今更のように込み上げるモノ。


「      」


誰もいない部室に響く、声。




























月影。




























辺りは真っ暗で、明かりが灯っているのはここと職員室だけ。

恋人に別れを告げた。

好きではなくなった。そう言って。

けれど、


「      」


呟いた声は君には届かない。

別れを告げたのは、他ならぬ自分。

手塚は筆記用具を筆箱にしまうと、ゆっくり立ち上がる。

筆箱を鞄へ入れて、蓋を閉めた。



ガチャ。



ドアの開く音に少しだけ手塚の肩が反応する。

振り返ると、生意気な一年ルーキーの姿。


「部長。」


彼の声は硬い。


「どうした。忘れ物か、越前。」


ポーカーフェイスなどいつもの事。

いつも通りの無表情で手塚が声をかけると、越前は手塚を見上げじっと睨んだ。

手塚よりも随分と身長の低い彼は、それを思わせない程に強い目をしている。

逸らす事なく見返していると、越前は手塚を睨んだまま、一言


「あの人は俺が貰います。」


そう言った。

あの人…とは、手塚の元恋人の事だろう。

じっと見返したまま手塚が何も反応を返さないでいると、

越前は焦れたように小さく舌打ちをした。


「…話の内容が見えないな。」


やっと目を逸らしてそう手塚が言うと、越前は「そうスか。」と言って部室を後にする。

パタリと閉まったドアを暫く見つめ、

手塚はゆっくりと鞄を担いで越前と元恋人の出て行ったドアのノブに手を伸ばした。



ガチャ。


パタン。



黄色の薄暗い光に照らされる。


「…英二。」


もう二度と呼ぶことの出来ない名前を月影に。

誰よりも想っている元恋人への気持ちを月影に。

薄暗いその光にこの感情を。

背に感じるドアの冷たさを際立たせるような月影に全てを預けて。


好きなら良かった。

好きではなくなった。

誰よりも、何よりも、ずっとずっとずっと。

狂おしい程の想いで縛ってしまう前に。

縛ってしまう位なら、傷付けてしまう位なら。

手を、離す。


月影に照らされて、こんな想いなど消えてしまえばいい。





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