壊れたと、英二悲しそうに顔を歪めている。


「それで、どうして光一が怒られているんだ?」

「ふぇっ…」


自分の名が呼ばれた瞬間、腕に収まっていた光一の肩がピクリと震える。

その背を軽く撫でてやりながら、説明を求めるように視線を英二に移した。

涙目になって唇を噛みながら、英二は一度首を振る。

ゴメン。と小さく呟きため息をついて、英二は寝室のドアを開け、中に入った。

パタリと軽い音を立たドアに、光一の肩がもう一度震える。

ぐずぐずと泣いている背をもう一度撫でてやりながら、手塚は光一を床に下ろす。


「どうして英二が怒っているんだ?光一。」

「た、たから、ばこッさわったら、おち、て、がしゃんって…。」

「宝箱?」

「みた、ら、ばらばらって…。

 だめって、ゆってたのにっ…うぇぇぇぇぇーーー!!!」

「………。」


本格的に泣き出した光一に少々途方に暮れながら、手塚は何とか聞き取った単語で事の顛末を理解した。

取りあえず、さわるなと言われていた英二の宝箱を勝手にさわったら箱が落ちて、その際に時計が壊れてしまったらしい。

ゆっくりと光一をあやしながら、手塚は声をかける。


「さわるなと、言われていたのだろう?」

「ぅ、…うんっ。」

「悪いと、思っているのか?」

「…うんっ…。」

「英二に、謝ったか?」


ぐじゅぐじゅ言いながらも返事をしていた光一は、最後の問いには首を左右に振るだけにとどまる。

小さくため息をついて、手塚は光一の顔を上げさせてじ、と目を見つめた。


「悪いことをした時は謝るのだと、俺も英二もいつも言っているだろう?」

「、ぅん…。」


すん、と鼻をすすりながら、光一はこくりと頷いた。

英二が時計を大事にしていたのは知っている。

やった時に酷く嬉しそうに笑って、本当に特別な時にだけ身につけていたのだ。

やりすぎだと言うと、いいの!大事なんだから!と怒られた。


「謝れるな?」


目を見つめたまま手塚が言うと、光一はもう一度こくりと頷く。


「いい子だ。」


よしよしと手塚が頭を撫でてやると、光一は嬉しそうに笑った。

鼻水と涙でぐちゃぐちゃな顔を近くにあったタオルで拭いてやる。

くすぐったそうに笑っている光一の頭をもう一度撫で、ちょっと待ってろ、とソファに座らせた。


「…おとーさん…。」

「ん?」

「おかーさん、ぼく、きらい?」


また泣きそうに顔を歪めながら問われた問いに、手塚は一度苦笑した。


「そんな訳がないだろう。」

「…ホント?」

「あぁ。だから、ちゃんと謝るんだぞ?」

「うん!!」


嬉しそうに笑った光一を確認して、手塚は寝室のドアを2度、ノックする。


「英二、入るぞ?」


返事がないのを肯定と判断して、寝室のドアを開けた。

中を覗けば、英二が俯いてベッドに座っている。

その少し前には、部品が散乱している見覚えのある時計だったもの。


「英二。」

「…覚悟は、してたんだけどね。光一引き取った時から。

 ちっちゃい子って何するかわからないし。

 …それに、さ。」


言葉を続けようとする英二を手塚もベッドに座って抱き寄せ、続きを促した。


「俺、時計が壊れた事に気を取られて、光一の心配、後回しにしてた…。

 親失格だよね…。」

「英二…。」


頭を手塚の肩に押しつけて、服をぎゅっと握りしめている英二を見下ろしながら、

手塚は彼の髪を撫でる。


「それに気付いて情けなくって…。」


トントン、と安心させるように英二の背を撫でながら手塚がふと前を向けば、

ドアの隙間からこちらを覗いている不安そうな瞳と目が合った。

英二から手を放して部品を元の場所に戻した後、不思議そうな顔をしている髪をもう一度撫でて、

ドアから覗いている光一に手招きしてやる。


「おかーさんっ!!」


手塚の手招きに応じて駆け寄ってきて、ぎゅ、と英二の足に抱きついた光一が不安そうに英二を見上げていた。


「ごめんなさい…おかぁさん…。」

「ん…俺も怒ってゴメンな、光一。も、怒ってないからさ。」


足に抱き付いている光一の頭を撫でてやりながら、英二を見上げる光一に少し笑いかけてやる。

それに安心したのか、光一は更に酷く泣き出した。

ぐずぐずと泣き続けている光一を抱き上げて、英二はその背を何度も撫でてやる。


「怪我は、してない?光一。」


英二にひっつきながら、光一はぶんぶんと首を左右に振ってまた強く抱き付いた。

返事を見て少し安心したのか、涙でぐちゃぐちゃに濡れている光一の頬に、英二が唇を寄せる。


「良かった。」


側にあった、畳んだばかりの洗濯物のタオルを取って、こしこしと顔を拭いてやると、

光一は嬉しそうにされるがままになっていた。

手塚が光一の頭を撫でてやれば、光一は嬉しそうに手塚を振り返ってにへーと笑う。

その表情が、いつの日か…おそらく出会った頃の英二とダブった。

手塚が光一の額に唇を寄せれば、少し驚いた後で、やはり光一は嬉しそうににへーと笑った。

その様子を、少し驚いたように英二が眺めている。


「俺、国光が光一にキスしてんの初めて見た。ちょっとジェラシ〜。」

「じぇらしー?」


英二の言葉に反応して、光一が不思議そうに首を傾げた。


「国光と光一が仲良しで良いなーって話だよ。」

「!なかよし!!」


ね、と光一が手塚の方を向いて、にこーっと笑う。

一度頷いて頭を撫でてやれば、また嬉しそうに笑った。


「ところで、光一。どうして宝箱にさわったんだ。」


ふと手塚が問えば、光一は暫く考える仕草をした後英二の腕から放してもらい、

ととと、と居間に行ってなにやらしてまた寝室に戻ってくる。

す、と英二に差し出された小さな掌には、折り紙で作った『かたたたきけん』と何故か折り紙で作ったヨットがひとつ。


「あのね、おはなかえないし、むずかしかったの。だから、よっと。」


よくわからないながらもそれを英二が受け取って、説明を促すように光一を見遣る。


「ほんとは、たからばこのなかにいれて、びっくりしてもらおうとおもったんだけど…。」

「びっくり?」

「あのね、おかあさんのひなんだよ。ありがとうなんだよ。」


にこーっと嬉しそうに笑って光一は英二を見上げ、意味を理解した英二は目を思いっきり見開いた。


「母の、日…?」

「そう言えば…。」


自分らの両親には随分と前に贈り物を決めて当日着くように贈っていた。

その所為で、忘れていた。


「おかーさん?」


不思議そうに首を傾げる光一を、英二は思いっきり抱き上げる。

びっくりしておたおたと慌てている光一を、ぎゅぎゅぎゅーーーーっと思いっきり抱きしめた。


「いたいよ、おかーさん!!」


じたばたと暴れる光一を放してやると、途端に手塚の方へ逃げていく光一に英二は一度苦笑する。

手塚の足の後ろから顔だけ覗かせている光一の目線に合わせて英二もしゃがみ、

思いっきり微笑んで、ありがとう、と言った。


「いいえー!!」


すると嬉しそうに笑って、また英二のもとへとかけていく。

低い姿勢のまま抱き合っている二人の髪を撫でて、見上げる二人に手塚は笑みを浮かべた。
































「なぁ、国光。」


隣で寝ている英二の呼びかけに、手塚は顔だけ横に向ける。

おやすみなさい、と挨拶をして、光一が眠りについた後。

無言でいる事によって続きを促せば、英二が笑った気配がした。


「俺、今日お前に時計もらった時より嬉しかったかも。」


ぽつりと呟いた英二の言葉に、少しだけため息を吐きながら手塚も頷く。


「良かったな。」

「うん、めちゃくちゃ嬉しかった。凄く反省した後だったから、余計に。

 俺が親でも良いんだよーって、許してもらったみたいで。」


苦笑混じりに告げる英二の言葉に、手塚は一度だけ手を伸ばしてその髪を撫でた。


「光一は始めから、お前と俺以外を親と認識していない。」

「うん、そうなんだけど…。親なんだって、胸を張って言える自信なんてないから。」

「それは、俺だってそうだ。」


引き取る事を決めた時も、その後もずっと何度も何度も、これで良いのかを繰り返して。

いつだって迷って迷って。


「手塚もそうなんだ?」

「俺だって経験があるわけではないからな。」

「そっか。…ちゃんと、親子に見えてるかな?俺たち。」

「見えるだろう。少なくとも、光一はお前に似ているからな。」


手塚の言った言葉に、英二が少し目を見開く気配がする。


「似る…?俺と、光一が?」

「あぁ。笑い方がそっくりだ。昼間も、思わず中学の頃のお前とダブった。」


ひとつ頷いて英二を見遣れば、英二は手塚をじっと見つめた後でぽつりと言葉を落とした。


「…もしかして、それでキスした?」


その答えは、沈黙でのみ。

暫く沈黙が続いた後、英二が手塚の頬へ手を伸ばす。


「…大好き。」


久しく聞く告白の言葉に、手塚は少しだけ目を見開いた。

伸ばした手をぎゅ、と巻き付けて、英二は手塚に抱き付いて笑う。

そっと抱き返してやりながら、手塚は昼間、光一にした場所にキスを落とした。


コンコンコン


小さくノックの音が響いて、英二が先に起き上がる。


「光一、どした?眠れない?」


開いた扉の前にいた光一は、小さく首を振った。

英二と、ベッドにいた手塚を見て、いつも一緒に寝ている大きなぬいぐるみに顔を隠しながら、小さく言葉をつむぐ。


「いっしょにねてもいい?」


思わず手塚を振り返った英二と目を見合わせて笑い、手塚は少し、身体を横にずらした。

英二は光一に向き直って、ぬいぐるみに隠れた髪を小さく撫でて笑う。


「…今日は、特別な?でも、大五郎にはお留守番してもらわないとねー。」

「おいてくる!!」


とてとて、と走って自分の部屋にぬいぐるみを持っていくのを見送って、

手塚と英二はもう一度目を合わせ、幸せに笑みをこぼした。





宝箱の中には、壊れた時計と、折り紙のヨットと肩たたき券。









end.




母の日、との事で子供ネタ第2弾。苦手な方はごめんなさい。
子供いてもあくまでラブ甘バカップル。
でもってラブ甘親子です。スキンシップは母親(笑)の意向で多め。
子育ての悩みは茶瓜にゃさっぱりわかりません。お疲れさまです、世の奥様・お母様方。
本日ばかりは、母上に感謝。
因みに、国光はキスは愛する妻(笑)のみにするものだと信じて疑わないお馬鹿さんです。
だからちょっとバツが悪いのです。
でも、英二が抱いた子に国光がちゅーする図は可愛いと思います。…あ、痛い妄想ですか。そうですか。
えっと、とにかく、母に感謝!なのです。
お粗末様でした。

2005-05-08 茶瓜。

1日遅れどころか2日遅れ。世の中のお母様方すみません!!

2005-05-10 茶瓜。