真っ白な雪の中に小さな花びらを見付けたらしく、

俺の前を歩いていたそいつは嬉しそうにしゃがみ込んだ。




























冬。




























「椿か。」

「だね。上で咲いてるし。」


純白の中にある白は、一見しただけでは見付けることが出来ない。

けれど、確かに雪の上に存在しているそれは、雪の欠片のように見えた。


「雪のようだな。」


そう言った俺の言葉に、

そいつ…菊丸は酷く驚いたように俺を振り返った。


「手塚って意外とロマンチストにゃんだねぇ。」

「そうか?」

「そうだよー。あーでも、確かに!!雪のカケラって感じ!!」


そしてまた、嬉しそうに笑う。

明らかにタイプの違う俺たちが何故二人で歩いているかというと、

「雪だよ手塚!!一緒に帰ろう!!」

と、部室で積もっている雪を眺めていた菊丸が突然言ったからだった。

当然、雪が降ればテニスコートは使えない。

よって、部活も基礎訓練だけになって早く帰ることになるのだ。

だからといって、何故、

コイツが俺を誘うのかはさっぱりわからなかった。

俺よりも大石や不二との方が、仲が良いだろうに。


「手塚?」


俺が考えにふけっていると、菊丸が俺を不思議そうに見上げていた。


「あぁ。すまない。」


我に返ってそう言うと、菊丸はにこりと笑って俺の肩をぺしぺしと叩く。


「うんにゃ。毎日大変だからねー。」


そう言って、また椿を眺めはじめた。

それにつられて俺もそれを眺める。

しばらく沈黙が続いたが、俺はそれが嫌ではなかった。


「な、手塚。」


沈黙を先に破ったのは菊丸だった。

俺は返事はせず、顔だけ菊丸に向ける。


「ずっとさ、手塚に言いたかったことがあんだけど。」


そう言って、菊丸は椿に向けていた視線を上げ、俺に向き直った。


「何だ?」


何を言われるのかさっぱりわからなくて、そう聞き返す。


「俺さ、前乾に聞かれたとき手塚のこと好きだって言ったよな?」

「あぁ。言ったな。」


以前、乾が菊丸に俺のことが好きか聞いたことがあった。

おそらく、他と比べて菊丸お得意のスキンシップが俺には少ないからだろう。

その問いに、あっさりと菊丸は

「好きに決まってんじゃん!」と答えていた。


「アレさ、訂正して良いかな?」


そう言われて、体が強張るのが自分でわかった。

俺のことが嫌いになったのだろうか。

しかし、それならわざわざ一緒に帰ろうなんて言いやしないだろう。

そう考えていた俺に向かって、


「俺ね、手塚が大好きなんだ。」


いひ、と。

少し照れたように笑って菊丸は言った。


「菊丸?」

「そんだけ!」


意味を確かめようと聞き返すが、菊丸は話を切るように立ち上がった。

体の力が抜けていくのが自分でわかる。

俺は、嫌われていないことに酷く安心している自分を見付けた。

嫌われて嬉しいわけもないけれど、それとは少し違う。

答えは、心の奥底に埋まっていた一つの感情。


「帰ろ!!」


にっと笑って言った菊丸の顔が赤いのは、

寒さの所為だけではないだろう。


「菊丸。」


歩き出そうとする菊丸を呼び止めて、


「ん?」

「俺もだ。」


それだけ伝えて前にいた菊丸を追い越した。


「て、手塚!?」


焦って俺に追い付く頃には、きっと答えもはいだしてきているだろう。

奥底にあった感情は意外にも昔からあったらしく、上に積もったモノも多いけれど。

はいだす準備をしていたのか時間はかからなさそうだ。


「な、ちょ、今の、どーゆー意味!?」

「お前と同じ意味だが?」

はぐらかすように答えを返す。

お前が告げるのが先か、それが顔を出すのが先か。

白の中の白を見付けられるお前なら、

きっと、顔を出した瞬間に救い出してくれるだろう。

自分の考えに少しだけ笑って、俺は尚も聞き出そうとする彼の

赤茶の髪を一度撫でた。






もう少しで出てくるから、

気持ちのかけら、君に、一番に見付けて欲しい。




















end.