Decoy’s present.




























「手塚国光君。」


そう呼んで俺の席に駆け寄ってきたのは、元部活仲間(引退した為)兼、恋人な菊丸英二。

場所は、といえば、昼休憩で少し賑やかな3年1組…俺の教室。

席に着いている俺の前に立つ彼の瞳は、楽しげに細められている。

こんな瞳をする時は、大抵俺にとってあまり良くないことを考えている時だ。


「何だ。」

「誕生日おめでとうございまーす!」


パチパチパチ、と拍手をしながら菊丸は笑顔で言った。

何故敬語なんだ、というのは指摘してはいけないことなのだろうか、と思いつつ、

ひとまずはありがとう、と言う。

本日の日付は10月7日。…俺の誕生日だ。

朝から色々な人からプレゼントを渡され少し疲れていたので、

菊丸の顔を見る事が出来たのは喜ぶべき事だけれど…

その、明らかに企んでいる表情が気になる。


「誕生日で15歳になった国光君に、

 今、一番必要なモノをプレゼントしたいと思います。」


その上、この発言だ。

その必要なものが何なのか、さっぱり見当が付かない。

にーーーと笑いながら、菊丸は俺の方を向いていた顔を

何だ何だと興味深げに見守っていたクラスメイトに向ける。


「お前ら、写メの準備しとけよ!」


何だって?

菊丸の言葉を聞くと同時に、持っていた者は期待に瞳を輝かせながら携帯を取りだした。


「おい、菊丸。お前…。」

「あ、座ってろよ、手塚。動いちゃ駄目だかんな!」


どこまでも、菊丸の機嫌は良い。


「何をする気だ。」

「誕プレ渡すんじゃん?手塚にとって一番必要で、一番嬉しいもんだよん。」


クラス中の視線と、

廊下にいた俺にプレゼントを渡そうとしている女子+αの視線が、俺と菊丸に集中している。

居心地が、もの凄く悪い。

眉間に皺をくっきり刻んで、立っている菊丸を見上げた。

慣れているのか予想していたのか、菊丸に気にした様子はない。


「眼鏡取るよー?」

「何故。」

「邪魔だし。」


にっこにこと笑みながら、不機嫌を顔の全面に出している俺から眼鏡を取る。

その時点で携帯で写真を撮ったであろう音がいくつか響いた。


「勿体ないからホントは眼鏡取った顔見せたくないんだけどねー。」


俺だけに聞こえる小声で菊丸が言う。


「だったら、しなければいいだろう。」

「だって邪魔だし。」


先程と同じ理由を言って、菊丸が俺に笑顔を向けた。

視界がぼんやりとして、菊丸はともかく、周囲はあまりよく見えない。


「俺さー前から邪魔そーだなーって思ってたんだよねー。」


眼鏡のことだろうか、と思いつつ、俺の誕生日と何の関係があるのか疑問を深めながらため息を吐き、

もう好きにしろ、と呆れた視線を向ける。

それにやはり笑顔を向け、菊丸は学ランの胸ポケットから鮮やかな色のリボンを取り出した。


「じゃーん!」


おぉーーー!!

何故か起こる歓声。


「何をする気だ。」

「だから、手塚にとって一番必要なこと!!

 即ちプレゼント第一弾は…。」


ニヤ、と意地悪げに笑い、菊丸は俺の前髪に手を伸ばした。


「良好な視界!!」


抵抗する間もなく、呆然としている間に持っていたリボンで前髪を括られてしまう。

ぼやけた視界の上の方で、前髪の先がふわふわと揺れた。

自分の姿が見えるはずもないが、間違いなく滑稽な姿になっているだろう。


「っ、菊丸!!」


その証拠に菊丸がリボンを結んだ瞬間、周囲からいくつも吹き出す音が聞こえた。

同時に、写真を撮ったであろう音も。

周囲がぼやけて、楽しそうな菊丸以外殆ど見えないのは唯一の救いかもしれない。

咎めるように名を呼んで、取ってしまおうと手を伸ばす。と、

ぎゅう、とそれを抑えるように菊丸が俺の手を握った。

塞がれた両手に力を入れながら頭上の菊丸を睨んでも、

菊丸は心底楽しそうににやにやと笑っている。


「手を、離せ。菊丸。」

「視界良好だろ?ずーっと邪魔そうだなーって思ってたんだよ、その前髪。

 うわー!俺って親切!!」


そんなことを言いつつ菊丸は後ろを振り返り、

ほら!シャッターチャンス!!頭にリボン付けてマジ切れな手塚!!と言った。

同時にくすくすと小さく笑いながら、もう一度写真を撮る音が響く。


「何の嫌がらせだ、菊丸…!!!」

「やーだなー手塚。誕プレだって!その1が良好な視界ね。」

「そんなモノ必要ない!!早く解け!眼鏡を返せ!!」


未だに握られたまま、俺の顔の下あたりでギリギリと攻防を続けている手を

机の上に置かれた眼鏡にのばそうとすると、そうはさせるか、と菊丸が手に力を込める。


「お前な…!!!第一、眼鏡がなければ良好な視界な訳がないだろう!!」

「だって、邪魔だもーん。

 って訳で、誕プレ第2弾。」


そう言うとにひ、と笑い、ずっと入れたままだった手の力を、突然抜かれた。


「おいっ…」


力を入れすぎていた所為で、ガタ、と椅子が揺れる。






同時に、眉間に柔らかな感触。






しん、と、それまでうるさい位だった教室が静まり返った。

ピタリと動きを止めた俺を、少し柔らかい表情の菊丸が見下ろしている。

そしてくるり、と後ろを振り返って、言った。


「シャッターチャンスその2。呆けた手塚ね。」


ぎゃーーーーー!!!!!!!!


途端、静まり返っていた教室が絶叫に包まれる。

呆然としている俺を、にぃ、と笑って舌を出した菊丸が見下ろした。

瞬間、顔に熱が集まるのを感じる。

ガタッ、と大きな音を出して、椅子から立ち上がった。

教室がまた静まり返る。


「菊丸ッ!!!!!!!」


今まで出したどの声よりも大きいのではないのか、という程の声で、菊丸の名を叫んだ。

当然のように、俺の眉間にはくっきりと皺が寄っている。


「プレゼント第2弾は皺のない眉間だったんだけど、失敗?」

「当たり前だ!!何を考えている!!!」


にっこにことやはり笑んでいる菊丸が何を考えているのか、さっぱりわからない。

うーん、残念。と言いながら、菊丸はまた後ろを振り返った。


「顔真っ赤な手塚もシャッターチャンスかもよ?」


撮らないの?という一言に、しんとしていた教室から、ぷ、と小さく笑い声が漏れた。

それをきっかけに、それまでおかしかった空気が一気に元のものに戻る。


「菊丸、お前やりすぎだろー!!」

「手塚君可哀相だよー。」

「あー、マジびびったー。」


クラスメイトが苦笑を浮かべて俺と菊丸を見ていた。


「えー面白いだろ?手塚。」

「手塚からかうなんて、お前にしか出来ねぇよなー。」

「誕生日スペシャル!だかんねー。」


今起こったことを冗談と処理したらしい。

とりあえず、未だ呆然としている頭でそれだけは理解した。


「手塚、元気出せー。」


ポン、と、クラスメイトに肩を叩かれる。

あ、あぁ。と、少しどもった声を返せば、また教室内に笑いが起こった。

呆然としている俺を見上げて、菊丸はニコ、と笑う。


「ってな訳で、菊丸英二から手塚国光への誕プレ、しゅーりょー!!」


お粗末様でした、と頭を下げ、菊丸は俺の前髪を結んでいたリボンを解いた。

それから取った眼鏡をかけ直させ、前髪を元の形に手櫛で戻す。


「これは手塚にあげるね。」


はい、と無理矢理先程のリボンを胸ポケットに入れられ、

じゃぁねー!と、嵐のように菊丸は帰っていった。

胸ポケットから少し出ているリボンを見て、またクラスメイト達は笑っていた。




























「一体、何だったんだ。」


午後の授業も休憩時間も、俺はずっとクラス中、

もしくは噂を聞いたらしい廊下からの視線に耐えて一日を過ごした。

それもこれも、全て菊丸が原因に違いない。

何がしたかったのか、何の為にあんな事をしたのか、考えてみてもやはりわからなかった。

第一、恋人へのプレゼントがアレとは、どうなんだ?と、さすがの俺でも思う。


「手塚ー。」


靴に履き替え、帰ろうとしたところで呼ばれた声に振り返れば、

原因がやはり笑顔で立っていた。


「何の用だ。」

「あ、ひでー。一緒に帰ろーと思ったのにさー。」

「断る。」


これ以上何かされてたまるかと思ってそう言うと、菊丸は笑顔を少し歪める。


「…早くしろ。」


その顔に絆され、ため息を吐いて言うと、菊丸は安心したようにぱっと笑顔を浮かべた。


「ん、待ってて。」


たいがい俺もあいつに弱い。

そう考えながら小さくため息を吐いたところで、

靴に履き替えてきた菊丸が帰ろう、と手を出した。

眉間に皺を寄せて見ると、ニコ、と笑んだ菊丸が無理矢理俺の手を掴む。

そしてそのまま振り払おうとする俺を無視して歩き出した。

小さな笑い声やからかいの声が届き、それに菊丸は一々答えながら歩く。


「おー、菊丸!今度は下校デートか?」

「そーだよん!何なら一緒にどー?」

「嫌に決まってんだろ!手塚からかうのも大概にしろよー。」

「ほいほーい!」


楽しそうな会話だが、内容が内容だけに眉間に皺が寄る。

俺はその場から早く去ってしまいたくて、足を出来るだけ早めた。

暫く歩いて誰も青学の生徒がいなくなったところで、やっと速度を緩める。


「何を考えているんだ、お前は。」


厳しい顔でそう問えば、菊丸は困ったように笑った。


「言っておくけど、からかった訳じゃないからな。」


その声に少し拗ねたような色が混ざっていて、少し驚く。

答えを促すようにじ、と見ると、菊丸はだって、と言って少し俯いた。


「あぁやってさ、目立っちゃえば、逆にいっかなーと思って。」

「何がだ。」

「あの時間はあんまり女子からプレゼント渡されないですむし、

 堂々と手を繋いで一緒に帰れるっしょ?」


俺だとみんな冗談だと思うし。と

困ったような、拗ねたような、でも嬉しそうな、複雑な顔をして菊丸は笑った。

グイ、と引き寄せれば、あっさりと菊丸は腕の中に収まる。


「お前がやったら冗談だって思われないじゃん。」


少し困ったような声が響いたけれど、声だけで抵抗はない。

菊丸の言葉は無視して、少し強く抱きしめる。


「…ゴメン。」

「もう良い。」


耳元で響く声に返事をして、身体を離した。


「帰ろ。ちゃんと用意してんだ、プレゼント。」

「そうか。これだけかと思ったんだがな。」


胸ポケットからリボンを取り出せば、菊丸は楽しそうに笑う。

それを菊丸に手渡すと、指にくるくると巻いて遊び始めた。


「似合ってたよ、手塚。」

「馬鹿言え。いい笑い者だろう。」

「ホントだって。基本的に美人さんなんだからさ。」

「嬉しくない。」

「だろーね。」


あはは、と、笑いながら菊丸は前髪を持ち、リボンで結んでみせる。


「似合う?」


その問いには返事をせず、間抜けに開いたその額に唇で触れた。

菊丸は驚いたように瞳を見開いて、少し照れた顔でまた笑う。


「誰かいたらどーすんだ、ばぁーか。」

「一応確認はした。

 帰るぞ。寄って行くんだろう?」

「モチ!」


上機嫌げに手を繋ぎ直して、足を一歩前へ。

少し進んで振り返った菊丸は、満面の笑み。


「誕生日おめでと、手塚!」

「ありがとう。」


正直明日からの学校生活が気になるが、とりあえずは、今日くらいは、

その本音に免じて、誕生日で、菊丸が一つ年下になったのに免じて、


「大好き!」

「あぁ。」


特別に、許してやろうと思う。









終。




+コメント+

 無駄な位ガキくさいのも好きです。
 塚にリボン(ピンクのチェックだったりするとなお良し)は、お祝いな感じで。(黙れ!)
 付き合ってるってわかって見れば、バカップル以外の何でもないです。
 例え国光少年が本気で嫌がっていても。(笑)
 かなり間抜け、国光少年。本気で怒って叫んでても、ちょんまげがふわふわ揺れてます。
 …ぷぷ。いや、悪いのは私ですが。
 これでも祝ってるよ!そりゃもう祝ってるよ!!
 大丈夫、私は人間キャラで君が一番好きだよ!多分!!
 誕生日おめでとう!手塚国光!!でした。

2005-10-07 茶瓜。